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Watcher #16



仕事帰り、地下鉄最寄り駅。

構内のコンビニで、うずらたまごの燻製だけ買った。

晩酌のあてだ。

レジ袋を断って、バーコードの上にテープが貼られる。

それを手持ちカバンのなかへ財布とともに、放りこんだ。

夕飯はパスタ。

パスタを茹でたお湯で、レトルトのソースをあたためる。

そんで、食後にアルコールを一杯だけ飲む。

たまに一杯半、多くて二杯まで飲むが、だいたい一杯でやめる。

焼酎のウーロン割りを自分でつくる。

コンビニで缶のハイボールを買うときもある。

ビールは飲まない。

カクテルも。

酒は、苦いのも甘いのも苦手だ。

ワインと日本酒は、酔いすぎてしまうから飲まない。

ほろ酔い状態が好きなんだ。

つまみはさっき買った、うずらたまごの燻製か、スモークチーズが定番。


駅から自室のあるマンションへむかっている途中。

うずらたまごを買ったのを切っかけに、自己紹介みたいな思考が頭のなかを流れだしていた。

実際、自己紹介するとしても、こんなアルコールにピントを絞った自己紹介はしないけど···

そんなことを考えているうちに駅からはなれ、住宅地に入りしばらくたっていた。

そして 高そうな家が集まる区画にさしかかった。

この区画の家々は基礎が上げてある。

傾斜がゆるやかで、そうは見えないけど、ここは窪地の底にあたるそうだ。

前は水害が多かったらしい。

けれど下水道の工事がしっかりされて水捌けがよくなったと聞いた。

たしかに、大雨が降ったからといって、この辺が水没するような状況は見たことがない。

もともと、この辺には地下鉄は通ってなかった。

地下鉄が延長され、この辺りを通ることが決まってから、地価がはねあがった。

この地域の年配はよく言う。

「昔、この辺りは一面田んぼだった」と。

地価が上がったといっても、窪地の底なら土地としては安いのだろうか。

家自体は立派だ。

田んぼの所有者が土地を売って、高価な家を建てたのだろうか。

上げてある基礎に堀込車庫のある家がある。

前を通るとセンサーが反応して防犯ライトがつく。

格子状のシャッターごしに高級車がライトアップされた。

基礎の高さは家によってまちまちだ。

そこまで高く上げていない家のよこを通る。

垣根の足元がちょうど目の高さだ。

幹と幹の間に明かりがみえた。

ガーデンライトだと思ったが、気になって仕方がなかった。

おれは周りに人がいないことを確認した。

その家のステンレス制のシンプルな門戸を勝手に開けて、階段をのぼった。

階段は基礎と同じく打ちっぱなしのコンクリートだ。

明かりの正体を知りたい気持ちに抵抗できなかった。

そのときは何故か、確かめるのが当然だと思っていた。

短い階段が敷地にそう様に設置されている。

登って敷地中央へ向きなおると玄関だ。

左に向いて玄関を素通りし、敷地の奧へすすむ。

明かりがあったほうへ。

あった。

これはきっと住居床下の換気口だ。

そこにぴったりのガラスがはめ込まれていた。

そのなかは液で満たされていて、さらに何かいた。

それがおれが初めて見た“あれ”だ。

姿は胎児に似ている。

けれど、この大きさだったら、きっともっと新生児らしい姿をしているはずだ。

それに顔が蛇腹になっていて、ポンプみたになっている。

伸縮して泡を吐き出している。

何のためにそうなっているのかおれには見当がつかない。

おれはそんなものを見ても、作り物だと微塵も疑わなかった。

疑わなかったのに、ビックリするくらいおれは平常心をたもっていた。

さらに敷地奥から気配がする。

庭だ。

家主はミニマル志向なのか。

庭は芝生が広がっているだけで、物干し台などは何もない。

“あれ”がいなければ···

庭の中央に鳥がいた。

鳥という表現が正しくないのはわかっている。

だけど、他に言い表す言葉をおれは持っていないかった。

くちばしも羽根ない。

けれど、鶴やフラミンゴのように折れそうな細い鳥の脚。

そんな下半身の上には人間の乳房がついている。

プラスチックの作り物のような胸。

その上に巨大な頭。

これを頭といっていいのだろうか。

パウンドケーキの型へ、生地の代わりに肉が流し込まれたような。

その肉はとても健康的とは言いがたい質感だった。

鳥の他には、照明がふたつあった。

ひとつは人間の頭の形をしていた。

だけど、外側だけなのだ。

中身がない。

中身の代わりに白色電灯が輝いている。

けれど、横顔は生きているように見えた。

もう一つは壁にはりついていた。

トルソーを前後半分にきって、前側をはりつけたような···

体の内側が光って、間接照明みたいになっていた。

おしゃれかよ。

あとは···太い下半身。

筋肉質な脚をした、たくましい下半身。

上半身はなく、断面はえぐれていて空洞だった。

中には色んな花の頭の部分だけが入っていた。

その上には、アーチ状に湾曲した短いハシゴのような蓋がされていた。

奥のほうにもう一体。

浮いていた。

体操座りの体勢で。

体操座りといっても、上から膝をかかえるタイプではなく、したから腿うらをかかえ込むタイプのやつ。

そいつは、赤いゴムでできた全身タイツのようなものを着ていた。

表面は夜の暗さのなかでも、ヌラヌラとてかっているのがわかる。

さらに右手と左手が棒でつながっていた。

ドアマンがあけるような高級ホテルのドアの取っ手みたいな棒だ。

脚はそろえているのだけど、スネの部分がプランターになっていた。

そこには、雑草のように貧相な葉ではなくて、観葉植物のような厚めの葉をもった植物が生えていた。

さらに、敷地の外にもう一体。

そいつは、胸を張り腕をピンと体のよこに沿わせ、いわゆる気をつけの姿勢のまま前傾していた。

胸の部分には白色電灯が下がっている。

同じところをぐるぐるとまわっていた。

前傾でも倒れることはないし、移動するときも頭が上下していなかった。

足元は見えなかったがたぶん、あいつも浮いていた。



こんなあり得ない状況でありながら、おれはずっと落ち着いていた。

しばらくその庭をながめていた。
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 



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