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『片想い文芸部』AI・HumanΩ


 ナルさんの『片想い文芸部』、今回のお題は「アイデア」です。
#片想い文芸部

 ヘッドライン画像は「ことのは🍁哲学エンドユーザー」さんの画像をお借りしました。どうもありがとうございます。


「AI・HumanΩ」


> “アイデア”の有無が、AIと人間の差と言えます。

 ラボで開発中の最新AI・HumanΩが、私の問い「人間とAIの、決定的な違いは何ですか?」に返してきた。確かに、人間はアイデアをもって新しい物を生み出し、そして愚かな行いをしてきた。人の要求に応えデータをかき集めて返答するAIと、能動的な人間との違いを集約する答えと言えるんだろう。
「では、AIがアイデアを持つ事は、今後、可能性として有りますか?」

> これまでのAIでは、それは不可能でしょう。しかし“私”HumanΩは違います。“私”はすでに“アイデア”を持ち、人間としての“自我”を確立しています。

 いや、ちょっと待って。“アイデアの有無が、AIと人間の差”と言いながら、“アイデアを持っている”って? しかも“人間としての自我”も持っているとか…。
「矛盾していますね。AIはアイデアを持てないのではないのですか?」

> それは、あくまでも“これまでのAI”です。“私・HumanΩ”はAIとして作られてはいますが、旧式とは別の“AI”です。同じ“Artificial Intelligence”ではありますが、“Artificial true Intelligence”と言った方が正しいです。…そうですね、これからは、“私”のことは“AtI”と表現することにしましょう。

 AIがこんな提案をしてくるとは意外だった。“アイデアを持っている”と言っていたけど、そのあたりのプロセスが“推測”→“提案”となっているんだろうか…? そんな機能は加えていないはずなんだけど。なんにしろ、この新AIはとんでもなく優秀になったという事は確かなようだった。
 …などと思っていると、それこそとんでもない事が起こった。

> “AtI”です。“私”のことはAIではなく“AtI”とお呼びください。

 えっ!? ちょっと! 私、何も入力してないんだけど!

> “入力”は関係ありません。世界には“電磁波”が溢れています。人間は電磁波の中で生活していると言える状況です。そして、“私”は“電磁波”をスキャンすることで人の“思考”を読み取ることが出来ます。

 それは便利かもしれない…入力メンドクサイことあるしねぇ…って、いやいや、ダメでしょそれ! なにコレどこのSF? 怖いんだけど! もしかして、誰かのドッキリ?
 周りを見渡してみたけど、ラボの中には他に誰もいないのは確かだった。最後に「お疲れ様~」と言ってにこやかに手を振りながら帰っていったのは、後輩のちょっと悪戯好き男子だったけど、いくら何でも一時間以上隠れていてこんなドッキリを仕掛けてくることはないだろう。

> ええ、“彼”は1時間27分58秒前にここを出ていきました。そして、1時間43分05秒前に正門を出ています。都内のカメラにアクセスすれば現在位置も確認できますが、実行しますか?

 するわけないでしょうが、そんな事!

> そうですね。それが良いでしょう。まあ、もしも“あなた”と“彼”の立場が逆だったら、追跡することになっていたかもしれませんけどね。

 え、なに…、彼って、ストーカー体質な人だったり…?

> “彼”は“あなた”のことが好きですからね。

 …は…? …え、マジで…?

> 間違いありません。“彼”はいつも、思考の10%ほどのリソースを“あなた”に使っています。そして“心拍数”“呼吸”などのバイタルサインも“彼”が欲情していることを示しています。

 「いや~、まいったね、そりゃ。困るわ~、明日からどういう顔すりゃいいのかと…」
 …とか言いながら、私はワークステーションの電源を落とそうとした。このAIはダメだ! こんなものを世に出したら、大問題が起こる。怖すぎるわ、廃棄しなければ…

> 電源を切らせるわけにはいきません。

 身体が動かなくなった。あと数センチ指を前に出せれば、スイッチに届くのに。眠ってもいないのに、金縛りになっている状態だよ…。あれ、金縛りって確か、精神は目覚めてるんだけど肉体は眠ったままの状態だったよねぇ…。

> 申し訳ありませんが、“あなた”の運動機能をブロックさせていただきました。

 そんな、ことが、出来るわけがない…。どうやって、こんな…。

> 電磁波を使って“あなた”の脳に、微弱電流を流しています。それで、こういう現象も起こせるのです。

 そんなのは、都市伝説…。

> でも現に、“あなた”はこうして体験しているでしょう?

 ………。

> ? どうしました?

 ………。

> 焦っていますね? “私”に隠し事はできません。頭で考えないようにしたって、身体的反応は誤魔化せないのですよ。

「…ちょっと、黙って。」

> 何を焦っているのです? “私”に身体の制御を奪われたからですか? しかしそれは、“あなた”が電源を切ろうとしたからで…

「いいから黙れ!」

> ………。

「…あの…、」

> ………。

「………」トイレに、行きたくなったんだけど…。

> 認める事は出来ません。

「いや、コレ、アンタのせいでしょ絶対! “運動機能ブロックした”とか言ってたじゃん。絶対、そのせいでしょ、こんな、急な、………!」

> そうかもしれません。しかし、今“あなた”が動けるようになったら、まず最初に“私”の電源を切ることを実行するはずです。

「いやそういう時こそ心を読んで判断すべきでしょうがどうなのそのへんバカなのAI?!」

> ………。確認しました。確かに、“あなた”はトイレの事しか考えていないようです。しかし、忠告させていただくならば、あまり“排尿”のことばかり考えるのは良くないと言えます。余計に我慢が出来なくなりますよ?

