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【短編小説】すべて平らげる者たち

 平田哲夫は、食べ放題の焼き肉チェーン店「焼肉大将」でカサカサになった肉を箸でつついていた。  
 ここ数日、1週間後に控えた大食いの祭典「元祖大食い大将!」への出場準備として、この店で連日トレーニングを続けている。比較的安価でコッテリしたものを大量に食べられるこの店は、大食い選手たちの隠れた聖地だ。しかし、平田は飽きていた。

 網からカサカサになった肉を救い出し、小皿の塩ダレに落とす。それから次に何を焼こうかと考えたが、どうにも気が乗らない。「飽き」という感情がトレーニングの邪魔をする。
寿司でも取ってこようか、それともさっぱりしたアイスで口の中と気分をリセットしようか――そんな逃げ道ばかりが頭をよぎる。小皿でタレに浸かる肉を見つめながら、平田は心の中でつぶやく。
「お前はいいよな……」

 だが、そんな弱気な自分を振り払うように、小皿の中で休んでいるハラミをサッと口へ放り込むと、平田は席を立った。向かった先はサラダコーナーだが、その途中で足を止め、首を振る。  
「違うだろ哲夫、お前は胃袋の世紀末覇者なんだ」  
 そう自分に言い聞かせると、隣のコーナーへ向きを変える。そこには様々な種類の肉たちが並び、「お前の対戦相手は俺だ」と言わんばかりに立ちはだかる。平田はそれらを見渡し、ニヤリと微笑む。そしてコッテリ重たい味付きカルビの前で足を止めると、他の肉たちが「おお、さすが挑戦者だ」と囁いているような気がした。

 カルビを皿に山盛り乗せて席へ戻ると、平田はジャケットの内ポケットからスマートフォンを取り出し、網の横にセットした。動画アプリを立ち上げ、「元祖大食い大将!地獄の焼き肉編」を再生する。画面には、大会常連のアドレナリン柴田が究極の骨付きカルビ10kgに挑戦している。

 画面越しに柴田が骨付きカルビを平らげる様子を見ながら、自分も負けじとカルビの山から一枚ずつ剥がして網に並べていく。「かかってこい」と言わんばかりに鋭い眼差しでカルビを見る。その間もスマートフォンから響く実況音声が頭の中で膨らみ、自分自身が番組内にいるような錯覚さえ覚えた。

 しかし、一枚目のカルビを小皿へ移し、一息ついてから箸を持ち直した瞬間、「うぷっ」と空気が漏れた。
「大丈夫、飽きただけ。飲み込めないのは飽きたからだ」と自分に言い聞かせるが、平田の額からは汗が噴き出している。
 箸を置き、小皿で油まみれになった肉を見つめているうちに、平田はふと遠い記憶へ引き戻された。

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 幼い頃、彼は5000ピースもの巨大なパズルに挑戦したことがある。最初は夢中になり、一つ一つ丁寧にはめ込んでいった。しかし、その熱意は長く続かず、半分ほど完成したところで、弟が遊んでいたファミコンゲームへ気持ちが移ってしまい、それ以来パズルは放置。結局完成することはなかった。

「飽きたんじゃない。本当は組み立てられなかったんだ」  
 そう気づいたのはずっと後になってからだった。部活も論文も、自主制作映画も――どれも途中で投げ出してきた。

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 回想から戻った平田は、ゴクリと大きな音を立ててカルビ一枚を胃へ流し込む。
そしてーー。

 通常料金3000円に罰金5000円分を加えた計8000円をテーブルへ置いた。

 店から出ていく平田の手にはスマートフォンが光っている。その画面には「番組出演を辞退いたします」と表示されていた。その文字列を見つめながら、小さく息を吐いて歩き出す。焼肉店から漏れる煙とともに、その背中は静かに夜道へ消えていった。

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