「Bling-Bang-Bang-Born」なぜ東欧から?海外ヒットの構造をデータ可視化で探る
【1万字を先に要約】
Creepy Nutsさん「Bling-Bang-Bang-Born」は、YOASOBIの「アイドル」とは異なる経路で世界的にヒットしました。特に、ウクライナを始めとする旧ソ連圏でいち早く人気が爆発し、その後ヨーロッパ各国へ波及しました。
この現象は、アニメファン層が強い地域以外での広がりという点で異例です。Spotifyのデータからは、BBBBと類似した楽曲としてK-POPが挙げられ、従来のJ-POPやアニメタイアップ曲とは異なる受容のされ方を示唆しています。TikTokやYouTubeでの拡散も、アニメ作品とは独立してダンスが広まった点が特徴的で、ハッシュタグや作品名を含まない投稿が多いのです。
これは、楽曲が持つリズムやオノマトペ、キャッチーなダンスが言語の壁を越えて拡散したことを意味しているようです。藤井風さん「死ぬのがいいわ」と同様に、BBBBも意図しない形で情報が伝播し、文脈が変化していく「バタフライエフェクト」のような現象が見られます。
旧ソ連圏で特に早くヒットした背景には、同地域の民謡を想起させるリズムやメロディが影響している可能性も指摘されます。また、戦禍や政治的な不安定さを抱える地域で、コミカルで明るい楽曲が受け入れられたという側面も考えられます。
このような「誤配」によって生じる変異こそが、現代におけるグローバルヒットの新たな構造を示唆していると言えるかもしれません。
世界を席巻した「Bling-Bang-Bang-Born」の謎
Creepy Nutsさんの「Bling-Bang-Bang-Born」は、2024年、日本から世界へ広がった音楽の象徴的な存在となりました。以前にもYOASOBIさんの「アイドル」など記録的なグローバルヒットはありますが、データからは「Bling-Bang-Bang-Born」が、従来とは異なる広まり方していたことが確認できます。なぜこれほどまでに世界中で人気を博したのか、そのヒットの構造を分析してまとめておきます。
東欧発の異例のヒット:ウクライナから始まった波
まずSpotifyデータからは「Bling-Bang-Bang-Born」が、戦禍のウクライナから始まり、ベラルーシ、カザフスタンといった東欧〜中央アジアの国(旧ソ連圏)々で日本チャートよりいち早く上位にチャートインしたことが確認できます。他の欧州諸国もそれに続いていく様子が日別順位の推移からは確認できます。

こうした国々は、YOSOBIさん「アイドル」もSpotifyでは未チャートインの国々となっています。
ウクライナからドイツへ:Wikipedia閲覧数データから
また、Spotifyデータ上の「Bling-Bang-Bang-Born」の再生回数の推移をエリアチャートで視覚化しました。ドイツ、フランス、イタリアといった欧州各国は、順位は100位以降ですが、回数では日本に次ぐ規模となっています。Spotifyユーザー数がある程度多い国々のため、同曲の欧州での伝播に影響を生んでいると考えられます。

そしてWikipediaデータからCreepy Nutsさんのページの各国語版の閲覧数推移を可視化してみます(縦軸は各国独立)。
閲覧者数の分母が多いはずの英語版のスパイクがリリースから2ヶ月後と遅くなっています。一方、ドイツ語版は早期に増加がみられることから、同曲のグローバルヒットには、 ヒットチャートの流動性が高くかつ人口規模もあるドイツが一定の役割を担ったのではないかという仮説が想起されます。

また、ウクライナ語版やフランス語版のページ新たに生まれている点からも、この曲が欧州、東欧で「発見」されていった様子が浮かび上がってきます。
(▼2024年12月28日追記)
ウクルインフォルム通信(ウクライナ)編集者として長くウクライナで活動されている平野高志さんが、「Bling-Bang-Bang-Born」リリースからほぼ一年経った今も、戦禍のキーウで同曲が聴かれている様子をXに投稿してくださっています。
おお、キーウのカフェでCreepy Nutsが流れている pic.twitter.com/sRbPUsgMiI
— Hirano Takashi 🛩️ 平野高志 (@hiranotakasi) December 27, 2024
「アイドル」との比較:異なる伝播の構造
次にSpotifyデータから「アイドル」「Bling-Bang-Bang-Born」の国別再生回数を地図で可視化してみました。同じグローバルヒットといっても、アジアに強かった「アイドル」と、ドイツ他欧州など多数国のロングテール構造をもつに至った「Bling-Bang-Bang-Born」と、異なる伝播の仕方がみえてきます。

