神様と交渉かよ そんなんできる訳ないだろう、と思ったらDMが来た① 【AIでつくるショートショート】
第1章 五十年目の居眠り
「おい、起きろ! 起きないか!」
現場監督の怒号が響く中、緑野市役所・都市整備部都市計画課の若手職員、五味(ごみ)は、目の前の光景に呆然と立ち尽くしていた。
吉祥駅から徒歩五分。古い雑居ビル群を近代的な複合ビルへと建て替える、令和の再開発工事。
そのど真ん中で、作業服を着た大の大人たちが、泥のように眠りこけていた。
一人や二人ではない。現場にいた全員だ。
クレーン車の運転席では、オペレーターがハンドルに顔を埋め、いびきに合わせてクラクションが「プーーー」と鳴り続けている。
地面に転がった作業員たちは、コンクリートの粉塵も気にせず、幸せそうに寝息を立てていた。
「五味さん、これで三度目だぞ! どうなってんだよ!」
現場監督が髪をかきむしりながら叫ぶ。
原因は、人ひとりがようやく身をかがめてくぐれるほどの、小さな煤けた石造りの鳥居だった。
解体されたビルのコンクリートの二重壁に挟まれた暗がりに、ひっそりと隠されていた。
緑野市役所の地下倉庫から引っ張り出してきた昭和四十四年の古い引き継ぎ文書には、信じられない記述が残されていた。
当時、この区画のビルを建設した地元の開発業者と行政の上層部は、鳥居を動かそうとするたびに発生する原因不明の集団昏睡に恐れをなしていた。
紆余曲折はあったはずなのだが、当時の報告書では幹部職員の尽力による「完結」扱いとなっていた。
実際には、「表向きは撤去したことにして、壁を立てて隠す」という、時代を超越した極めて本能的な禁じ手を選んだということだ。
それが五十余年の時を経て、令和の解体工事で再びお目見えしてしまったというわけだ。
医療班の診断は「全員、ただの熟睡」。
半世紀前に封印された『祟り(たたり)』が、現代にそのまま再起動していた。
「このままじゃ今月の工程表が真っ赤っかだぞ。市長に怒られるのはあんただからな」
現場監督に背中を小突かれ、五味は胃がキリキリと痛むのを感じた。
公務員生活三年目。
半世紀前の先輩たちが禁じ手で封じた案件に、若造が対抗できる正攻法のマニュアルみたいなものなどあるはずがない。
夜の十時。
作業員たちが全員運ばれ、静まり返った現場に、五味は一人で残っていた。
月明かりに照らされた石の鳥居は、そこだけ時間が止まったかのように、不気味に佇んでいた。
「神様だか何だか知りませんけどね……」
五味は鳥居の前にしゃがみ込み、頭を抱えた。
「こっちだって仕事なんですよ。五十年も隠れてたんだから、もうちょっと別の場所へ引っ越すとか、なんとかなりませんか」
もちろん、石の塊が返事をするわけがない。
五味は大きくため息をつき、報告書を書くためにポケットからスマートフォンを取り出した。
画面をスワイプし、業務用チャットアプリを開こうとした、その時だった。
――ピコン。
静まり返った夜の現場に、妙に軽い通知音が響く。
画面を見ると、見知らぬアカウントからダイレクトメッセージ(DM)が届いていた。
アイコンは、狐のイラストだ。
メッセージを開いた五味は、思わず目をごしごしと擦った。
『引越しとかマジ無理。
てか五十年ぶりに壁の裏から出られたのに、また動かされるの超面倒くさいんだけど。
それに、眠ってもらっただけで誰一人傷つけてはおらぬ。
そこは少しくらい、神様扱いしてほしいんだけど。』
五味の、長くて理不尽な「神様との交渉」のゴングが鳴った瞬間だった。
次回に続く。
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