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まともな人から名文は生まれない《今週の三題噺発表》

 
自分の「変」な部分を客観視できた人から、文章はおもしろくなる。

これはほぼ法則じゃなかろうか。重力くらい確かかもしれない。リンゴが落ちるように、変な人の文章は落ちずに跳ねる。

若い頃、「自分は特別だ」「自分には何かしらの才能がある」と思い込む。だれも「いや、あなたふつうですよ?」と教えてくれなくて、いつしか気づく。「ああ、私って、何者でもないんだ」と。

そこから「どうせふつうだし」が染み込むわけで。もう何も求めない望まない願わない。そうやって大人になっていくわけです。

で、多くの人は、そんな自分を写真立てに入れます。せめてきれいにトリミングし、笑顔を固定し、「これが私です」と飾る。

けどね、文章がおもしろくなる人はやっぱりどこか違う。写真立てに入りきらなかった耳の角度や、妙に主張の強いほくろや、なぜか毎回ブランコを全力で漕いでしまう衝動まで、全部原稿に出す。

自分はふつうだと思いつつも、自分の「人との違い」「ちょっと変じゃない?」ってところを自覚している。

ブランコを漕ぎすぎる人間は、だいたい変です。公園で一人、必要以上に振り幅を出し、風を切り、「まだいける」と歯を食いしばる。
誰も競っていないのに。

そのやりすぎこそが物語になる。

自分の変な部分とは、他人から見れば「なぜそこ?」というこだわりです。カフェオレを頼むとき、必ず砂糖を3回だけかき混ぜるとか。返信メールを送る前に必ず3回読み直し、4回目で誤字を増やすとか。

普通は変を隠す。
まともに見られたいから。

けどね、文章はまともな人の味方をしません。ほんの少しズレた人の肩に手を置くのよ。

変な部分を客観視するとは、自分をブランコに乗せたまま、もう一人の自分が砂場から眺めている状態。

「あ、今また全力で漕いでる」
「必要以上に高く上がってる」
「しかも誰も見てないのに」

この螺旋構造が、文章を立体にする。

自分の変さを自覚していない人の文章は、平面なんです。まっすぐで、きれいで、けどどこにも引っかからない。

一方、自分の変さを笑える人の文章は、角がある。読者の指に少し触れる。「あ、これ私もやっちゃう」と思わせる。

変さとは、欠陥ではない。
拡大すると、個性になる。

たとえば、なぜか集合写真でいつも半目になる人。その事実を隠すのではなく、「私はなぜか人生のシャッターとタイミングが合わない」と書ける人は強い。

写真立てに収まらない瞬間を、あえて切り取る。

そこに、可笑しさが生まれる。

カフェオレは、コーヒーでも牛乳でもない。
その中途半端さが魅力です。

人も同じ。完全な善人でも、完全な変人でもない。微妙な配合。絶妙な濁り。

その濁りを、きれいに濾してしまうと、文章は水になる。透明だし味がない。

自分の変な部分を客観視できる人は、その濁りをそのまま出す。しかも「ほら、ここ濁ってますよ」と指差して。

読者は安心するんです。あ、自分だけじゃなかった、と。

狂気とは、異常なことではなく、
日常を過剰に拡大することだ。

ブランコを漕ぎすぎる自分。
写真立てに入りきらない自分。
カフェオレのように混ざりきらない自分。

それらを顕微鏡で覗き、言葉にする。

客観視は一歩引いて、愛を持って笑うこと。

「私、ちょっと変だよね」と言える人は強い。もう隠す必要がないからね。

隠し事のない文章は、風通しがいい。そして風通しのいい文章は、だいたいおもしろい。

自分のズレを探してみてほしい。ブランコの揺れ幅を記録して。写真立てからはみ出した部分を拡大するんだ。カフェオレの泡の崩れ方を観察しよう。

「変」を客観視できた瞬間、あなたの文章は、ようやく笑い始める。
 

《前回の三題噺》
1.ブランコ
2.写真立て
3.カフェオレ

説明しよう!三題噺とは、まったく関係のない3つの言葉を強引にひとつの話にまとめる文章遊びであーる。頭をフル回転させながら、「どうつなげる?」「オチどうする?」という落語的プレッシャーが味わえます。エピソード構成力、語彙力、そして無茶ぶり耐性まで育つ、文章版・筋トレRPG。それが三題噺。やってみなきゃ、もったいない!

《今週の三題噺》
1.目薬
2.やきとり
3.落石注意

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[画像協力:さちわ]

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