アニメタイアップの効果:「アイドル」と「BBBB」の違い
YOASOBIさんの「アイドル」の記録的なヒットの要因の一つには、リリース直後に急速に増殖していった「歌ってみた」「踊ってみた」動画の存在が挙げられます。当ラボではtwitterのネットワーク分析から、その情報伝播が、主に国内外の日本アニメーション関係者やアニメファンによって担われた可能性を指摘しています。
他方、「Bling-Bang-Bang-Born」は、日本のアニメーション作品「マッシュル」のOP曲に起用されていたという意味では、「推しの子」のOP曲であった「アイドル」と同じくアニメーションタイアップ曲であると言えますが、ウクライナやベラルーシや欧州には、Spotifyデータ上、「アイドル」はチャートインしていませんし、他のアニメーション曲も上位にチャートインすることがなかった国々です。
Spotifyで浮かび上がる類似楽曲:K-POPとの接点
Spotifyにおいて「アイドル」「Bling-Bang-Bang-Born」と類似したチャートイン傾向を持つ曲をコサイン類似度を用いて算出してみると、興味深い違いが浮かび上がってきます。
「アイドル」のチャートイン傾向と似た楽曲には、K-POPに加えて、日本アニメーションの主題歌や、台湾のジェイ・チョウの曲などが入ってくる。YOASOBIさん自身の過去曲「夜に駆ける」とも似ています。
一方、「Bling-Bang-Bang-Born」のチャートイン傾向と似た楽曲jは、すべてK-POPで、Stray KidsやBLACK PINKの楽曲など、世界各地で盛んに聴かれている楽曲が含まれてきます。

いまやK-POPは、様々なジャンルを取り込みながら、英米やラテンの音楽と並び、世界中で聴かれている音楽になってきています。
(その背景には世界的に進行する「洋楽離れ」があります。詳しくは当ラボの下記noteを参照ください。)
そのような意味で、「Bling-Bang-Bang-Born」は、従来のJ-POPやアニメーションタイアップ曲が持っていたある種の壁を突破し、K-POPに近い形で多様な地域で受容されたと言えます。
欧州での浸透:セリエA選手も踊った腕振りダンス
「Bling-Bang-Bang-Born」が欧州でいかに浸透していったかは、24年8月のセリエAの試合後に、鈴木彩艶選手がイタリアTVの司会者さんから「BBBB」の腕振りダンスをせがまれて踊っていた一幕からもうかがい知れます
Spotifyデータなどから見える、欧州でのCreepy Nutsさん「Bling-Bang-Bang-Born」のダンスの浸透度合いは、セリエAの試合後に、鈴木彩艶選手がイタリアTVの司会者さんからダンスをせがまれて踊っていた一幕からもうかがい知れます✍https://t.co/lIDmpvc83u
— 徒然研究室(仮称)✍🏻 (@tsurezure_lab) December 10, 2024
TikTokとYouTubeのデータ分析:作品から離れた拡散現象
こうしたデータからは、「Bling-Bang-Bang-Born」が、アニメーションタイアップ曲でありながら、今まで日本のアニメーションが持っていた、アジアや米国といったアニメファンが多い国々への情報伝播チャネルとは異なるチャネルを通じて、欧州や中央アジアへ伝播していったという仮説がみえてきます。
ユーザー投稿の増殖:TikTokとYouTubeのデータ可視化
「Bling-Bang-Bang-Born」リリース直後に何が起きていたかを、TikTokのデータから可視化してみましょう。
TikTokで「Bling-Bang-Bang-Born」の楽曲を使用していた3,348投稿の出現時期といいね数を視覚化してみました。
ハッシュタグor本文に作品名を含まない投稿を、青色のマーカーで描画しています。

ご覧のようにリリース直後から、作品名をハッシュタグにも本文にも含まない投稿が、多数投稿されていることがわかります。これらの中には日本語以外の言語による投稿も多く含まれます。
例えば同曲リリースの1月7日から4日後の1月11日にロシア系の言語で投稿され下記の投稿には、多数の視聴回数やハートやコメント、シェアを得ていますが、投稿本文やハッシュタグには作品名の記述はありません。

