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スウェーデンが"脱デジタル教育"に舵を切った本当の理由

先週から全国学力・学習状況調査が始まっています。今回は理科でMEXCBTによるCBT(Computer Based Testing)となっています。
そんななか、堀田先生のツイートで知りましたが、学調CBT化からスウェーデンの脱デジタル教育の政策転換へ持っていく記事が。

引用されている記事は以下です。

ここ最近「脱デジタル教育」の根拠としてスウェーデンが挙げられることがとても多い印象。でも日本の報道だと情報は断片的。

ならば自分で調べてみよう、ということで日本語だと深掘りできなそうなので、スウェーデン語の情報ソースに絞り「脱デジタル教育」の裏側を探ってみますー



スウェーデンはデジタル教育先進国?

そもそもスウェーデンは本当にデジタル教育の先進国なのか。
答えはYes。2021年時点で

となっていて、環境整備は日本のGIGA並み。

Skolverkets uppföljning av digitaliseringsstrategin 2021

ただ、スウェーデンの場合は2007年から国交付金で1人1台環境の整備が行われ始め、2013年の時点で約半数の学校で1人1台環境が実現されています。
日本より大分前から徐々に環境整備をしており、周回遅れから一気にトップ層になった日本より、ずっとデジタルが馴染んでいると言えそうです。


脱デジタル教育の大転換とエビデンス

そんな1人1台環境がほぼ整備された後、2022年に総選挙があり政権交代。大臣に就任したロッタ・エドホルム氏が以下を宣言。

“Digitaliseringen i skolan har varit ett experiment.”
(学校のデジタル化は大規模な実験にすぎなかった)

「学校でのデジタル化は実験でした」 - Regeringen.se

就任後にいきなり脱デジタルへの転換宣言。この政策転換の理由として引用された科学的根拠=エビデンスは大きく以下の三つでした。

  1. スクリーンタイムが多いほどPISAスコアが下がる

  2. 小児科医会「幼児のタブレット常用は注意力や睡眠に悪影響」

  3. 深い理解には紙が優位のメタ論文

既に策定済みだったスウェーデン国立教育庁のデジタル戦略2023-2027を破棄(異を唱えた官僚を更迭年間70億円の紙教科書補助幼稚園でのタブレット義務条文削除を即断しています。

その後、リベラル党は「Less screen, more reading(Mindre skärmtid – mer läsning)」のキャンペーンを大々的に展開。

ハッシュタグの#Läskris(読書危機) も作られ、全国紙もこぞって報道。保護者も巻き込んで世論が形成され、脱デジタル教育の政策が後押しされていった格好です。


エビデンスの偏り=チェリーピッキング疑惑

ここまで見ると、エビデンスに基づいてこれまでのデジタル教育推進の政策を見直しているように見えますが、まあまあ怪しいところもあります。
研究結果の美味しいところ取り=チェリーピッキングの疑惑です。先にあげた3つをそれぞれ見てみます。

スクリーンタイムが多いほどPISAスコアが下がる

これはスウェーデン国立教育庁が出したレポート(2024)に詳細が。PISAのスコアとデジタル機器の利用時間(質問紙調査)の相関分析の結果です。
具体的に該当箇所を読んでみると、PISAスコアは利用時間=スクリーンタイムが多すぎるとスコアが下がる逆相関になっています。
この「多すぎる」がミソで、「少なすぎ」もスコアが下がっています。つまりは「適度な利用が最もスコアが高い」という逆U字の相関なのが実態です。X軸をスクリーンタイム、Y軸をPISAスコアにしたグラフはこんな感じ。

Nordiska jämförelser utifrån PISA 2022」より

ちなみにこのPISAスコアの分析だと、デジタル関連では以下の2つの項目で正相関(頻度が多いとスコアが高い)という結果が出ているようです。

  • 他の生徒と協力してデジタルコンテンツを作成する頻度は?

  • 先生から自分の課題・成績に関するフィードバックをデジタルで読む/聴く頻度は?

つまりは「時間は逆U字相関=適度が良く、デジタルも内容や方法次第=創作や振り返りでの活用では効果あり」という直感的にも理解しやすい結果だった感じです。

うーむ、これはチェリーピッキングかも。

小児科医会「幼児のタブレット常用は注意力や睡眠に悪影響」

結論から言うと、こちらWHOやアメリカ小児学会でも述べられていて、世界的に同意が得られている内容のようです。ただ、以下の通り対象や目的にズレがあります。

また、スウェーデンのレポートは質や文脈についての肯定的な研究が除外されています。例えば以下のような、対話式アプリや 親の共同閲覧ではむしろ向上する面があるという研究(Gaudreau et al. (2020))です。

つまりは、WHO/APPのガイドラインは、単に「どれぐらい利用したか」だけではなく、内容(コンテンツの教育的価値・双方向性・デザイン)と文脈( 誰と/いつ/どこで/何のために使うか)を踏まえるべきという立場です。「スクリーンタイムの量は悪」という単純図式で、学校教育のデジタル化政策の決定に使うべきではないように見えます。

