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浅煎りが酸っぱいのは、焼き足りないからではなかった

焙煎のことを調べていて、いちばん驚いたのはここでした。
生豆を焼いている時間は、たったの十数分。
その十数分の「どこで火を止めるか」だけで、
あの一杯は酸っぱくも苦くもなるそうです。

もくじ

  1. コーヒーの学校 第2回 ── 豆が二度鳴く十数分と、浅煎りの酸味の正体

  2. はちみつの学校 第1回 ── スプーン一杯に、ミツバチ十二匹の一生

  3. 水耕栽培 ── コーヒーの木を屋内で育てはじめた人たちと、私たちが真似できる範囲

  4. まとめ ── 「どこで手を止めるか」の話


コーヒーの学校 第2回:焙煎のひみつ ── 豆が二度鳴く十数分

第1回では、品種から産地、焙煎、挽き方までの
「味の地図」を広げました。

今日はその地図のまんなか、焙煎のところに立ち止まります。

焼く前の豆は、草の匂いがする

生豆を手に取ると、青くさい匂いがします。
豆というより、乾いた草に近い。

あの状態で挽いてお湯を注いでも、
私たちの知っているコーヒーにはなりません。
香りの成分が、まだほとんど作られていないからです。

コーヒーの香りは、豆にもともと入っていたものを引き出すのではなく、
火の中で新しく組み立てられるもの。

焙煎とは、そういう作業でした。

二度、豆が鳴く

焙煎機の中で温めていくと、まず水分が抜けて、豆の色が緑から黄色、
そして薄い茶色へ移っていきます。

摂氏百四十度から百六十五度あたりで、
糖とアミノ酸が結びつく反応が本格的に走りはじめる。
パンの耳やステーキの焼き目を茶色くする、あの反応の仲間です。

そして摂氏百九十六度前後で、豆が「パチッ」と鳴ります。

これが1ハゼ。内部の水蒸気に押されて組織が割れる音で、
ここからが浅煎りの入口です。

そのまま火を入れ続けると、摂氏二百二十四度あたりで、
今度は細かく乾いた音が続きます。2ハゼ、深煎りの領域。

つまり「焙煎度」は感覚の言葉ではなくて、
この二つの音のどこで火を止めたかという座標でした。

酸っぱいのは、焼き足りないからではない

浅煎りは酸っぱい。長いあいだ私は、
それを「焼きが足りない未完成な味」だと思っていました。

ちがいました。

生豆にはクロロゲン酸という成分が多く、これが焙煎で壊れていきます。
浅煎りでおよそ半分、
深煎りでは九割近くが失われるという報告があります。

面白いのは壊れ方のほうです。
クロロゲン酸は分解するとキナ酸やカフェ酸に姿を変え、
それが苦味の側に効いてくる。

酸味を測った研究では、豆の酸度は1ハゼのあたりで最も高くなり、
2ハゼに着くころには焼く前の値まで戻ってしまうそうです。

だから浅煎りの酸味は焼き残りではなく、そこにしかない一瞬の山。

深煎りの苦味も、焦がした結果ではなく、
酸が別のものに変わったあとの姿でした。

今日ひとつ:豆の表面が光っているか、見る

家にある豆を、明るいところで転がしてみてください。

表面がしっとり光っていたら、2ハゼを越えたあたりまで焼かれた豆です。
焙煎が深く進むと、豆の中の油が表面ににじみ出てくるからです。

反対に、マットで乾いた見た目なら浅い側。
産地名の風味が出やすいのはこちらです。

袋の「深煎り/中煎り」という言葉より、
目の前の豆の顔のほうが正直でした。

蘊蓄:インドの棚で、七月から数字が並びはじめた

もうひとつ、焙煎にまつわる話を。

南インドでは、
焙煎したチコリの根を挽いてコーヒーに混ぜるのが伝統的な飲み方です。
焙煎されるのは、コーヒー豆だけではないんですね。

そのインドで、今年七月一日から表示のルールが変わりました
「コーヒー・チコリ混合」を名乗る商品は、
パッケージの正面に四角い枠を設けて、
コーヒーとチコリの配合比率を大文字で書くことが義務になった。
コーヒーが五十一%以上、というかねてからの基準に加えて、
その示し方が変わったかたちです。

告示は昨年八月で、移行期間は十一か月。
棚に並ぶ袋が、この夏いっせいに書き換わっているところです。

何%が「コーヒー」なのかを、消費者が棚の前で判断できるようにする。
焙煎の話の先に、こういう線引きがあるのは嬉しい発見でした。

次回予告 ─ コーヒーの学校 第3回「抽出の科学」。
同じ豆、同じ挽き目でも、
お湯の温度を数度動かすだけで味は別物になります。
ドリップ、フレンチプレス、水出し。
器具ごとに何が起きているのかを、次回ほどいていきます。