@gan_islam Давно я такого не слышал #озвучкер #flarrowfilms
♬ Bling-Bang-Bang-Born - Creepy Nuts
こちらの方はおそらくロシア住む声優さん(「鬼滅の刃」の炭治郎の吹き替えなどを担当している模様)のようで、映像中には「Взяться за озвучку аниме только из-за опенинга?(アニメの声優をオープニングだけのために引き受ける?)」、投稿本文には「Давно я такого не слышал #озвучкер(こんなのを聞いたのは久しぶりだ #ナレーション )」という記述があります。このユーザーさんの他の投稿には、日本のアニメーション映像を使ったものもみられますが、この動画では、「マッシュル」への明示的な言及は見出せません。
膨大な数のYouTube投稿動画:公式ハッシュタグの欠如
同様の傾向はYouTubeのデータを可視化しても確認できます。リリース後14日間で703本(「アイドル」が6ヶ月かけて到達した規模)も投稿されている「Bling-Bang-Bang-Born」関連動画の中で、公式ハッシュタグである「BBBBダンス」を含む動画は決して多くないものとなっています。

これらのデータから、「Bling-Bang-Bang-Born」のリリース直後の早い段階で、「マッシュル」OPの腕振りダンスの振り付け「だけ」が曲と一緒に独立し、OP映像を知らない海外のTikTokユーザーにも次々に踊られ、増殖していった可能性が見えてきます。
藤井風「死ぬのがいいわ」:同型のバタフライエフェクト
こうした現象は、2022年に起きた藤井風さん「死ぬのがいいわ」のグローバルヒット時にも観察できます。
バイラルの発端の一つはタイにおけるTikTokクリエイターの動画とされますが、その頃に同曲を使用していた動画を見ると、日本のアニメーション作品のキャラクターの映像にBGMとして載せているものが散見されます。

では、最初の発信主体の多くはアニメーションファンだったとして、その後、曲が引き続きアニメーションの文脈で聴かれたかというと全くそうではなく、短期間の間にフィリピンのBTSさんのファンダムによってメンバーのマッシュアップ動画に使われ、それが大いに拡散を生んだいうことがわかっています。(詳しくは当ラボのnoteにまとめています。)
このように現代の情報環境におけるグローバルヒットの中には、思いもよらぬ他者が思いもよらぬ動機で情報を受け取り、転用し、文脈を変えていく中で、楽曲の意味が変異していくというプロセスが観察できます。(そもそも「死ぬのがいいわ」はノータイアップ曲だったのです。)
当事者が想定していない、世界のどこかの国の誰かが発信したメッセージが、複雑で偶発的に形成されるネットワークを経由するうちに、大きな旋風を巻き起こす…まるでバタフライ・エフェクトのような構造が現代のヒットの特徴の一つであると考えら得ます。
Spotifyフォロワー数の可視化: 伸びる余地が大きい
そんな偶発的なバタフライ・エフェクトのような構造は、フォロワー数の増加度合いに影響を与えます。
例えば、SpotifyのAPIから取得できる「アーティストのフォロワー数」というデータを使って、日本のTop50曲とそのアーティストのフォロワー数を視覚化してみましょう。4番目の「Bling-Bang-Bang-Born」のところにCreepy Nutsさんのフォロワー数を描画していますが、他のグローバルヒットアーティストさんたちに比べて、まだまだ伸びる余地のあるフォロワー数となっています。

このデータからは、Spotify上において、「Bling-Bang-Bang-Born」のグローバルヒットが、アニメーション作品だけでなく、アーティスト認知からもある程度独立して急速に聴かれるようになった可能性が見えてきます。
公式動画のコメント数比較:ダンス動画の意外な緩やかさ
YouTube上の「Bling-Bang-Bang-Born」関連の三つの公式動画、
「マッシュル」公式OP 1月7日公開 (腕振りダンスアニメあり)
アーティスト公式MV 3月3日公開(腕振りダンスアニメあり)
THE FIRST TAKE 3月8日公開(本人出演 ダンスなし)
に寄せられている多数のコメントがどのようなスピードで増えていったか、その累積コメント数を視覚化して比較してみましょう。

