夢のマイホームまで前途多難の道 | エッセイ
(いったい自分は、何をやってんだろうか…)
数年前の二月某日某所。私は今まで通ったことや見たことのない道、いわゆる未開の地なる場所を歩き続けていた。
手元に地図アプリを表示させたスマホを頼りに、至る所に立ち並んでいる一軒家やアパート、それにマンションといった集合住宅を横目に、とある目的地へと進んでいく。
ここは東京…とはいえ、地元にいた時とさほど変わらない住宅街の景色に、ひとり翻弄されている。「住めば都」とは昔からよく云われるが、果たしてこうした場所に自分の理想郷があるのだろうかと、終始疑問を抱いていた。
この日の私は、次なる新天地を目指すべく部屋探しに出ていた。目的の場所は、最終的に今の住居に行き着く前よりも、いくつか候補として挙げていた場所である。
当時、2、3ヶ月前からお世話になっていた不動産屋さんの紹介を頼りに、現地へと向かっていた。だが、そこの仲介業者では営業車が出ないどころか、相談相手である担当者すら同行しないという。
自分一人だけで電車とバスを利用し、地図アプリを見ながら内見する場所に向かうといった方法には少々不安であった。自分の人生の中では、ほんの数社ほど仲介業者にお世話になってきているが、単独で向かうケースは初めてだった。
その初めての体験はこのままで終わるはずもなく、この日さらに未曾有の出来事に遭遇してしまったのである。なんと最初に向かった内見先が、前代未聞の成約済みとなっていたのだ。
ようやく辿り着き、いざ内見と意気込んでいたはずが、空き家であることを示すための物件管理錠がどこにも見当たらない。まさかと思い、担当者に電話で一報を入れたところ、前述のような番狂わせなる事態が判明したのである。
タイミングが悪かったのか、それとも何らかしらの話が行き届いていなかったのか。いずれにせよ、ここで肩を落としている暇もなく、次の場所へ向かったのだった。
「せっかく紹介してもらったのに、なかなか決められなくてすみません」
そして時刻は、夕方に差し掛かっていた。結局この日は2、3件見て回ったものの、即決即断することができなかった。自分にとって納得できるような物件に巡り会えず、後日また他の物件を見て回るということで担当者と合意し、次回に持ち越す運びとなったのである。
電話を切った後、私は最寄りの駅に向かうためのバス停を探しながら、薄暗くなっっている住宅街を歩いた。まるで路地裏のような…とは云えないまでも、一つでも気を緩めば、なんだかノスタルジックに浸かってしまうような雰囲気だった。
いつになれば、自分にとって理想の場所に辿り着くことができるのか。そう思った途端、無意識にため息がこぼれていた。自分の心の声が、この季節特有の寒さと相まって白く具現したかのように。
今の住居に移る前の年から部屋探しを始めて半年近く経つも、自分の掲げた条件に当てはまるような物件には、なかなか巡り会えないままだ。気づけばこの日回った分を含め、とうとう10件以上となってしまっていた。
探すのに失敗したくないからといって、こだわるにこだわりすぎた結果なのかもしれない。ここで絞りに絞っていた条件を、いくらか緩めなければならないとも考えていた。
しかし、自分にとってストレスを感じることのない場所に住みたいと思う以上、どうしても一つも妥協できなくなっていたのである。間取りやセキュリティ面、それに交通の利便性にしろ、一つ一つ挙げればキリがないほどに。
欲望と条件に葛藤する日々と闘っては敗れながらも、私は性懲りも無く翌週になっても部屋探しを続けるのであった。
そしてこれが、いったいなんのはなしですかと問われると、今の住居に決まるまでのまったく取り留めのない、ただの布石であると返しておこう。
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