深い理解には紙が優位のメタ論文

これはDelgado et al. (2018)による、紙の読書とデジタル読書の理解度を比較した54研究(n = 約17万人)のメタ分析が元となっています。
この論文は結構興味深い内容で個人的には学びがあったので、1回分ぐらいかけて解説書きたいぐらいですが、端的にまとめると以下となります。

  1. 長文(2500文字以上)は紙が優位

  2. 短文(2500文字未満)だと有意な差なし

  3. 説明文は紙が優位

  4. 物語文だと有意な差なし

  5. 静的PDF/HTMLだと紙優位が小

  6. ハイパーリンクや動画があると紙優位が大きく拡大

  7. 章末問題や振り返りがあると紙とデジタルの差がなくなり、逆転する可能性もある

スウェーデン政府の発表は、1と6のみに焦点を当てていて

Forskning visar att längre texter förstås bättre i tryckt form
研究によれば、長いテキストは紙のほうが理解しやすい

教育省プレスリリース:Alla elever ska ha tillgång till läroböcker - Regeringen.se

studier som visar sämre läsförståelse särskilt vid texter över 1 000 ord i digital miljö.
1000語(日本語だと2500文字程)を超えるテキストをデジタルで読むと読解が低下すると示す研究がある

法案説明:Stärkt tillgång till läromedel

Små barn behöver koncentrera sig på längre sammanhängande texter utan länkar.
小さな子どもたちは リンクのない長い連続テキストに集中する必要がある

大臣会見:Starka vittnesmål inifrån Eritreas misstänkta slavgruva

優位差がなくなる短文や物語、場合によってデジタル有意になるインタラクティブ性については取り上げていないのが実態です。

著者はこの論文のタイトルを「Don't throw away your printed books(印刷された本を捨てないで)」として、紙の読書体験が読解力向上に一定の利点があることをメッセージにしています。
が、「今後はインタラクティブなデジタル読書体験を研究するべき」とも述べていて、むしろデジタルの可能性も示唆してます。

全体としては紙優位を示す論文なので総論として引用するのは正しいのですが、どうにも政策決定の根拠としての採用はチェリーピッキングの懸念がありそうです。

ちなみに個人的に興味を引いた5-7の部分。ハイパーリンクや動画は認知負荷が高まってむしろ理解度を下げる、とのこと。これはある意味で直感と反するので、日本のデジタル教科書の政策でも考慮した方が良いのかも、と。インタラクション=リフレクション有意、というのも考えさせられました。

個人的結論:脱デジタルは政権交代起因

ということで長々書きましたが、スウェーデンの脱デジタル教育の本当の理由は「総選挙による政権交代による政策転換」というのが個人的な見解です。

総選挙で政権を奪取したのはモデラート党、キリスト民主党、エドホルム大臣が所属するリベラル党の右派連合。

3党とも右派らしく、教育分野では「ordning(秩序)」「basfärdigheter(基礎力)」を旗印にしていて、紙への回帰を掲げています。

  • 都市部の中流~上流保護者の“学力低下”に敏感な層を取り込みたい
    └ モデラート党

  • 郊外・農村の家族層を主票田でデジタル疲労・規律回復の訴求と親和
    └ キリスト民主党

  • 教師組合が端末過多を懸念する声明と利害一致させ、教員支持層の回復
    └ リベラル党

とそれぞれの党の票田へのアピールという狙いが見えたりしています。

政権交代と政策転換の時期がピタリと一致していることも合わせて見ると、「エビデンスに導かれた政策転換」より「政治的アジェンダに合わせてエビデンス採用して政策転換」と見るのが自然かな、というのが自分の見解です。
まあ、こういことってどの国も似たり寄ったりなのかもですが。


おわりに

ということで、学校教育での脱ICT・デジタルで取り上げられているスウェーデンの事情についての解説でした。
なんだかんだ日本の報道も断片的なものが多く、それを引用してあーだこーだ議論するのも建設的ではないので、スウェーデン語に絞って調査してみた次第です。

とはいえ、自分のポジションはデジタル×教育を進めようとしている立場なので、自分で言うのも何ですが、このnote自体がチェリーピッキングの要素があると思って読んでもらえたらと。

でもデジタルは既に社会インフラと化していて、禁止でどうにかなるものではないと思っています。
そのうえで「誰もが自分らしく学べる社会」をゴールに据えるのであれば、
先生の数を7.5倍にするか、デジタル・データの徹底活用の2択、というのが個人見解です。でも先生の数を7.5倍にすると追加で年間28.8兆円かかるし(以下参照)、そんな人数の採用も困難です。

となるとデジタル・データの徹底活用一択なんですよね。
とはいえ、アナログ抜きなんて全く思っていないので、2項対立で議論すること自体が不毛なのですが、、、

と愚痴が出てしまいましたが、もう5000字になりそうなのでこの辺で。
ではまたー。

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