ご覧のように緑のラインの「THE FIRST TAKE」は公開直後から垂直的に多数のコメントが集まっていますが、この動画には腕振りダンスは登場しません。
次に青のラインのアーティスト公式MVはマッシュルOP映像のとのコラボのようなリリックMVとなっていますが、立ち上がりは「THE FIRST TAKE」よりは比較的緩やかです。
そしてピンクのラインの「マッシュル」OP動画は、「Bling-Bang-Bang-Born」リリースから、他の2本の公式動画が公開されるまでの2ヶ月間の間、YouTube上で視聴できる「マッシュルの腕振りダンス」が観られる唯一の公式動画でしたが、コメント数の増加ペースは最も緩やかとなっています。
コメント数と視聴回数の動向は完全には一致しないと思いますが、その増加ペースから、ある程度視聴回数、つまりユーザーからの注目度を推し量ることができるはずです。
ISRCの謎:チャート集計の盲点?
つまり、基本的に「聴覚」から聴かれるSpotifyデータでの「Bling-Bang-Bang-Born」の、欧州諸国での垂直的な再生回数の立ち上がりに対して、「視覚」で観られる動画であるYouTubeデータ上での同曲への注目度の上昇は比較的緩やかなのです。
これらのデータは、「Bling-Bang-Bang-Born」のリリース直後の早い段階で、「マッシュル」OPの腕振りダンスの振り付け「だけ」が曲と一緒に独立し、OP映像を知らない海外のネットユーザーにも次々に踊られ、増殖していった…という当ラボの仮説を支持してくれるかもしれません。
なお「マッシュル」OP動画は、「Bling-Bang-Bang-Born」リリースから他の2本の公式動画が公開されるまでの2ヶ月間の間、YouTube上に存在する唯一の「マッシュルの腕振りダンス映像」が観られる公式動画でしたが、ISRC(音源に割り当てられる識別番号)が付番されておらず、Billboardのグローバルチャートのストリーミング指標に組み入れられていなかったのではないかという指摘があります。
#CreepyNuts「Bling-Bang-Bang-Born」のアニメノンクレジットオープニング動画は制作会社アカウント発ゆえ、カウント対象となるISRCが付番されずにグローバルチャートのストリーミング指標に組み入れられないはずです。仮に歌手側発の動画があれば、事態は変わったと考えます。https://t.co/RnHZIYWYmb
— Kei (ブログ【イマオト】/ポッドキャスト/ラジオ経験者) (@Kei_radio) February 20, 2024
SpotifyとYouTube Chartsの日本以外での再生/視聴回推移を比較すると、リリース直後から欧州中心に再生回数のピークを記録するSpotifyデータの対して、YouTube Chartsデータでのピークは3ヶ月近く後ろ(アーティスト公式MVとTHE FIRST TAKE公開以降)にあるのです。

こうしたデータは、チャートアナライザーのKeiさんによる、「『マッシュル』OP動画にはISRC(音源に割り当てられる識別番号)が付番されておらず、チャートの集計対象にならないのではないか」という指摘を裏付けているかもしれません。
いずれにしましても、リリースから3ヶ月近くもの間、ISRCが付番された公式MVが用意されていなかったとすれば、「Bling-Bang-Bang-Born」の大ヒットは、当事者の計画すら大きく超えたグローバルヒットだったのではないか…と推察することができるかもしれません。
前例なきヒットの謎:プロモーションの不在?
そこで気になってくるのが、「一体何が、J-POPやアニメーションタイアップ曲にとってほぼ未到の地であった東欧など欧州諸国での人気を牽引したのか…?」という謎です。
一般的に考えて、限られた予算や人員や時間の中で、「このJ-POPの新曲のグローバルヒットを目指そう!」と計画を立てるとき、まずはアジアや米国からで、ウクライナやベラルーシといったJ-POPにとって馴染みのない地域に優先的にプロモーション費用を投下したり現地のインフルエンサーを起用したり…といった計画にはなりにくいのではないでしょうか。
TikTok上では、1月20日前後に同曲を使用した「#PR投稿」付きのユーザー投稿がいくつかみられますが、このタイミングは東欧での垂直的な立ち上がりとは一致しません。

