真夏のビル街で流れ着いたオアシスという名の…
炎天下が続く中でラーメンを食すのは、ある意味で「我慢大会」を繰り広げているようなものだ。
昔、私が愛読していた某漫画雑誌のとあるギャグ漫画でそのような一文を思い出していた。かれこれ20年以上前のことであって、細かい部分でのセリフや描写について鮮明には覚えていない。
が、自分の記憶が定かであれば、主人公達は真夏であるにも関わらず「我慢大会」と称して、冬場に着込むのが一般的な服装のまま、なおかつ汗だくになりながらカレーやラーメンなどを食していたと思う。
あの時は、何処からどう見てもあべこべなシーンに思わず笑い転げていた。しかしそこから、およそ20年もの時を超えて実現することになるとは、夢にも思わなかったことだろう。
先日、私は新宿で一通りの用事を済ませた後、自宅に戻る前に現地でお昼ごはんを取ろうと街を散策していた。だが、空に浮かぶ太陽の周りには雲一つもなくスッキリとしている。
この日も朝から蒸し暑さ全開の気温に、数十メートルほど歩くだけで汗だく状態となっていた。おまけにスーツを着用しているおかげで、体感温度は軽装している人間の倍以上であった。
仮に、自分自身がドラキュラになっていようものなら、苦手としている太陽の光にほんの一箇所でも触れた途端、一瞬にして崩壊してしまうこと間違いない。
側から見れば『脱いで持ち歩きなさいよ』と言われてもおかしくない滑稽な絵面を、自ら演出している。しかしながら、スーツの中に貴重品類を入れている関係で、万が一何か一つでも落とした時に途方に暮れてしまいたくないのだ。
というのもあって、私は日中炎天下であるにも関わらず軽装になることを拒んでいた。冷静に考える余力があれば、もっと他に効率の良い手段はあっただろう。けれど茹だるような暑さに加え、先の緊迫した中での用事が終わったこともあって、思考は既にオーバーヒートを起こしていたのである。
そんな状態で、屋外は真夏の真っ只中であるにも関わらず、私は無性にラーメンを食べたくなっていた。しかも普段からあまり食すことのない、天下一品のラーメンを。
20代後半の時、あの濃厚としていながら後味がスッキリしたスープの食感を覚えて以来、最低でも年に一回は定期的に食すようにしている。そしてそのタイミングが、まさかのここで回ってきてしまったようだ。
前述のように、用事が終わったことの達成感(?)や暑さのせいで思考が停止していること。おまけに約一時間にわたって歩き回った結果、午前中で蓄積した疲弊と空腹が相まって、どうにかなってしまいそうであった。
ただ、この日も35℃以上もの記録的だと騒がれている中、なおかつスーツを着用している状態で食べようとするのは、いかにも我慢大会を強行するのと同じ行為である。
それでも、突如として思いついた食欲が収まることを知らない。もはや、あれやこれやと凡ゆる雑念を抱いている場合ではなかった。
こうして汗だくであるにも関わらず、天下一品の名物とも云えるこってりラーメンを食そうと、一人引き寄せられるようにスーツ姿のままお店に向かっていくのだった。
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