はちみつの学校 第1回:ひと匙の正体と、夏の一杯


スプーン一杯のはちみつには、
ミツバチ十二匹の一生が入っているそうです。

一匹が生きているあいだずっと働いて、
集められるのはティースプーン十二分の一杯ほど。

その話を知ってから、私はもうあの一匙を雑に扱えなくなりました。

今回から、新しい連載を始めます。名前は「はちみつの学校」。

コーヒーの学校と同じで、回を追うごとに詳しくなる積み上げ式です。
全部読み終えたころには、棚の前で迷わない人になっているはず。

初回の今日は、いちばん手前の話から。
あの琥珀色は、そもそも何なのか。

一匹の一生が、ティースプーン十二分の一杯

働きバチの寿命は、夏でおよそ四十日。
そのうち外に出て蜜を集めるのは、最後の二、三週間だけだそうです。

巣から二、三キロの範囲を飛んで、一日におよそ三千個の花をまわる。
それでも一回の外出で持ち帰れる蜜は、〇・〇四グラムほど。
一日に何度も往復して、それを積み上げていきます。

ただ、集めた蜜の大半は巣の暮らしに消えます。
自分と幼虫の食料、そして巣の中を三十五度に保つための発熱。
貯蜜として残るのは、そのまた一部です。

集めて集めて、一生ぶんでティースプーン十二分の一杯ほど。
数字はどれも目安です。

花の蜜が、はちみつになるまで

集めた蜜は、そのままではまだはちみつではありません。

働きバチは花の蜜を「蜜胃」という専用の袋に入れて持ち帰ります。
胃という名前ですが、消化するためではなく運ぶための袋です。

ここで酵素が加わって、
蜜の主成分であるショ糖がブドウ糖と果糖に分かれていく。
味の骨格は、巣に着く前から作られはじめているわけです。

巣に戻ると、待っていたハチに口移しで渡します。巣の中はおよそ三十五度あって、そこで羽ばたいて風を送り、水分を飛ばしていく。

水分が二割ほどまで減ったら、蜜蝋でふたをする。これが「蜜蓋」で、ここでようやくはちみつになります。

花から採ってきた液体を、家じゅうで扇いで濃くしている。そう考えると、あの粘りは巣の中で過ぎた時間そのものでした。

スプーン一杯の中身

では、その一匙は何でできているのか。

大まかに言うと、糖分で全体のおよそ八割、その大半が果糖とブドウ糖
残りの多くが水分で、こちらは二割ほどしかありません。

面白いのは、果糖とブドウ糖の比率が花によってちがうことです。
この差が、あとで効いてきます。

ブドウ糖は水に溶けにくい糖なので、
これが多いはちみつほど白く固まりやすい。
同じ棚に並んでいても、固まる子と固まらない子がいるのはそのためです。

名前が、花の名前になっている

ラベルの名前を、あらためて見てください。

アカシア、レンゲ、そば。
あれは商品名ではなくて、蜜を集めた花の名前です。

ひとつの花から採れたものを単花蜜と呼びます。
いくつもの花がまざったものが百花蜜。

日本で定番のアカシアやレンゲは、クセが少なくて澄んだ味わい。

そば蜜になると色は黒蜜のようになって、香りもぐっと濃くなります。

おおまかに、色が淡いほど穏やかで、濃いほど風味が強い。
この地図は、第三回でじっくり歩きます。

冷たい一杯に、スプーン一杯

今日ひとつだけ試すなら、これにします。

よく冷えた炭酸水に、はちみつをスプーン一杯。それだけです。

ただし、そのまま入れると沈んだきり溶けません。はちみつは温度が下がると粘りが増すからです。

常温の水を少しだけ使って、先に溶いておく。そこへ炭酸を静かに注ぐと、なめらかにまざります。

レモンをひと搾りすると、甘さの角がとれて夏の顔になります。

保存は、冷蔵庫ではなく棚の上

もうひとつ、今日から変えられること。

はちみつは、冷蔵庫に入れないほうがいい。
十三〜十四度あたりで、いちばん結晶化が進むからです。

冷蔵庫はその温度帯を通り越して冷えるので、途中でしっかり固まってしまう。直射日光の当たらない常温の棚が、いちばんの置き場所です。

白く固まっても、傷んだわけではありません。その理由は、次回で。

⚠️ 一歳未満の赤ちゃんには、はちみつを与えないでください。
加熱しても防げません。理由は第2回でお話しします。

次回予告 ─ はちみつの学校 第2回「なぜ、腐らないのか」。
三千年前の壺から見つかったはちみつは、腐らずに残っていました。
砂糖水なら数日でだめになるのに、なぜはちみつだけが平気なのか。
白く固まったあれを捨てなくていい理由まで。


