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シルバーカーの素敵
数日前、オットと末娘が私の実家を訪ねた。
新年のご機嫌伺いと高齢家族の近況確認を兼ねた小旅行。
父は、娘婿を相手に、老いの日々のことや息子たちと娘の行く末を思いやる心境を、途切れることなく語ったらしい。
オットはただただ相槌を打ち、黙って耳を傾けたのだろう。
そのあいだ、末娘は暖かい台所で、おばあちゃんとお茶を飲みながらおしゃべり。
それぞれが、それぞれの居心地のいい場所に、自然と収まっていたようだ。
「おじいちゃんが車の運転をやめたら、買い物とか不便になるね」
娘が言うと、母は待ってましたとばかりに、真新しいシルバーカーを見せてくれたのだそうだ。
「こんな便利なものがね、月に300円で借りられるのよ。
ほら、ここにスーパーのカゴを置けるでしょう。買い物した荷物を、そのまま載せて帰れるの」
少し耳が聞こえにくくなったからと、集音器なるものを購入したという。
弟が帰省したとき、ネットで探して注文してくれた集音器、
「頼んだ次の日には届いてね、使ってみたらテレビの音がよーく聞こえるの」とうれしそうに語ってくれたそうだ。
「おばあちゃんはすごいなあ。
シルバーカーとか集音器とか、カッコ悪いから嫌だとかいうお年寄りもいっぱいいるのに、あんなに楽しそうに新しいモノを受け入れて使ってしまう。
ああいう柔軟さは、流石に母を産んだ母やなあって思ったよ。」
その日の感嘆を語る娘の声は明るい。
若いころ、私にとって父は越えなくてはならない偉大なる壁だったけれど、母はいつも、私を包む暖かい風のようだった。
父の長い熱弁をさらりと受け流しながら、日々の中に、なにかしら楽しいもの、嬉しいものを見つけては、「ウフフ」と笑っている。
そんな母の柔軟さを、娘がちゃんと感じ取り、素敵だと思って語ってくれたことが
私には何より嬉しい。
