見出し画像

低解像度の恋 その2

友人が送ってくれたLINEの写真は、4人で大洗海岸へ行った時のものだった。その写真を見て確かにこの人だったと色々な記憶が思い出された。僕と彼女はお互いのアパートに固定電話が無く連絡の取りようが無かったので会う事が難しかった。お互いに住んでいるところも勤め先もかなり離れていたので、会う時は僕が仕事帰りに彼女の会社の前で仕事が終わって出てくるのを待って次のデートを約束したりした。美味しいと評判のレストランや映画、美術館、水族館などに行った。そんな半年間の付き合いの中で若い未熟な僕がこの恋愛に難しさを感じたのは感情の表れが少ない彼女の気持ちを理解しにくい所だった。楽しいのか嬉しいのか悲しいのか。いつも穏やかで多くを語らない控えめタイプなのでいつもその時の感情を測り兼ねていた。僕の言ったことをどう思ったのか、何を感じたのか。彼女もそう多くない恋愛経験からどう立ち振る舞ったら良いか戸惑っていたのかもしれない。

そんな微妙な距離感が縮まらないまま時は過ぎた。ある時、彼女が僕の住んでいるアパートに来たいと言ったので、デートの後に最寄りの駅を伝えて待ち合わせの日と時間を約束した。そろそろ秋がやって来る頃だった。僕は待ち合わせの時間に彼女を駅へ迎えに行った。暑くも寒くもない狭いアパートの部屋で彼女が買って持ってきてくれたケーキを食べながら2人がどんな会話をしたのかはあまり覚えていない。その後、何処かで夕飯を食べてから高田馬場か池袋駅まで送ってその日は分かれた。それが2人が会った最後かもしれない。彼女は、僕のもう一歩踏み込んで来ない態度に不安を感じていたかもしれない。バブル真っ最中でカメラマンのアシスタントをしながらもフリーランスで広告関連の仕事もする様になり始め、日々の忙しさに追われて彼女との距離はどんどん大きくなって、やがて彼女の事すら忘れてしまって日々はどんどん流れていった。

そんなある日の深夜、アパートに帰ったらドアの隙間に1枚のメモが折られて挟まっていた。全く連絡をしないから実家の母が心配してまた電報を打って来たんだた思いそのメモを開いた。そのメモの内容を読んで僕は本当に悔やんだ。その日、彼女は一度しか来たことがない僕のアパートまで来て、僕の帰りを待っていてくれた。そして、帰って来ない僕におそらくその時持っていた手帳かなにかを破って伝言を書いたのだ。内容はうる覚えだが確かにこんなことが書かれていたと思う。「あなたが来てくれるのをずっと待っていました。もう私の事は忘れてしまったのですか、もう逢えないのですか。」彼女の気持ちや感情を初めて知って僕はなんていう事をしてきたのだろうと後悔した。しかし、僕は数日後、別の女性と同棲を始めるためにそのアパートを引っ越す事になっていた。だからこのまま前に進むしかなかった。彼女の方に振り返る余裕はなかった。

その後、彼女に会う事はなく、そのメモを心の奥底にずっとしまいこみ蓋をしてしまった。結婚し、子育し、仕事に明け暮れ60歳を過ぎてやっと過去の色んな出来事をゆっくり思い返せるようになった。彼女は結婚しただろうか、子どもには恵まれただろうか、孫は生まれただろうか、幸せだろうか。

もしあの時もう一度彼女に会っていたらどんな話をしただろうか。

Missing Myself

あなたが去ったばかりなのに、
もう心はあなたへ引き寄せられてしまう。
もう一度、私を受け入れて。
少しだけでいい。
そのあと、去ってしまってもいいから。
でも夜が明ける前に、
私を誰か別の人の名前で呼んで。
どうせ明日になれば、
また私は、自分を嫌いになっているから。
私は、一人じゃないときでも
孤独を感じてしまう。
誰もいない部屋で、
恋しくなるのは、あなたじゃない。
本当の私自身。
誰かがいなくても、
私は幸せでいられるんだと、
心から信じられたらいいのに。
私は、一人じゃないときでも
孤独を感じてしまう。
誰もいない部屋で、
恋しくなるのは、
見失ってしまった私自身。
誰かがいなくても、
私は、この心地よさを感じられる。
そんな自分になれたらいいのに。

女性ボーカルで少し切ないラブソングをご紹介します。

この曲の使用ソフト、プラグインをご紹介しておきます。DAWはAbleton Live12 、各トラックのエフェクトやミックスにはWaves、Eventide、FabFilter、Valhalla DSP、マスタリングにはiZotopeのOZONE、ソフトシンセはAturia、ZENOLOGY、Pianoteqがメインです。AI作曲サービスは使っておりません。

ここまで読んでいただきお付き合いいただきありがとうございました。
お時間があればぜひお聴きください。ご感想、アドバイスなどがあればお願いいたします。ではまた次の曲で。

Turquoise Bedroom - Missing Myself


いいなと思ったら応援しよう!