めぐる灯(第一話) 白狐と優しさに疲れた女
【あらすじ】
「愛ある祈りは光をもたらし、
愛なき祈りは闇を呼びよせる」
人が寄り付かなくなった小さな神社。そこには、優しい女神と、愛なき祈りを追い払う白狐・ハクがいた。
ある日、神社に現れたのは、いつも「みんなが幸せになりますように」と祈る会社員の未希。優しすぎる性格から職場で利用され、自分の気持ちを後回しにして生きていた。
人間を信じていなかったハクだったが、人の幸せを願い続ける未希に少しずつ心を動かされていく。
人と神が出会い、“心の灯”を取り戻し、優しさがめぐっていく――そんな物語。
「愛ある祈りは光をもたらし、
愛なき祈りは闇を呼びよせる」
古来より、この国にはその土地を守る神がいる。
神は闇を払い、光をもたらす。
人は神に感謝し、祈りを捧げる。
そうやって神と人との間には愛と豊かさが循環し、平和が保たれてきた。
でも、最近この神社では祈りが捧げられることが少なくなった。
なぜかって?
それは、俺がちょっとやりすぎたからで…。
俺の名はハク。
女神ウカノミタマノミコト様に仕える白狐だ。
ウカノミタマノミコト様は稲作の神で、人々に愛と豊かさを与える女神だ。
『お稲荷さん』っていえばわかるかな?
そうそう、赤い鳥居と狐がいる神社。見たことあるだろ?
うちの女神はとても優しい。
優しいというか、少し優しすぎる。
困った時にだけ助けを求める者や欲深い者にも、誰でも同じように光を与えてしまう。
中には悪意をもった祈りを持ち込む者もいる。
愛なき祈りは、黒き煙となって神の光を陰らせる。
「あいつが不幸になりますように」
「嫌なあの人が消えますように」
こんな祈りが来るたびに、
俺たち白狐は、ちょっとした幻を見せて追い返してきた。
霧を漂わせたり、夜の参道で狐火を見せたこともある。
悲鳴を上げて逃げていく姿を見るのは、正直ちょっと気分がよかった。
でも、そのせいで変な噂が広まった。
「あの神社は怖い」
「近づかない方がいい」
それで、参拝者がぱたりと来なくなった。
昔は、朝から子どもの声がして、
ベンチで世間話をする人や、
参拝者が後を絶たなかった。
祭りの日には提灯が灯り、
屋台が出て、
太鼓の音も響いて賑やかだった。
けれど今は…。
女神は何も言わないが、
少し寂しそうだ。
でも、俺は悪意のある祈りを追い返しただけだ。
女神を守るために。
俺は悪くない。
……たぶん。
その日も神社は静かだった。
四月の初めのある夜。
参道の両脇に並ぶ桜は満開を迎えていた。
白く輝く満月の下、少し坂になった石畳の参道を、ひとりの女がゆっくりと歩いてきた。
歳は二十七くらいだろうか。
紺色のカーディガンに、少し大きめの仕事用のかばん。
肩にかかる髪が風をうけてさらさらとなびく。
だが、その表情はどこか沈んでいた。
重い足取り。
見えない何かを背負っているようだった。
女は手水舎の前で立ち止まり、柄杓を取った。
水が細く白い手を濡らす。
本殿の前に立つと、彼女は深く頭を下げた。
鈴を鳴らし、そっとお賽銭を入れる。
二礼二拍手。
そして、静かに目を閉じる。
俺たち白狐には、人の祈りが聞こえる。
そして同時に、その祈りに宿る灯が見える。
彼女の手の中に、小さな光が灯る。
けれど、それは今にも消えそうだった。
「いつもありがとうございます。
これからもみんなが幸せでありますように」
俺は耳を疑った。
それだけ……か?
