家族だから起き、家族だから難しい~「ファミリー・バイオレンス」という犯罪|犯罪学・刑事政策 教授が解説
立正大学教授 丸山泰弘(犯罪学・刑事政策)が、ニュースでは聞けない犯罪学、刑事政策の話について、分かりやすく解説します。過去に配信したエピソードを順番に紹介していきます。今回は「家庭内暴力(ファミリー・バイオレンス)」です。
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いかなる理由があろうとも暴力はだめ。よい効果はなく悪影響があるというエビデンスがでている。そんなことはわかったはずの今になっても、親から子への暴力は、「そんなことまで否定していたらしつけできない」と言われてしまう「家庭内暴力(ファミリーバイオレンス)」。犯罪学・刑事政策教授が解説します。
スタッフからひとこと
この数年、障害者虐待に対応する自治体職員の方の支援をする仕事をしています。対応に悩んだ時の相談をお受けするのですが…相談の半分はいわゆる「養護者虐待」、つまり、今回のテーマである家庭の中での暴力への対応です。ツミナハナシで語る「ファミリー・バイオレンス」では、「通報」は警察への通報が前提とされていますが、法律(具体的には高齢・障害・児童の虐待防止法)では自治体への連絡も「通報」とされています。
それは、家族を被害者と犯罪者にしないために、早期発見、早期介入を目指し、解決を探ることを想定しているからです。自治体は地域に見守り体制をつくることを含め、多岐にわたって模索します。ですのでここでいう「虐待」は、一般的に虐待と考えられる状態よりも広いです。「虐待者=犯罪者」ではありません。ただ、一般的には虐待者と言われれば、犯罪者と同じイメージです。そのギャップが、例えば次のような事態を招いてしまいます。
周囲の人間が虐待のサインを察知しても、「こんな程度では虐待とは言えないのでは…」と思って通報が遅れる。その家庭で起きていることが発覚した際には、虐待でもあるが、そのまま犯罪になる可能性もあるから、警察が来て、行為者を連れて行く…。
法律が目指している、虐待者を処罰するのではなく、虐待者も含めて支援するという前提で社会が支えあえれば、1人で子どもを産んだ結果、死体遺棄罪で逮捕されるとか、母親からの暴力に耐え続けた結果PTSDを発症するとか、そういうことを少しでも減らしていけると思うのです。実際には、この仕組みを皆さんに知ってもらうこともまだまだですし、対応する自治体職員の体制なども不十分です。結果的にさきほど例にあげたような事態を招いてしまいます。目指すありようにはまだまだ遠く、難しいことが多いです。でも、番組でお話ししたことと、3つの虐待防止法に共通することは、「防止」です。事前にケアして防げるように、ご近所の誰かに対し、「大丈夫かな」と思うその気持ちが社会を動かす第一歩だと思います。
配信でも、書籍でも、かなりいろいろと悩みながら話しました。その辺も含めてお聴きいただき、読んでいただけたら嬉しいです。
また、配信でもお話ししていますが、エンタメで紹介した映画『MOTHE マザー』の原作となったノンフィクション『誰もボクを見ていない: なぜ17歳の少年は、祖父母を殺害したのか』もおすすめです。是非体力のある時に一読してみください。(み)
こんな話をしています
・昔、日本には「家庭内暴力」はなかった?
・家族だからこそ発見も解決も難しい
・虐待は通報すれば解決するのか?
・忘れてはいけない加害者への支援
丸山 もう一つ難しいのは「虐待を見つけたら通報を義務づけるのか」という問題です。諸外国ではカウンセラーや医師という専門職が虐待に気づいて通報しない場合に罰則をつけるべきという議論があって、日本でもずっと話題になっているんよ。確かにそれによってDVが発見されやすくなるという面もある。でも、もしそうなったら、相談者はどうなると思います?