旧ソ連圏での異様なヒット:ロシアとの隠れた関係
そこで着目したいのが、「Bling-Bang-Bang-Born」がリリース後1週間という早い段階でSpotifyチャート上位にランクインしていた国々の地理的分布です。

ご覧のように、ウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンといった国々ですが、これらは旧ソ連からの独立国で、地図上にプロットしてみるとロシアと接している国々になります。(Spotifyはロシア-ウクライナ開戦に伴いロシア事業から撤退しているため、ロシアのデータは不在。)
類似曲の検証:ロシア民謡との意外な共通点
一方、「Bling-Bang-Bang-Born」リリースから他の2本の公式動画が公開されるまでの2ヶ月間の間、YouTube上に存在する唯一の「マッシュルの腕振りダンス映像」が観られる公式動画だった、「マッシュル」OP動画の無数のコメントを解析すると、初期の段階から気になるコメントが散見されます。

ご覧のようにリリース直後から、ロシアのダンスやロシア民謡のメロディラインとの類似を指摘する国内外(ロシアから含む)のコメントが散見されるのです。
確かにコサックダンスのように見えるシーンが一瞬あるのですが、そのような部分的な類似性ではないようです。

一体どういうことでしょうか。一部のネットユーザーの間では、「Bling-Bang-Bang-Born」に似ていると言われる曲として、ロシアの、あるいはロシアに関連した曲が挙げられているようです。
例えばロシアのグループLittle Bigの楽曲「Uno」です。ロシアとスペイン語が混ざった曲のようです。
確かに、そこはかとなく共通項を感じるかもしれません。
他には、西ドイツグループ、ジンギスカンによる「めざせモスクワ」も挙げられています。
リズム、オノマトペ、ダンスの連鎖
つまり、「Bling-Bang-Bang-Born」が、ウクライナやベラルーシ、カザフスタンといった旧ソ連からの独立国で、日本より早くSpotifyチャート上位にランクインしていった背景には、この楽曲が、米国などで流行しているジャージークラブのビートを取り入れているだけでなく、ラテンのニュアンスに加えて、そもそも旧ソ連圏の地元の民謡のリズムやメロディ、ダンスを彷彿とさせる親しみやすさがあったことが小さくなかったのではないでしょうか。
加えて、早口の日本語ラップによるオリエンタルなリリック、そして「ブリン!」という、国境を超えやすいオノマトペの多用、そして、オリジナルを参照せずとも初見でコピーできて増殖しやすい腕振りダンスの組み合わせの優位性があったのではないでしょうか。
今井・秋田著『言語の本質』という非常に面白い本に、
「大股でゆっくり進む動作」が、
「ノシノシ」と「チョコチョコ」
どちらに該当するか?
と外国人に質問すると、偶然よりも高い確率で正解する...とあります。
破裂音を強調して歌われるサビの「Bilng-Bang-Bang, Bilng-Bang-Bang -Born」や「ブリン!」というコーラスそのものがオノマトペ性を持っていて、腕振りダンスと相まって言語の壁を越えやすかった、という面もあったのかもしれません。
米国での反応:J-POPリスナー層の存在
なお、近年のJ-POPのグローバルヒットにとって重要な国である米国については、Spotifyのチャート上ではチャートインは確認できません。一方YouTubeではリリース直後から韓国と並んで多く視聴する国となっていることから、SpotifyでもTop 200圏外で聞かれていた可能性はあるかもしれません。

ただ、そもそも米国はストリーミングユーザー人口の大きさも相まって、J-POPをよく聴く国の一つです。例えば当ラボが23年にJ-POPアーティストの「日本以外での聴かれ方」をYouTube Chartsから分析した際にも、XGさんやAdoさんを最も聴いている国は米国でした。