金や、恋や、出世や、健康を願う祈りではない。
助けを求めるわけでもない。
自分のことではなく、ただ、みんなが幸せでありますように、と。
その祈りは驚くほど澄んでいた。
けれど、その灯はとても弱かった。
まるで最後の力を振り絞って光っているかのように。
「消えかけている……」
思わず、俺はつぶやいた。
その瞬間だった。
本殿の奥から、やわらかな光があふれた。
女神が静かに彼女のそばへ歩み寄る。
これまで、女神が参拝者に直接触れたことなど一度もなかった。
女神は彼女の背中にそっと腕を回し、抱きしめた。
まるで昼間のように、あたたかな光が広がる。
やさしい風が吹き、桜の花びらが一枚彼女の肩に落ちた。
彼女は目をとじたまま、小さく息を吐いた。
強張っていた表情が、少しずつほどけていく。
「……ありがとうございます」
彼女はそう言って、涙をこぼした。
やがて彼女は目を開け、深々と頭を下げた。
そうして、何度も振り返りながら参道を下りて行った。
女神はその背中を、ずっと見つめていた。
女神の隣で俺は黙って見ていた。
あの女は、何者なのだろう。
次の日から彼女は毎朝神社へ来るようになった。
彼女が来るようになって
神社は少し明るくなった。
神社にはたくさんの動物が住んでいる。動物達と彼女はすぐに仲良くなった。
彼女が参道を歩く。
ちょうが彼女の周りを飛び交う。
野良猫が足元にすり寄ってのどをならす。
「おはよう」
そう言いながら彼女は優しく猫の頭をなでる。
彼女が手水舎で手を清める。
カラスが舞い降りてきて横で水を飲みはじめる。
「今日も元気だね」
彼女は臆することなく笑顔で話しかける。
普段は池でひなたぼっこしている亀も
池からノソノソと這い出て、彼女に会いに来る。
まぁ、たいがい足が遅すぎて、
帰る彼女の後ろ姿しか見られないのだが……。
この前は、トカゲが彼女に青く光る尾をほめられて、有頂天になっていたな。
クスノキやケヤキ、桜…。
彼女は境内の木々にそっと触れる。
そして
「今日もきれいだね」
と声をかける。
女神も彼女を歓迎していた。
彼女の髪を優しい風がなでる。
鳥居の紙垂がゆれる。
雲間から穏やかな光が差し、彼女を包む。
それらは女神からの歓迎の印だった。
彼女の祈りはいつもこうだ。
「いつもありがとうございます。
これからもみんなが幸せでありますように」
自分のことは祈らない。
そんな彼女を俺は少し疑いの目で見ていた。
これまでにたくさんの身勝手な願いを聞いてきた。
ほんとうに欲のない人間なんているだろうか?
どんな女か、話してみたら何かわかるかもしれない。
ある日のこと、俺は人に化けて彼女の前に現れることにした。
彼女と同じ年齢くらいの若い男。
涼やかな目元。
黒く短い髪は日が当たると銀色に光る。
背はさほど高くないが、程良く引き締まった体型。
自分でもなかなかのイケメンだと思う。
新緑がまぶしい参道を彼女がこちらへ歩いてくる。
俺は白い作務衣に身を包み、参道の落ち葉を掃く。
俺の姿を見つけた彼女は、
少し驚いたような表情を浮かべた。
「おはようございます」
彼女は近づき笑顔で挨拶する。
「ああ、おはようございます」
そのまま通りすぎようとする彼女に俺は声をかけた。
「あの、」
彼女が振り向く。
まっすぐに向けられたその瞳は薄茶色で澄んでいた。
すべてを見透かすような瞳。
目と目が合ったまま、ほんの数秒時が流れた。
俺はあわてて話し始める。
「最近よくお参りに来られていますが、何か願い事ですか?」
彼女は少し考えた後、静かにこう言った。
「願い事というか……。
ここが好きなのです。
ここに来るとほっとするというか、
元気をもらえる気がして」
「そうですか……」
それ以上の言葉が見つからない。
「お仕事お疲れ様です。
では」
彼女は笑顔を残して、手水舎のほうへ歩いていった。
ふいっと足元に猫がやってきた。
神社に住み着いている野良猫だ。
「めずらしいな。おまえが人の姿になるなんて」
「まあな」
俺は適当に返事をする。
「なんだよ、彼女に興味があるのか?
