島全体が、禁足地だった。〜入ってはいけない場所シリーズ 第6回:久高島 神の島という問題〜
このシリーズで「入ってはいけない場所」をずっと辿ってきたんですよ。
神社の奥の山、天皇陵の堀の内側、樹海の遊歩道の外、封鎖されたトンネルの先、火山のカルデラの底——それぞれ「ここから先」という境界線があって、その向こうに入れない理由があったんですよ。
でも今回は、境界線の引き方が全然違うんですよ。
島そのものが禁足地なんですよ。
沖縄本島の東南沖に浮かぶ久高島は、琉球神道における「神の島」として、島全体が聖域として扱われてきた場所なんですよ。持ち込んではいけないものがあって、持ち出してはいけないものがあって、入ってはいけない場所があって、女性しか参加できない儀式があったんですよ。
本当ですかね。
あったんですよ、全部。
じゃあ始めましょうか。
アマミキヨが降り立った、という話
久高島の位置づけを話すんですけど。
琉球神話に「アマミキヨ」という神様が登場するんですよ。天から降りてきて、琉球の島々を作り、人間を生み出したとされる創造神なんですよ。
そのアマミキヨが、最初に降り立った場所が久高島とされているんですよ。
本当ですかね。
最初に、なんですよ。
つまり久高島は「世界の始まりの場所」として琉球神話に位置づけられているんですよ。琉球開闢の地、神様が最初に足を踏み入れた島——という話が、ずっと語り継がれてきたんですよ。
いやもう、これは島の格が違うじゃないですかと思うんですよ。神社の境内にある禁足地ではなくて、神話の「始まり」そのものが島になっているんですよ。
何ですか、その世界の始まりが今も沖縄本島から船で15分の場所にある問題。
フボー御嶽という場所の話
島の北東部に「フボー御嶽(クボー御嶽)」という御嶽があるんですよ。
久高島に複数ある御嶽の中で、最も格が高いとされる聖地なんですよ。琉球王国時代から「久高島で最も神聖な場所」として扱われてきて、現在も立入禁止区域として維持されているんですよ。
本当ですかね。
ただこの御嶽、男性は入れないんですよ。
本当ですかね。
第2回のシリーズ(奄美・ノロの話)で「御嶽に男性が入れない」という話をしたんですけど、久高島のフボー御嶽はその最上位に位置するような場所なんですよ。しかも女性であれば誰でも入れるわけではなくて、特定の儀礼を経た女性だけが関わることができる場所として記録されているんですよ。
何ですか、その入れる条件の重ね掛け。
イザイホーという儀式の話
久高島で12年に一度行われてきた「イザイホー」という儀式があるんですよ。
島で生まれた30歳から41歳の女性が、神女(かみんちゅ)として就任するための儀礼なんですよ。数日間にわたって行われる儀式で、参加した女性は神様との特別な関係を結ぶとされていたんですよ。
本当ですかね。
この儀式の最後の記録が、1978年なんですよ。
何ですか、その1978年が最後という話。
過疎化が進んで、島で生まれ育った対象年齢の女性が集まらなくなったんですよ。12年後の1990年には儀式を行うことができなくて、以降も途絶えたままなんですよ。
ぼかぁね〜、これが久高島の話で一番重いところなんですよ。
神話の始まりの島で、何百年も続いてきた儀式が、後継者がいないという理由で終わったんですよ。フボー御嶽は今でも立入禁止のまま存在しているんですよ。でもその御嶽と人間を繋いでいた儀式の糸が、1978年に一度切れているんですよ。
切れたまま、御嶽だけが残っているんですよ。
島から持ち出せないものの話
ここで少し冷静な話をするんですけど。
久高島には「島のものを持ち出してはいけない」という規則があるんですよ。
砂、石、植物、貝殻——島の自然に属するものを島外に持ち出すことは禁じられているんですよ。観光客が増えた現在でも、この規則は維持されているんですよ。
本当ですかね。
これは単なる「自然保護」の話ではないんですよ。
島のものは島の神様のものであって、人間が勝手に持ち出すことは神様への冒涜になるという考え方から来ているんですよ。砂一粒にも神様の意志が宿っているから、それを島の外に出してはいけないんですよ。
何ですか、その砂一粒に至るまで神域という考え方。
島全体が禁足地という意味が、ここで少しはっきりするんですよ。入ってはいけない場所があるだけでなく、島の中にあるものを外に出してはいけないんですよ。島という空間全体が、神様の領域として完結しているんですよ。
本当ですかね。
完結しているんですよ。
観光客が来るようになった、という問題
いやもう、ここで少し現代の話をしないといけないじゃないですかと思うんですよ。
久高島は近年、「パワースポット」として観光客が増えているんですよ。
沖縄本島から船で15分、「神の島」というキャッチフレーズで紹介されて、週末になると多くの人が訪れるんですよ。フボー御嶽の立入禁止区域に入ろうとする観光客がいて、島の砂や石を持ち帰る観光客がいて、島の人たちが困っているという話が複数報告されているんですよ。
本当ですかね。
困っているんですよ。
イザイホーが途絶えて、神女を繋ぐ儀礼の糸が切れて、それでも御嶽は残っていて、今度は観光客が増えている——という現状が、久高島にはあるんですよ。
何ですか、その神話の始まりの島の現在地。
結局、久高島とは何だったのか
このシリーズで辿ってきた禁足地は、それぞれ「守るもの」が違ったんですよ。
神山は神様の居場所を守っていて、天皇陵は眠る人の静謐を守っていて、樹海は地形が自然を守っていて、犬鳴峠は物語が記憶を守っていて、青ヶ島は海が生活を守っていたんですよ。
久高島が守っているのは「始まり」なんですよ。
本当ですかね。
世界の始まり、琉球の始まり、人間と神様の関係の始まり——それが今でもあの島にあるとされているんですよ。
イザイホーは途絶えたんですよ。でも御嶽は残っているんですよ。砂を持ち出してはいけないという規則も残っているんですよ。始まりの記憶を守る意志が、人口約200人の島で今でも続いているんですよ。
本当ですかね。
続いているんですよ。
久高島に行くことはできるんですよ。船に乗れば15分なんですよ。でもあの島の砂を踏むとき、それが神話の始まりの場所だということを、少しだけ思い出してほしいんですよ。
持ち帰れるのは、記憶だけなんですよ。
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