『落ち葉』#片想い文芸部
唯一と思えるほどに
落としてしまった物。
箒で掃いても掃いても、
掛かってくれない濡れ落ち葉のように、
私の心は引っ掛かっていた。
一目で恋に落ちた。
すでに、
自分の心が乱れたかのように
この文章の書き出しである。
改めて、片想いを経験すると、
こんな感じになるのか。
妄想だけが果てしなく広がるようで、
極めて小さく狭い現実の私が居た。
好きになった幸福感と、
私の気持ちを知らないであろう、
相手への絶望感が渦巻く。
なんて事だ。
辛い事なんて御免なのに、
それから解放されるには
最も辛くと思われる行動に
移さねばならない。
告白という。
想えば想うほどに、それは困難を伴った。
もしも、彼女が間違って
机からペンを落としたとして、
私はそれを話し掛けるチャンスと思い、
拾って、相手に渡したい。
そんな極ささやかな妄想でもあった。
彼女との実際のやり取りを、
大きく飛び越えて、心ばかり膨れ上がる。
あまり自分をみじめに思いたくない
けれども、あまりにみじめと思い、
仕方が無い。
彼女のどこまでを知ったところで、
振り向いてくれない限り、
全ては無に帰すのだろうと『想う』。
落ち葉を何とか掃き終えた私は、
それに付け加えるようにして
「ふぅ」と大きく深いため息をつく。
それはまるで、
心の中のやるせないジタバタを
必死で抑えるような息苦しさだった。
早い内に、伝えてしまった方が
よほど気は収まるだろう。
ひと月が経ち。
私は思い切ることにした。
彼女にコンタクトを取る現実的手段を
想像できるだけ考えてみた。
手紙?電話?直接会って?
私にも生活があって、
電話で気持ちを伝えることに
一応は決めたものの。
行動に移す時というのは、
例えるなら、
半ば心が死んでいる状態かも知れなかった。
言いたいことは簡単で、
「一目惚れしました。
お付き合い願います」
携帯電話を片手に持ち、
しばらく逡巡していた。
液晶画面が何度も暗転する。
それを見ていると、
疑似的に気を失う思いがした。
指先ひとつ。
私は、
訳も分からなくなる精神状態まで待って、
思わずタップした。
・・・・・・・。
この度『落とした物』を拾うには、
相当屈まなければならなかった。
それは足腰が辛いほどに、というよりも
どうしてここまで、
落とし込んだ自分を拾いに行かなくては
ならないのか、という
矛盾したような心の辛みだった。
私という者の大事な部分を拾い上げて、
掃き切った地面を見下ろすことから、
空を見上げる気分へと私はなった。
叶わなかった想いの先は
肩からどんよりと脱力してゆき、
没落したか私と思いきや、
案外平気な顔をしていた。
心の痛みは軽傷で済んだのだった。
年齢を重ねた私の片想いは、
若かった頃の片想いとは違っていた。
どちらかと言えば、
欲しい物があった頃と違って、
今になると、欲すべき物への対処という
生き方へシフトしてゆく。
そんな、この度の片想い。
また新たな私を起こさねばならない。
夢から覚めたかのように、
今日も
気づかない内に散らばっている落ち葉を
また箒で掃く日常に戻ってゆくのだった。
(おしまいです。1216字)
☆彡
あとがき
片想い文芸部、お題「落とし物」で
参加させていただきたく思います。
実は、
丁度本日、片想いに破れた日なのでした。
拙作ですが、どうぞよろしくお願い申し上げます。
つる 拝
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