加えて「Bling-Bang-Bang-Born」は、海外の音楽シーンやTikTokで流行しているジャージー・クラブのビートを取り入れています。その発祥は米国ニュージャージー州ニューアークとされ、現在米国のラップやダンスカルチャー、SNSで多用されています。そのような意味でも「Bling-Bang-Bang-Born」が米国よく聴かれる未来は、ある程度想定可能だったように思えます。
ところが東欧や欧州はそうではないのです。
したがって当ラボは、「Bling-Bang-Bang-Born」のヒットの構造としては、米国よりも、それ以外の今までJ-POPが到達しきれなかった国々での新たな聴かれた方に興味を惹かれるのです。
(2024年12月22日放送 NHKスペシャル「熱狂は世界を駆ける~J-POP新時代~」を視聴しての追記 )
米国で拡散を担った動画:コメント欄解析からわかること
NHKスペシャルで紹介されていた、米国での「Bling-Bang-Bang-Born」の拡散源の一つ、YouTuber/TikTokクリエイター「The Anime Men」のジェレミーさんが、インタビューに次のように答えていたのが印象的でした。
日本の音楽やアニメのファンじゃない人にもウケたんだ。インターナショナルなビートで誰でも踊れるし ハマれるからね。
元々、世界各地には日本アニメの主題歌を常にウォッチして紹介しているSNSアカウントが無数に存在します。The Anime Menもその一つですが、彼らは「Bling-Bang-Bang-Born」はアニメファン「以外」の層に届いたのだと述べています。
同曲の拡散を担った該当動画は同曲リリースから間もない1月13日(TikTok)と1月16日(YouTube)に投稿されていますが、YouTubeの動画タイトルを除くと、「マッシュル」の映像や作品名への言及はなく、腕振りダンスだけを抽出して、あとは独自の振り付けでパフォーマンスしている動画となっています。彼らの他の動画に比べるとコスプレ色もほぼ無い動画になっています。
@theanimemen Gotta put everyone on this song #anime #smejambassador
♬ Bling-Bang-Bang-Born - Creepy Nuts
このYouTubeショート動画に寄せられた2099件のコメントを自然言語解析(英語を対象)し、名詞の頻出語を可視化すると、「song」が最多であることがわかります。

そこで「song」を含むコメントを抽出して、この動画での「Bling-Bang-Bang-Born」がどう評価されているのか、コメントの投稿日情報も使って分析してみましょう。