水耕栽培:コーヒーの木を、
屋内で育てはじめた人たち

ここからは、焙煎の十数分の手前の話です。

二千三百平方フィートの、コーヒー農園

米国ノースカロライナ州の小さな町で、
父と娘の家族経営の会社が、屋内でコーヒーを育てています。

地元のコミュニティカレッジと組んで、校舎の一室、
およそ二千三百平方フィート(六十坪ほど)を農園にした。
世界でも珍しい、商用の水耕コーヒー農場です。

驚いたのは仕組みの素朴さでした。コーヒーの木は一本ずつ、
三ガロン(十リットルほど)のバケツに入っている。
中身は土ではなく、水と養分です。

そこに光と温度と湿度、二酸化炭素の濃度を室内で作る。
標高や気候に頼らず、
コーヒーの木が好む条件のほうを人間の側で用意してしまうわけです。

会社の説明では、水の使用量は従来の農場にくらべて最大で九割少なく、
農薬も使わないとのこと。
数字は自社の説明なので、そのまま鵜呑みにはしません。

今年はフランチャイズの第一号がケンタッキー州で動きはじめ、
豆は小売の棚にも並びました。
「珍しい実験」の段階から、事業の段階へ移りつつあります。

家庭で、どこまで真似できるか

では、うちの窓辺でコーヒーは採れるのか。

正直に書きます。
飲めるだけの豆を収穫するのは、家庭ではかなり難しいです。

コーヒーの木は植えてから実がなるまで三、四年かかると言われます。
しかも一本の木から採れる生豆は、年に数百グラムの世界。
朝の一杯を毎日まかなえる量ではありません。

でも「観葉植物としてのコーヒーの木」なら、話は別です。

濃い緑の葉が向かい合わせにつく姿はきれいですし、水耕でも育ちます。
土を使わないぶん、室内でも清潔に置ける。

苗をハイドロボール(発泡煉石)に植え替えて、根の先だけが養液に触れる高さで支える。直射日光は葉を焼くので、レースのカーテン越しくらいがちょうどいい。

私はこれを「三年後の楽しみ」ではなく、「毎朝、飲む前に葉っぱを見る習慣」として置くのがいいと思っています。

夏は、水温だけは譲れない

ただ、この時期に始めるなら、ひとつだけ注意を。

水耕栽培でいちばん失敗するのが、夏の水温です。
適温はおおむね十五〜二十五度。
二十六度を超えたあたりから水に溶けられる酸素の量が減り、
根が息苦しくなって根腐れに向かいます。

対策はむずかしくありません。容器をアルミシートやタオルで包んで日射を遮る。エアポンプで養液を動かす。日中は室内の風通しのいい日陰に置く。

容器を遮光すると、緑の藻が出るのも同時に防げます。藻は光と高温がそろったときに増えるからです。

育てて、食べる ── 今から間に合う二つ

コーヒーの三年を待つあいだ、
収穫の早いものも一緒に置いておくと台所が楽しくなります。

バジルは種まきから、おおむね四、五週間が摘みはじめの目安です。
暑さに強く、夏の水耕では優等生。摘むほど脇芽が出て茂ります。

摘んだ葉は、さっと洗ってから使ってください。
容器や養液の管理次第では汚れが残ります。

作るなら、まず冷やしトマトのバジルのせ
切って塩とオリーブ油をかけ、葉をちぎって散らすだけ、火は使いません。もうひとつはバジルバターのトースト
刻んだ葉をやわらかいバターに混ぜて塗るだけで、
朝が少し贅沢になります。

空芯菜はもっと早く、種まきから三、四週間が目安。
高温が大好きで、真夏に一番元気な葉物です。

定番はにんにく炒め
強火で三十秒、塩と少しの醤油で仕上げると、
茎のシャキシャキが残ります。
もうひと品はナンプラー和え
さっと湯通しして、ナンプラーとレモンで和えるだけの五分の副菜です。

窓辺にコーヒーの木、その隣にバジルと空芯菜。
今年の夏はその並びで過ごすことにしました。


まとめ ── 「どこで手を止めるか」の話

今日の三つは、書きながら気づいたら同じ形をしていました。

焙煎は、十数分のどこで火を止めるかで味が決まる。

はちみつは、ハチが巣の中で水分を飛ばし、
二割まで減ったところでふたをする。

屋内のコーヒー農場は、三、四年かかる木の時間を、
光と水と温度で組み直そうとしている。

どれも、素材を変えているのではなくて、
時間のどこに手を置くかを選んでいるだけでした。

今日ひとつだけやるなら、家の豆を明るいところで転がしてみてください。

光っていたら深煎り、マットなら浅煎り。
それが分かった瞬間から、
袋の裏の文字より自分の目のほうを信じられるようになります。

明日の一杯が、少しだけ違って見えるはずです。


⚠️ 一歳未満の赤ちゃんには、
はちみつを与えないでください。加熱しても防げません。

本記事は一般的な情報提供であり、医療上の助言ではありません。乳幼児の食事は医師・自治体の案内に従ってください。

本記事はAIを活用して作成し、人間が編集・確認のうえ公開しています。

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