南口 専門家に相談したら、その相手は通報する、そしたら、警察ざたになる…と考えると、なかなか相談に行きにくくなるかもしれませんね(悩)
丸山 ここって本当に複雑なんです。明らかに体にあざがあって配偶者から暴力を受けている。だけど、「私だけ我慢すれば子どもが高校に行けるので、秘密にしてほしい。大きな問題にしないでほしい」と言い出すケースもあります。
南口 通報しなければ罰せられるとなると、相談される側もやりにくくなるような。
丸山 それもありますね。相談者が「自分だけでは抱えているのしんどいからシェアだけさせて下さい」という場合もあるかもしれない。相談に継続して来てくれる方が重要な場合もありますよね。
南口 今の話って、専門職以外にも当てはまりますよね。
近所の方が通報する時って、別に警察に捕まえてほしいんじゃなくて、困ってるんじゃないかなと心配していることもありますよね。その時に、警察への通報一択だと家族を壊してしまうんじゃないかなと躊躇しますよね。
丸山 かといって、もし通報せずに最悪の結果になってしまうと、「何で通報しなかったんだろう」って自分を責めるしね。
南口 さらに何台もパトカーが来て、子どもが泣き叫ぶ中、親が警察に連れていかれると、後で「本当に虐待でも何でもなかったです」と言われても、住みにくくなりますよね。
だからこそ、保護するための福祉行政への連絡ルートを虐待防止法では設けているわけだけど、そうは言っても、一般的には通報となると警察などへの通報を想像してしまいますよね。それ以外のルートもあるのに…
丸山 「間違いでもいいから通報してください」というキャンペーンは、最悪の結果を考えると本当に大事なんです。ただ、通報が家族を離散させてしまうことにもなりうる。ファミリー・バイオレンスの難しさって本当にその辺にあるんですよ。
続きを聞く
・配偶者間における犯罪(殺人、生涯、暴行)の男女別割合

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犯罪学の視点から語るエンタメ作品
『MOTHER マザー』
監督:大森立嗣
出演:長澤まさみ、阿部サダヲ、奥平大兼ほか
2020年/日本/カラー
ツミナハナシを話すヒトたち
丸山泰弘:立正大学法学部 教授/知的エンターテインメント・クリエイター
南口芙美:合同会社黒子サポート 代表
※2人とも、一般社団法人 刑事司法未来 理事
でてきた用語・人物
DV(ドメスティック・バイオレンス)
児童虐待、高齢者虐待
家父長制
子どもの権利条約
障害者虐待防止法(障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律)
高齢者虐待防止法(高齢者の養護者に対する支援等に関する法律)
児童虐待防止法(児童虐待の防止等に関する法律)
DV防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律)
シェルター
アンガーマネジメント
揺さぶられっ子症候群(SBS)
もっと知りたい
「小児期逆境体験」とは?
子ども期に経験する虐待やネグレクトなどの逆境体験を「小児期逆境体験(ACE)」と言います。令和5年度の『犯罪白書』で行われた特別調査をもとに、非行少年と「小児期逆境体験」との関係、どのように解決していったらよいかをお話しします。
こどもについて考える
家庭内暴力の被害を受けるこどもたち。少年犯罪・少年非行の背景にはこの問題があると言われています。少年犯罪・少年非行についてはテーマとして何度も取り上げています。一緒に聞いて考えてみて下さい。
(※ #15 2023年8月8日配信)
番組初の書籍化『マルちゃん教授のツミナハナシ 市民のための犯罪学』発売決定!
わかりやすく、親しみやすく“罪”と“罰”を考える。ポッドキャスト番組「丸ちゃん教授のツミナハナシ」が書籍化されます! 是非お買い求めください。
番組MC・丸山泰弘 初の新書『死刑について私たちが知っておくべきこと』発売中!
「丸ちゃん教授のツミナハナシ」メインパーソナリティーの丸山泰弘が、ちくまプリマ―新書(筑摩書房)にて、初めての新書『死刑について私たちが知っておくべきこと』が発売されました。「紀伊國屋じんぶん大賞2026」にランクイン! 是非お買い求め下さい。
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「丸ちゃん教授のツミナハナシ-市民のための犯罪学-」
・主催:一般社団法人刑事司法未来
構成:合同会社黒子サポート