美人だもんな」
「そんなんじゃない」
俺はあわてて否定した。
「俺は女神に害をなさないか、
心配なだけで…」
「ふーん」
猫は意味ありげな笑みを浮かべた。
「彼女の名前、知ってるか?」
「さあ」
「ふふん。俺は知ってる」
猫は得意げに言った。
何で知ってるんだ?と思ったが、興味があると思われるのが嫌で黙っていた。
猫は勝手に話を続ける。
「野良猫ネットワークを甘く見てもらっちゃ困るな。家も職場も知っている。なんなら教えてやろうか」
「いらな…」
そう言いかけた時、背後の気配に気づいた。
「わあ!」
俺はあわてて大声を出してしまった。
彼女が参拝を終えて戻ってきていた。
「びっくりした…」
心臓がドキドキしている。
まずい、さっきの猫とのやりとり、
独り言に聞こえただろうか。
「ごめんなさい、おどろかすつもりじゃなかったのですが」
「いえ、大丈夫です」
気を取り直して彼女を見る。
「桜、終わってしまいましたね」
彼女は少し残念そうに言った。
「そうですね。次はハナミズキかな。本殿の横の白いハナミズキ、きれいなんですよ」
俺が何気なく言ったその言葉に、
彼女の表情が急にぱあっと、
明るくなった。
「そうなんです。私もさっき見かけて。
ハナミズキきれいですよね」
彼女は少し前のめりになって、うれしそうに言った。
「花がお好きなのですか?」
俺は聞いた。
「ええ、特に白いハナミズキが。昔住んでいた家にあって、大好きだったので。なつかしくて」
彼女は少し興奮気味に言った。
「ここはほんとうにいいところですね。人も少なくて…」
そう言いかけて、彼女は口をつぐんだ。人が少ない、は余計だと思ったようだ。
「ほんとに、人も少なくて…」
と俺は笑った。
「すみません…」
と彼女は申し訳なさそうに言った。
「こんなに素敵なところ、
みんな知らないなんてもったいないですね。きれいにお掃除もされていて。
ほんといつもありがとうございます」
そう言って彼女はペコリと頭を下げた。
ありがとうなんて言われたの、ひさしぶりだな。
なんだか胸の奥がじんわりあたたかくなった。
「お参りおつかれさまでした」
俺も頭を下げた。
「では、また。失礼します」
彼女は元の穏やかな口調に戻っていた。
立ち去ろうと数歩進んで「あっ」と彼女が振り返った。
「私、未希といいます」
未希…。
いい名前だな。
「またお参りさせていただきますね」
俺は笑顔で深くうなずいた。
彼女の背中を見送っていると、すっと女神が近づいてきた。
女神は真剣な顔で意外なことを口にした。
「彼女は助けを必要としていますね」
「え?」
俺は戸惑いながら聞いた。
「そうは見えませんが…」
「いいえ、間違いありません。
ハク、彼女について行って助けてあげなさい」
「え?俺がですか?」
女神の言葉は優しいが、有無をいわせない強さがあった。
何か知っているのだろうか。
「はい」
俺はそう答えた。
女神の命令だからな。
しかたない。
俺は姿を消して、未希についていくことにした。
「あいつ、ちょっとうれしそうじゃない?」
背後で猫が女神にそう言っている。
振り返ると女神はにっこりとほほえんでいた。
くだらないこと言いやがって。
猫のやつ、覚えてろよ。
俺はそう思いながら、前を向き、未希を追いかけた。
未希は神社を後にすると会社へ向かった。
未希の会社は神社から徒歩で十分くらいのところにあった。
一階が店舗で、二階が事務所になっている古びた建物。
玄関のカギを開け、階段を登る。
俺も後に続く。
二階のフロアには、十人分ほどの席があった。
まだ誰も出勤していないようだ。
未希は仕事の準備を始める。
