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ジェリーフィッシュは凍らない/市川憂人(読書レポート ネタバレあり)

ひとこと紹介

クラゲのような犯人はどこから来てどこへ行くのか

概要

タイトル:ジェリーフィッシュは凍らない
著者名:市川憂人
刊行年:初版2019年6月28日
ページ数:382
あらすじ:

特殊技術で開発され、航空機の歴史を変えた小型飛行船〈ジェリーフィッシュ〉。その発明者である、ファイファー教授たち技術開発メンバー6人は、新型ジェリーフィッシュの長距離航行性能の最終確認試験に臨んでいた。ところがその最中に、メンバーの1人が変死。さらに、試験機が雪山に不時着してしまう。脱出不可能という状況下、次々と犠牲者が……。第26回鮎川哲也賞受賞作。

東京創元社 公式より
https://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488406219

紹介(ネタバレ無し)

クリスティの『そして誰もいなくなった』、あるいは綾辻行人の『十角館の殺人』を彷彿とするクローズドサークルです。
表紙にある本当にクラゲみたいなビジュアルの架空の飛行船ジェリーフィッシュ。実在するもので一番近いのがツェッペリンに代表される硬式飛行船でしょうか。
それより遥かに小型化に成功した世界で、その新型ジェリーフィッシュの確認試験中に試験機が雪山に不時着。技術開発メンバーが変死、次々と殺されていくという流れ。

また人数の割にイメージ把握がしやすいです。皆不自然でない程度にキャラ立ちしています。(とはいえ人物表は欲しかったですが…)

警察

  • マリア:赤毛の美麗な女性。大雑把なところが目立つが肝心な場面では頭の切れる警部

  • 漣:マリアの苦手な細部を埋めるように、微に入り細を穿つ性格。またなにかとマリアへのあたりも強い

技術開発メンバー

  • ファイファー:酒浸りの元研究室の教授

  • ネヴィル:疑心暗鬼気味で冷徹なリーダー

  • クリス:いいところの御曹司だがいたずら好き

  • ウィリアム:神経質で小心

  • リンダ:紅一点。好色でわがままっぽい

  • エドワード:理知的だが感情の起伏に乏しい。唯一、研究室出身ではない

ミステリとしてもマリアの性格上からか、現実的な物から非現実的な物まで思いついたものすべて様々な推理が広げられるのも面白い所。調査し、マリアが何度も突飛な発想をして、漣がそれを棄却する中で、徐々に論を進めるのはそれもまたミステリの醍醐味という感覚になります。

また本作で一番深ぼられるのがやはり犯人の内面で、挿入される犯人のレベッカとの思い出を辿る回想や、マリア・漣との対峙から描かれるレベッカへのプラトニックな感情もまた見所。

クローズドサークルで全員他殺と思われる中誰が殺人を犯し、もし七人目がいるのならどうやって雪山から脱出したのか?という謎への魅力的な解決。また技術開発メンバー、警察、空軍と様々な立場、そして犯人の人間性を描いた鮎川哲也賞受賞も納得の一作でした。

〜〜〜以降ネタバレを含みます〜〜

感想(ネタバレあり)

ジェリーフィッシュ

犯人は6人の中にいるのかいないのか、いないのならどうやって脱出したのか?という謎が、ジェリーフィッシュがもう一機あった、というシンプルに解決するのが巧みです。
技術開発メンバーもジェリーフィッシュを手土産に亡命するという目的を持った人間がおり、空軍へ提出した資料に齟齬があったり、この仕掛けを外部の人間に隠す必然性もあります。
(チェックポイントでの買い出しも、ジェリーフィッシュ二機が交互に降りていたという念の入れよう)
そして新型ジェリーフィッシュの追加された機能がステルス、というのが大きく意味を持ち、これが空軍とのパイプに繋がる上に、何よりそのためにずっとジェリーフィッシュの存在を補足されず、最後の展開に繋がるところもまた良いです。

叙述トリック

ジェリーフィッシュが二機あって、それぞれに三人ずつ別れて乗っていることに気付けるタイミングはそうないでしょう。
割り振りは以下の通りで、
次世代機:ネヴィル、クリス、リンダ
旧型機:ファイファー(二号室)、ウィリアム(三号室)、エドワード
客室が3部屋のみ。二段ベッドはあるものの、同室で寝ている描写はなし。無論ファイファー教授は一部屋を占有しているよう。
あの性格のリンダが誰かと共用で寝泊まりしているとは考えにくいなどからわかりそうな気もします。(後から考えると)
不時着後は何かと一緒にいることが多く、その前でも例えばファイファー教授死亡時、全員が集まっていますがあれはジェリーフィッシュ停泊時のこと。と中々細かく描かれていました。

レベッカの死にまつわる謎

自体もこれ一本で小説書けそうなネタですが、ジェリーフィッシュに関わる解決方法なのが良いです。
当時実用化されていなかった技術による真空気嚢を使って作成された密室という所がミソで、当時の警察組織が無能だからではなく、気づきようがなかったという所が面白いです。

犯人

最大の衝撃は、犯人がエドワードであることよりも、犯人がレベッカにとって何者でもなかった(犯人の自認)というところでしょう。
七人目の存在を隠すのが肝のこのミステリにおいて、読者の目から隠され、最終的に本当の名前すら明かされることなく、ただレベッカを愛しただけの人。
さらには自分をクラゲと自嘲した犯人が、自分の存在もジェリーフィッシュの存在も隠すトリックを弄したところも踏まえて美しい構成だと思います。

まとめ

ミステリ的な面白さは先述の通りで、解決編のマリアと犯人の対峙がやはりよかったです。
真相がわかっても犯人がしっぽを出さないので、誕生日までレベッカの墓で粘っているあたりや、名前の明かされない犯人がマリアの指摘で他人ではなくなるところ。
そしてステルス機能を搭載したジェリーフィッシュで去る幕引きが記憶にずっと残ります。

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