映画【裸の銃(ガン)を持つ男】笑いは継承できるのか? 作品が突きつけたコメディ映画の難題
映画史を振り返ると、アクションヒーローやスーパーヒーローは世代を超えて受け継がれていく。
ジェームズ・ボンドは何度も俳優を替えながら生き続けてきた。
バットマンもスーパーマンも時代ごとに新たな解釈を与えられ、その度に観客を魅了してきた。
しかし、コメディ映画には一つ大きな問題が存在する。
「笑い」は時代とともに変化するのである。
そして何より、コメディ映画はキャラクター以上に演じる俳優の個性に依存する。
2025年版『裸の銃を持つ男』を観ながら、真っ先に感じたのはそのことだった。
本作は1988年に公開されたコメディ映画の金字塔『裸の銃を持つ男』シリーズの続編にあたる作品である。
主演を務めるのはリーアム・ニーソン。
彼が演じるのは、かつてレスリー・ニールセンが演じたフランク・ドレビン警部補の息子、フランク・ドレビン・ジュニアである。
インターネット上ではリブート作品として紹介されることも多いが、実際には旧シリーズの世界観を受け継ぐ続編という位置付けに近い。
そのため過去作品を知っている観客には数多くの小ネタが用意されている。
一方で、予備知識がなくても物語そのものは理解できるよう作られているため、新規観客への配慮も感じられる。
だが本作を語る上で避けて通れないのが、レスリー・ニールセンという存在だ。
1988年版をはじめとするオリジナル三部作は、確かに脚本も優れていた。
しかし最大の魅力はフランク・ドレビンというキャラクターだった。
そしてそのキャラクターを成立させていたのがレスリー・ニールセンの演技である。
彼の笑いは決して大げさではなく、むしろ真面目そのものだった。
本人は一切ふざけていない。常に本気である。
だからこそ周囲で起きる馬鹿馬鹿しい出来事が何倍にも面白く見えた。
彼は観客に向かって笑いを取りに行かない。
真剣に演じることで笑いを生み出す。
それがフランク・ドレビンだった。
一方、本作で主演を務めるリーアム・ニーソンはどうか。
俳優としての実力に疑いはない。
『シンドラーのリスト』では重厚なドラマを演じ、『96時間』シリーズでは高齢アクションスターとして新たな地位を築いた。
近年のハリウッドを代表する名優の一人であることは間違いない。
しかし、その強烈なイメージが本作では逆に足枷となっている。
観客はどうしても彼を見た瞬間に「強い男」を連想してしまう。
そのためコミカルな場面になっても、どこか違和感が残る。
もちろん本人は懸命にコメディへ挑戦している。
実際、表情や間の取り方にも工夫が見られる。
だがレスリー・ニールセンが持っていた独特の天然性には届いていない。
言い換えれば、フランク・ドレビン・ジュニアというキャラクターを演じているのではなく、「コメディを演じるリーアム・ニーソン」を観ている感覚が最後まで消えなかった。
本作の評価が分かれる最大の理由はそこにあるだろう。
また笑いそのものも懐古的である。
ドタバタ。勘違い。視覚的ギャグ。下ネタ。
1980年代から1990年代にかけてハリウッドで数多く作られたパロディ映画の系譜に属する笑いだ。
当時ならば爆笑を誘ったネタも、現代では既視感を覚える場面が少なくない。
これは作品の責任というより、時代そのものの変化である。
SNSや動画配信サービスによって笑いの消費速度は圧倒的に速くなった。
かつて映画館で大爆笑だったネタが、現在では数秒の動画として日常的に流通している。
そのため同じ手法では観客を驚かせにくくなっている。
それでも本作がアメリカで高い評価を獲得しているのは興味深い。
批評サイトでは非常に高いスコアを記録しており、多くの観客から支持を受けている。
これは作品の質というよりも文化的背景の違いが大きいのかもしれない。
『裸の銃を持つ男』はアメリカ人にとって特別なシリーズである。
日本人にとっての『ドリフターズ』や『裸の大将』に近い存在と言えるだろう。
幼い頃に親しんだ笑いへの郷愁が評価を押し上げている可能性もある。
一方、日本では劇場公開されず配信中心となった。
その判断には市場規模や配給戦略など様々な要因が絡むため一概には言えない。
ただ、日本におけるシリーズ認知度を考えると、劇場公開のハードルが高かったことは想像できる。
本作を観て改めて感じたのは、コメディ映画の続編制作がいかに難しいかということである。
アクションやSFは技術進歩によって進化できる。
しかし笑いは時代とともに変わる。
さらに主演俳優の個性に大きく左右される。
だからこそ名作コメディの続編は成功例が少ない。
本作は決して駄作ではない。
むしろ製作陣はオリジナルへの敬意を持って丁寧に作っている。
しかし同時に、レスリー・ニールセンという唯一無二の才能を改めて実感させる作品でもあった。
『裸の銃を持つ男』はシリーズの復活作であると同時に、「笑いは継承できるのか」という問いを観客へ投げかける映画でもある。
その答えは人それぞれだろう。
だが少なくとも一つだけ確かなのは、フランク・ドレビンという伝説的キャラクターが、今なお多くの映画ファンに愛され続けているという事実である。
【2025年/アメリカ】
【ジャンル】コメディ
【監督】アキヴァ・シェイファー
【出演者】リーアム・ニーソン パメラ・アンダーソン
ポール・ウォルター・ハウザー 他
【上映時間】1時間25分
【お勧め度(5点満点)】☆☆
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