十分ほどして他の社員も出勤してきた。
九時になり始業のベルが鳴った。
俺は未希の働きぶりを見ていた。
パソコンに向かい、テキパキと仕事を進める。
時々、電話がなる。
ワンコールで未希は電話をとる。
同僚が度々、未希に質問や相談を持ち掛けてくる。
そのひとつひとつに、未希は嫌な顔ひとつせず丁寧に答えている。
彼女は常に周りに気を配り、職場で信頼されているようだった。
だが、俺には少し違和感があった。
周りの同僚はのんびりパソコンを打っている。
電話が鳴っても雑談に夢中で、なかなか出ない。
俺には彼女だけが忙しく動いているように見えた。
まるで二倍速のように。
その後、違和感が苛立ちに変わる出来事が起こった。
昼を過ぎた頃、同僚の一人が大声で
「ほんとにむかつく」
と言って、電話を切った。
「どうしたの?由美」
と隣の席の女が聞く。
「聞いてよ。恵子さん。
課長が出張先から電話かけてきて、このデータ集計と提案書を今日中に用意しろって」
「えーうそ。大変じゃない」
「私、今日は用事があって五時に帰るから無理だって言ったのに、
誰かに手伝ってもらってでも、間に合わせろって」
「えー!何それ?」
「お客さんから急に明日来てくれって言われたみたい」
「それ、受けちゃったの?
ほんと、いつも営業は勝手なんだから」
部屋中が二人の会話を聞いている。
「手伝ってあげたいけど、
私も急ぎの仕事があって……。
誰かいない?」
由美と恵子は部屋を見回す。
気まずい沈黙が流れる。
少しして、未希が手をあげた。
「私、手伝うよ」
「え?いいの?」
由美がすかさず返事をする。
「うん、大丈夫」
「助かる。ほんとにいつもありがとう。じゃあ、お願いします」
そのやりとりを少し離れたところで聞いていた上司らしき中年の男が、未希に近づき小声で言った。
「ほんとに大丈夫なのか?」
心配してくれる上司もいるんだなと、俺は少しほっとする。
だが、それは勘違いだった。
「俺の仕事は明日中だからな」
未希の心配かと思ったら、自分の心配かよ!
「わかってます、部長。
大丈夫です」
未希は表情を変えず小さな声で言った。
俺は苛立ちを感じた。
勝手な部長にも、怒らない未希にも。
午後五時になると、残りの仕事を未希に渡して由美は帰っていった。
他の同僚も次々と退社していく。
あの部長も
「すまんが、お先に」
と言って帰って行った。
未希はパソコンを見たまま
「おつかれさまです」
とだけ言った。
何か一言でも言ってやればいいのに。
ほんとに何も感じてないのか?
俺はイライラした。
誰もいなくなると、
未希は大きなため息をついた。
そうして、天井を見上げたまましばらく動かなかった。
何も感じてない、そんなわけはない。
ならば,なぜ我慢しているのだろう。
俺には理解できなかった。
午後九時、未希がパソコンを閉じる。
「やっと終わった」
そこに、課長が出張先から戻ってきた。
「すぐ帰らないといけないんだが。明日の書類できているか?」
「はい。今できました」
「ありがとう」
受け取るとそのまま部屋を出ていこうとする。
こんな遅くまで残業してくれた部下に、もうちょっとねぎらいの言葉はないのか。
「課長。ちょっと待って下さい」
未希が呼び止める。
いいぞ!
ガツンと言ってやれ!
「いくらなんでもこの量を一日では無理です。
もう少し余裕をもって依頼していただかないと……」
冷静に未希が言う。
生ぬるい。
俺ならもっとブチ切れてる。
課長は怪訝な顔で答えた。
「由美さんには、1週間前から昨日まで、と言っていたはずだけど」
「え?」
「何?俺が悪いことになってるの?
