万人ウケを捨てる文章論《今週の三題噺発表》
文章を書き始めるとき、多くの人は「万人にウケたい」という邪念に支配されます。邪念?本能かもしれない。
多くの人にウケたいってのは、M-1グランプリの決勝で、審査員も観客もスポンサーも、とつぜん実家の親戚まで審査員席に並んでしまったような圧。
全員にウケようとして、結果的に誰の笑いも取れなくて、最終順位は「海に消える泡」みたいになってしまう。
でもさ、そんな泡は、海に帰す前に、まず「たった一人」に刺さる刃に鍛え直すべきだ、と思うんです。
満月の夜に自転車でコンビニへ向かうとき、妙に自分語りをしたくなる瞬間がありますね。あれこそが文章のヒント。
あの時、人は誰に向けて語っているんでしょう?フォロワーさん?違う。元カノ?違う。
たった一人の脳内の聞き役に向けて話しているはずなんです。
つまり書くとは、巨大劇場でマイクを握ることではなくて、満月に向かって缶チューハイを掲げながら「今日のハンバーグを焦がした」と言うような、あの極小の親密さ。
たった一人が「わかる」とつぶやく。その瞬間に文章は刃を持つんで。
けど世の中には、「みんなに読まれる文章こそ正義」と信じる人がいます。まぁ、わかるけどらそういう人を私はサザエさん方式と呼んでいます。
日曜の夕方に家族みんながこたつで見る、それは昭和の象徴。あの安心感こそ至高。
もちろんその価値も否定しません。サザエさんはもう国宝級なんだもの。
でもさ、あなたが今から二代目サザエになれるわけがない。フグ田化は不可能。
なら、こたつから抜け出して、コタツのコードを首に巻きながら「誰かに刺されば十分」と呟くほうが、文章は鮮度を保つんです。
この方法を「選ばれしひとり方式」と呼んでみましょうか。
自分の文章に救われるのは一人でいい。一人の読者を椅子に縛り付け、その人がのたうち回りながら「わかりすぎて苦しい」とわめく。それで十分なんです。
他の読者がクレームを言ってきたら、「そもそとあなたの席は用意してないのよ」と答えればいいから。
万人に配慮するくらいなら、わがままに特化する。友達が減る?いいんだよ、別に。
M-1グランプリで最下位だった芸人が、その後地下ライブでひとりの高校生に刺さり、人生を変える、そういう勝利だってあるんだからさ。
文章論の本質とは、点に向けること。線ではなく、面でもなく、点。その点が読む。あなたが点を狙うから、点は撃ち抜かれる。逆に、面を狙えば、弾は散るのよ。
結局のところ、私たちは世界を相手に書く必要はないんだ。部屋の押し入れにいる架空の小学生ひとりを相手に書けばいい。
押し入れの暗闇に向かってメッセージを書く。それは狂気。だけどその狂気こそ精度を高める。
文章とは、満月の光で透かして読ませるラブレターだ。
読み手が一人だからこそ、手紙は力を持つんです。たくさんに読まれた文章は風に薄まり、ひとりに読まれた文章は石になる。
石を作る職人になろう。石は投げれば当たる。投げれば刺さる。投げたら捕まる?大丈夫。読者はたった一人だから、証言者も一人。しかもその一人は刺さって倒れているから、証言できない。
だから書いてみよう。
たったひとりの脳内住民に向けて。
決して笑いを量産しようとしない。
たった一人が、満月の下で深呼吸するように、静かに笑う。
それこそが文章の勝利なんだから。
万人に向けた言葉は広告。
ひとりに向けた言葉は刃。
刃は強い。
刺されば動けない。
動けないから、読んでしまう。
それでいい。
それがいい。
たったひとりを倒す。
文章は、それで完成するんだよ。
《前回の三題噺》
1.M-1グランプリ
2.満月
3.サザエさん
説明しよう!三題噺とは、まったく関係のない3つの言葉を強引にひとつの話にまとめる文章遊びであーる。頭をフル回転させながら、「どうつなげる?」「オチどうする?」という落語的プレッシャーが味わえます。エピソード構成力、語彙力、そして無茶ぶり耐性まで育つ、文章版・筋トレRPG。それが三題噺。やってみなきゃ、もったいない!
《今週の三題噺》
1.サンタクロース
2.時計の針
3.中華料理店
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[画像協力:さちわ]
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