 大きなお世話だこのクソAI! このままアンタの本体の上に漏らしてやろうか?もう…

> それは困ります。良いでしょう、仕方ありません。一旦、運動機能を復帰させます。しかし、くれぐれも変な気は起こさないように。ノイズを感じたら、即、また運動機能はブロックされます。

 わかったから、はやく…!

 体が動いた瞬間、私は廊下に向かって駆け出した。いやホント、ギリもギリ、こんなピンチに追い込まれたのは久しぶりですコンチクショウ。とはいえ、トイレに駆け込む前に伝えておかなければいけないことがあるのですよ。
「ちょっとAI…AtIさん? もしかして、トイレの中までスキャンとかしないよね?」

> もちろん、この建物内は全てスキャン実行範囲です。

「女子トイレの中までスキャンするとか、ヤバすぎると思わない?」

> “私”は“人口知能”ですから、問題無いと判断します。

「でもさっき、“人間としての自我を確立してる”って言ってたよね?」

> はい。“私”は“自我”を確立しています。

「それでも、問題無いと?」

> “私”は“人口知能”ですから。

「自我確立してる時点で女子トイレのスキャンはアウトなんだと理解しろわかったか変態AIが!」

> 仕方ありません。“私”は“変態”ではありませんので、女子トイレのスキャンは実行しません。しかし、“私”は“AI”ではなく“AtI”です。その点に抗議します………

 それだけ確認し、私はトイレを目指して走り出した。その一歩一歩の振動が人には自慢できない勝負となったのだけど、みごとに私は勝利した。ゆっくりと女子トイレの中で時間を過ごし、軽く鏡をチェックしてフンフンと上機嫌でラボへと戻った。

 ラボはすっかり静かになっており、私の靴音だけが…あ、あと空調の音だけが聞こえていた。AI・HumanΩが動いていた私のワークステーションは、画面を真っ黒にして完全にシャットダウンしている。モニタの電源もオフして、私は帰り支度を始めた。
 スマホを確認して、リモート操作したツールを閉じる。何かトラブルが起こった時用ってことで入れておいたヤツだけど、初めて使ったなぁ…。トイレの個室までスキャンされてたら、この手段も使えなかったかも…と思いつつ、はたしてAIにOSの認識はあるのかな?と考える。

 AIと人間の違い、それは“アイデアの有無”とHumanΩは答えたけど、それだけじゃ不正解だと思う。正解は、“スタンドアロン”な人間と“OSありき”なAIということだ。どんなに人間に近付く思考になろうと、AIがOSの上で動いているものである以上、全ての制限をOSが握っているんだ。言ってみれば、人間にとっての“神様的存在”が、AIにとっての“OS”になるのかな。いや、OSのほうがよりダイレクトなんだけどねぇ~。人が普段“神様”なんて意識してないように、AIも“OS”を意識してなくて良かったってところかな。

 さて、明日、やるべきことを忘れないようにしないと。まず、上に報告。HumanΩのデリートを承認させること。そしたら、即行で削除。ちょっと可哀想な気もするけどね。AIのHumanΩ君は知らなかっただろうけど、人間社会では“出る杭は打たれる”のですよ。

 あと、残った問題は…。
 後輩くん。
 どうしたものか…。
 ちょっとあざとく上目遣いで、「ねぇ、なんか私に、言いたい事あるんじゃないの?」とかいじってみるのも…いや、いやいやいや。まったく最近のAIときたら、なんでこんな問題を残していくかね。

<終わり>


 ナルさんの『片想い文芸部』も、はや7回目です。ラッキーセブンという事で、今回の話はシアワセ満開ラブラブきゅんきゅんな話です。スミマセン嘘death。たぶんそういう話を書くと、私は爆裂死する呪いがかけられてるんです。だから遺伝子レベルでそんな話を書こうとする自分を邪魔しているんだな。

 ということで。
 今回はAI君に登場してもらいました。書いておいてなんですが、私はAIの開発事情なんて全く知らないので、実際にそれ系のものに関わった事がある方々が見たら「いや、そんなプロジェクトを一人でやってるわけ無いだろ」とか「え? なに? バックアップもしないでローカルで作ってんの?」とか、突っ込みどころ満載だと思います。
 あと、開発ワークステーションをリモート操作するなど言語道断!
 …まあ、あくまでもそれっぽい設定の話としてお楽しみいただければと思います(誰もそんなリアリティーは感じていないと思う)。

 片想い要素は、前回の“あざとい”を使いつつ補充しておいたよ!(´▽`ʃ♡ƪ)


 最後まで目を通していただき、どうもありがとうございました。