これだから内勤は……。
まあ、次からは忘れるなって言っといてよ」
俺は呆然とした。
あの由美って同僚。
うそついていたのか。
未希は強張った顔で、立ち尽くしていた。
許せないな。
俺はなんだか無性に腹が立ってきた。
去ろうとする課長の足元にそっと白い霧をまく。
霧は課長の足元を濡らした。
課長は足をすべらせて派手に尻もちをついた。
「いたた……。
だれだ、こんなところに水こぼして!」
立ち上がり足元を見る。
「あれ?」
床はもう乾いていた。
「おかしいな」
課長はブツブツいいながら出て行った。
未希は驚いた顔をしてその様子を見ていた。
「いいきみだ」
俺はつぶやいた。
「ぷっ」と未希が吹き出した。
そして「あはは」と笑った。
その笑顔が少し泣いているように見えた」
「ただいま、タク。遅くなってごめん」
未希が家に着き玄関を開けると、
飼い犬らしきコーギーがうれしそうに飛び出してきた。
コーギーは俺に気づくと足をぴたりと止め、じっとこちらを見てくる。
1DKのマンションは少し散らかっていた。
未希が奥の部屋に入る。
ついて行こうとする俺の前にタクが立ちはだかった。
「おい、白狐。何で未希ちゃんについている?」
「ちょっと女神の命令でな。入れてくれないか?」
タクは動かない。
「着替え中だ」
「あぁ、そうか、ごめん」
俺は頭をかいた。
未希は着替え終わると、タクを散歩に連れて行った。
帰ってくるとすぐに、
タクのエサを用意して
「おまたせ」
と出した。
それから冷蔵庫をのぞく。
何もなかったのかすぐに扉を閉じた。
もうスーパーは閉まっている時間だ。
彼女はお湯を沸かし、ラーメンを作りはじめた。
食べようとした時、携帯電話が鳴った。
「もしもし、お母さん?」
どうやら母親からのようだ。
「ああ、未希ちゃん。お母さん、もうダメかもしれない」
電話越しに暗い声が聞こえる。
「どうしたの」
「お母さん、毎日眠れなくて。
お父さんは仕事ばかりして全然話を聞いてくれないし。
未希ちゃん今度いつ帰ってきてくれる?」
甘えたような声で母親が言う。
「そうだな…。お母さん、私ちょっとまだご飯食べてなくて。
後で予定確認してから電話してもいい?」
そうだ、ラーメンが伸びてしまう。
「あ、まだご飯食べてなかったの。
ごめんね。
いいよ、いいよ。
お母さんのことは気にしないで」
「どうせお母さんのことなんてどうでもいいんでしょ。
三人も子ども育ててきたのに誰もまともに話も聞いてくれやしない」
母親は急にヒステリックになり、泣きそうな声でそう言った。
「おかあさん…」
未希がため息をつく。
「わかった。次の土曜にそっちに行くから」
未希がそう言うと、母親は打って変わって明るい声で言った。
「え~!来てくれるの!うれしい!
未希ちゃん、ありがとう。
やっぱり未希ちゃんだけよ。
私の味方は」
「あっ、そうだ…」
未希が何か言おうとした瞬間、
電話は一方的に切れた。
「はぁ」
俺はため息をついた。
大変……だな。
「なんで、いつもああなんだろ」
未希はソファーに倒れこんだまま動かなかった。
「もう、疲れた……」
テーブルのラーメンはもう完全にのびていた。
未希は食べる気力すら、残っていないようだった。
足元にタクがやってくる。
タクは心配そうに未希見つめていた。
しばらくすると、寝息が聞こえはじめた。
そのまま、寝てしまったようだ。
「メシも食わないで…」
俺がつぶやく。
タクが言う。
「この子はとてもいい子なんだ。
行く場所のなかった俺のことも助けてくれて…。
でも優しすぎて、いつも疲れている」
優しい。
確かに……。
優しすぎる。
いつもこんなふうなのか。
未希が寝返りを打つ。
頬には涙の跡があった。
なぜこんなに自分を削ってまで優しくするのだろう。
俺は未希の寝顔を見つめながら、
胸が痛んだ。
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