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娘がくれた「魔法の杖」で、あの頃の私に会いに行く

「絶対に見始めへんで!」と決めてた。
NetflixにU-NEXT、Hulu……。
一度足を踏み入れたら最後。
時間がいくらあっても足りひんようになる噂は、耳にタコができるほど聞いてたから。
そやのに、長女が引っ越しの際に
「せっかくやし使い〜」と置いていった
Fire TV Stick。
テレビの裏に差し込んだその小さな「魔法の杖」が、私の生活を一変させてしまった。

仕事から帰り、バタバタと家事を済ませて
ソファに座る。
気づけばリモコンを握り、夜更かしが始まる。
「昨日の続き見よ〜」「今日は何を見ようかな〜」
あんなに頑なだった自制心は、
どこかへ消えてしまった。

最近、ついつい手が伸びるのは、昔懐かしい
ドラマ。
タイトルを検索し、再生ボタンを押す。
画面に映し出されたのは、中山美穂さんの
『素敵な片想い』
「わぁ、懐かしい!」
「そうそう、こんなんやった!」
誰もいいひんリビングで、独り言が止まらへん。
画面の中のミポリンは、当時の私の憧れそのものやった。
あんなOLになりたい、あんなキラキラした
都会で、あんなピュアな恋愛をしたい。
まだ携帯電話もなくて、公衆電話から震える指でダイヤルしていた時代。
交換日記や手紙を書きながら、ドラマの中の
恋の行方に一喜一憂していたあの頃の私。
ドラマを見てると、当時の記憶が鮮明に
蘇ってくる。

「これを見てた時、誰と付き合ってたっけ?」
「あの頃、将来こんな人生を歩むなんて、
一ミリも思ってへんかったな」
4人の子どもを、養育費なしで必死で育て上げた歳月。
ドラマのような甘い展開とは程遠い、泥臭くて、必死で、荒波を乗り越えるような毎日やった。
ピュアな恋愛なんて、いつの間にか遠い出来事になってた。
ドラマの中で仕事に失敗し、落ち込む主人公を見て、ふと思う。
「これ、50代の私がやったら年齢的に
『大丈夫?』って心配されるやつやな」笑
現実を生きる今の私には、もうドラマのような
無邪気な失敗も、震えるような恋も、手の届かへんもんに見える。
年齢に合わへんこと、もうできひんことが、
確かにある。

でも、そう気づいた瞬間に、
ふっと心が軽くなった。
あの頃憧れた「完璧なOL」にはなれへんかった
けど、私は私なりに、この人生を必死に、そして立派に完成させてきた。
若さゆえの輝きは眩しいけれど、今の私には、
あの頃にはなかった「人生の厚み」がある。
ピュアなシーンを見て「うらやましいな」と苦笑いできるのも、今の私が穏やかな場所にいる
証拠。

「あんな大人になりたい」と願っていたあの頃の
私に、今の私を見せてあげたい。
「ドラマみたいにはいかへんかったけど、結構
いい人生やで。
今、こうして一人で夜更かしして、
あの頃の憧れを懐かしむ余裕があるんやから」と。

お風呂に入らなあかん!と慌てて時計を見る。
「今」を楽しめるのは、あの大変な日々を通り抜けてきたからこそ。
明日も仕事。でも、家に帰ればまた、あの頃の私に会える。
さあ、今日はもう寝よう。
明日の夜は、どんなあの頃の私に会えるかな〜

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