時系列的な変化
2024年1月:
認知の初期段階: 「Creepy Nuts」というアーティスト名やアニメのオープニングテーマであることを初めて知ったというコメントが目立ちます。
楽曲への驚き: アニメの曲らしくない、予想外の音楽性であることに驚くコメントが見られます。
ジャンルの誤解: K-POPやレゲトン、アフリカの音楽など、他のジャンルと誤解するコメントが見られます。特に、ロシアの音楽「Little Big - Uno」との類似性が指摘されています(注:先ほども取り上げたLittle Bigの楽曲「Uno」です(!))。
楽曲への好意的な評価: 全体的に、楽曲に対する好意的な意見が多い傾向が見られます。
2024年2月:
楽曲の爆発的な拡散: 「あちこちで聞く」「逃れられない」といったコメントが急増し、楽曲が広く拡散している様子が伺えます。
楽曲への肯定的な評価の増加: 「好き」「中毒性がある」といったコメントが増え、楽曲を肯定的に評価する人が増えています。
否定的な意見の顕在化: 一方で、「うんざりする」「嫌い」といった否定的な意見も表面化し、過度な拡散に対する反発も現れています。
アニメへの興味: 「アニメを見てみようかと思う」といったコメントが出始め、楽曲をきっかけにアニメに興味を持つ人が現れています。
2024年3月:
賛否両論の継続: 引き続き楽曲に対する評価は二分しており、肯定的なコメントと否定的なコメントが混在しています。
楽曲の比較: 他のアニメソングと比較するコメントが見られます。
拡散の継続: 「今日も20回くらい聞いている」といったコメントから、楽曲の拡散は続いていることがわかります。
アニメファンのコメント: 「お気に入り」や「アニメ主題歌」など、アニメファンからのコメントも多いです。
2024年4月〜7月:
楽曲の継続的な認知: 楽曲をすでに知っている前提でコメントする人が多くなり、楽曲が一定の認知を得ていることがわかります。
多様な感想: 「好き」という単純な感想だけでなく、楽曲から連想されるイメージや、具体的なシーンについての言及も現れています。
アニメファン以外の関与: アニメファンではないユーザーからの肯定的なコメントが継続して見られ、楽曲がアニメファンダムを超えてリーチしていることが伺えます。
***
…ということで、以上のような経緯やコメント欄の解析結果からは、米国でも、きっかけとなった動画の投稿者はアニメ系のインフルエンサーである一方で、アニメ色が限りなく薄く、腕振りダンスだけを採用して独自に作られた動画が、作品とは独立して伝播していったプロセスが読み取れます。
(なおTikTokの方には「#smejambassador」というハッシュタグが付与されていますが、これが同曲のPR施策の一貫であることを示すハッシュタグなのか、確なところはわかりません。)
戦禍での受容:不安定な情勢と明るい文化の融合
最後に、「Bling-Bang-Bang-Born」を急激に聴き始めた、ウクライナやベラルーシなど、元々J-POPリスナーやアニメファン層がそれほど多くないと思われる地域で何が起きていたのか?について考えを巡らせてみたいと思います。
ウクライナにはロシアとの戦争による戦禍があります。
ベラルーシには、ウクライナを支持するために国旗を掲げた市民が実刑を受けるなど、政権に対する反対意見が厳しく弾圧されていたことが報道されています。
つまりともに、国内情勢に、ロシアに関連した不安定な国内環境という、ある種の共通項があったようです。
そんな不安な空気の中で、ユーラシア大陸の極東の島国から発信された「Bling-Bang-Bang-Born」と腕振りダンスが、旧ソ連圏のメロディをどこか思い出させながら、オリエンタルな響きのコミカルなラップで、不安を紛らわしてくれる明るいカルチャーとして受容された側面もあるように感じます。
それはおそらく作り手の意図を大なり小なり超え出ていった現象です。
(▼2024年12月22日放送 NHKスペシャル「熱狂は世界を駆ける~J-POP新時代~」を視聴しての追記 )
NHKスペシャルで紹介されていた、ウクライナの「Bling-Bang-Bang-Born」のリスナーとして、キーウ在住の女性ポリーナ ゴンタさんの次のようなインタビューが紹介されていました。
「大変な時だけどBling-Bang-Bang-Bornで踊ってみた」
というムーブメントが起きたんです。
その中でウクライナ軍の兵士が踊る動画もあって とにかくバズりました。戦争が始まって以来その反動でウクライナでは楽しい動画の人気が高まっているんです。
兵士が腕振りダンスとは.…..まさに「思いもよらぬ他者」が「思いもよらぬ動機」で受け取って、バイラルを生む中で、元はアニメ作品の主題歌だった曲が、「厭戦」というメッセージ性を帯びていったわけですね。
実に興味深い...!
(▼2025年2月11日追記 )
チャートの背後にある人の移動:グローバルヒットを読み解く人口学的視点
EU統計局であるEurostatが公開しているデータから、EUへどれくらい移民が流入しているのかを視覚化してみましょう。

EUは英国離脱やコロナ禍を経験していますが、そうしたイベントを経てもなお、EU諸国への移民は猛烈に増加しています。
1998年からの24年間で、1億人近くが移民としてEU諸国に流入してきています。2022年時点の上位3ヶ国はドイツ、スペイン、トルコです。ドイツ1国では、全人口が8440万人に対して、この24年間で累計2036万人が流入しています。
まずもって、このような持続的な人間の大移動は、離れた出身国と移民先で離れて暮らす家族や友人との間にはもちろん、国際的な婚姻関係や親族関係の新たな構築を通じて、見えないネットワークを形成するとみられます
先ほど、「Bling-Bang-Bang-Born」リリース後初期のSpotifyデータ上の再生回数の推移やWikipedia「Creepy Nuts」ドイツ語版やウクライナ語版の閲覧データから、ドイツの重要性について指摘しました。
そのドイツに、どこから移民が流入してきているかをeurostatのデータから可視化してみましょう。

ご覧の通り、EUで最も多くの移民を受け入れているドイツへは、トルコに次いでウクライナからの移民が多くなっているのです。
こうした人口学上のデータからは、ウクライナでのヒット曲が、TikTokのアルゴリズムだけでなく、移民が形成する国境を超えたネットワークを通じて伝播していく構造が大なり小なり出現しているという仮説が想起されます。
さらにドイツだけでなく、EU加盟国とEFTA諸国における主な外国籍市民がどこからきているのかもサンキーダイアグラムで可視化してみましょう。

元データは流入元に上位5ヶ国のみを採録したものですが、欧州の外側も含めて多様な国から多くの人が流入してきている様子がわかります。
人数の多い流入元には、ウクライナに加えて、ルーマニアやポーランドなど、旧ソ連下で共産主義体制が成立していた国々が確認できます。
こうした人の移動や移住は、流入先国での社会問題の背景となる一方で、言語や文化の壁をすり抜ける複雑な情報ネットワークの形成をもたらすのではないでしょうか。
グローバルヒットの背景を探究する際、国別ヒットチャートのデータだけを見ていると、それぞれのチャートイン国に別々の事情があって、独立性の強い同時多発的なヒットであるというように見えるかもしれません。
しかしこうした歴史人口学的、家族社会学的な視座からグローバルヒットを見つめる時、実は私たちが見落としている、国民国家という枠組みの裏側に移民を通じて形成され、TikTokやテレグラムによって促進されている、思いもよらぬ情報流通経路が存在している可能性が浮かび上がってきます。
おもしろい…!
「誤配」が生む変異:グローバルヒットの新たな構造
今回の分析も含めて、この数年データを通じて少なからぬ数のJ-POPのグローバルヒットを分析してきたのですが、そこから見えてくるのは、作品を「作り手にとって思いもよらぬ他者」が「思いもよらぬ動機」で受け取ることで変異が生まれ、それらが個々にネットワークを流れるうちに国境を越えて伝播していく..という構造です。
それはまるで、東浩紀さんが『観光客の哲学』で述べている「誤配」のようです。「誤配」とは、情報やメッセージが意図しない相手に届くことで、新たな解釈や価値が生まれる現象で、自由の源泉ともなりうるものです。
「Bling-Bang-Bang-Born」のデータ分析から見えてきた光景は、そんな「誤配」の社会実験版を見ているかのようで、あまりの興味深さに心が震えるほどです。
予測不能な時代:誤配の肯定的な側面
当ラボが研究対象としているポップカルチャーや社会現象はもちろん、世界の様々な領域で「予測」と「再現」が難しくなっているように感じます。
そういう時代は(否定的のみならず)肯定的な意味での「誤配」が生まれやすい環境とも言えます。同時に、だからこそ「壁」も超えていける可能性が高まる。
「今までの常識で説明できない現象の発生」は、世界に対する自分の認識と、実態のズレを認識し、理解を深め、そして壁を超えるための絶好の機会にもなりえる、たいへんにおもしろい研究対象のように感じます。
なお、このnoteを書いている翌日に、NHKスペシャルにて「NHKスペシャル 熱狂は世界を駆ける~J-POP新時代~」が放送され、Creepy Nutsさん、Number_iさん、新しい学校のリーダーズさんが取り上げられる予定です。こうしたドキュメンタリーという、ある種のフィールドワーク的なアプローチも、データと組み合わさることで、予測と再現が困難な時代を理解する上での新たな知見を示してくれるのではないかと楽しみです。
まとめ
「Bling-Bang-Bang-Born」は、旧ソ連圏で先行してヒットし、その後ヨーロッパに波及。
アニメファン層が強い地域以外での広がりが特徴的で、K-POPに近い受容のされ方。
TikTokやYouTubeで、アニメ作品から独立したダンスが拡散。ハッシュタグや作品名を含まない投稿が多い。
楽曲のリズム、オノマトペ、ダンスが言語の壁を超えて拡散した可能性。
「バタフライエフェクト」のように、意図しない形で情報が伝播し、文脈が変化。
旧ソ連圏でのヒットには、同地域の民謡を想起させる要素が影響した可能性。
不安定な情勢下で、明るい楽曲が受け入れられた側面も。
「誤配」による変異が、現代のグローバルヒットの新たな構造を示唆。
以上、徒然研究室でした。Xでもオープンデータとプログラミングで関心あることを分析してポストしています。どうぞご贔屓に🙏
YouTubeのMVコメント欄に頻出する「聞く/聴く」という動詞の使用コンテクストを抽出すると、「聴きに来ました」という表現が多用されていることに気が付きます。これはCDやサブスクでは成立しにくい表現で、YouTubeだから成立する「巡礼」のメタファーであるように感じます✍️… https://t.co/mjEAxbhrjx pic.twitter.com/XsUG2D2ddI
— 徒然研究室(仮称)✍🏻 (@tsurezure_lab) December 16, 2024
