10年越しに母から間接的な仕返し? | エッセイ
「ツカサ!ちょっとアンタ、またズボンの中に紙入れっぱなしにしてたでしょ!」
私がまだ実家暮らしをしていた頃。脱いだズボンやポケットの付いた上着などに、レシートやメモ紙などといった紙を入れっぱなしにしたまま、洗濯物として出してしまうことがあった。
そのたびにこうして、あらゆる家事を任せっきりしている母に怒られていたものである。一緒に洗濯していたズボンなどの衣類だけではなく、洗濯槽に付着してしまった紙の残骸を、母は必死になって取り除いていた。
だが、そんな背中から語りかけている苦労を横目に私は「すんませ~ん」と、何事もなかったかのように華麗にスルーを決め込んでいた。いつか自分自身も数年後に、同じような苦労をせざるを得ない状況に陥ることを知らず。
それから、私が一人暮らしを始めてからというもの、家事全般を一人でこなすようになった。無論洗濯も自分で行うようになり、衣類のみならず洗濯機に負担がかからないように、心がけてまわしていた。
(そういや、あの時の母は相当怒っていたな…)
地元を離れてから1、2ヶ月が経過したところで、母の姿をふと思い出していた。あれほど憤慨していたということは、相当…というよりもかなり、筆舌に尽くし難いほど悲惨な状況だったのだろう。
取敢えず、紙だけはなんとしてでも入れっぱなしにしないように、できるかぎり最前の注意を払っていた。だがしかし10年が経過したところで、前代未聞というべきか未曾有なるものの事件は、静かに勃発したのである。
(あれ、なんじゃこりゃ……)
とある休みの日の朝、私は溜まりに溜まった衣類を洗濯機に入れ、いつものようにまわしていた。数十分経ち、終了を知らせるブザー音が鳴ったタイミングで、洗濯し終わった衣類を取り出す。
そして、外に干すべく1着のズボンを裏返そうとしたところで、とんでもない光景を目の当たりにしたのである。そのズボンのポケットあたりに、白く固まったくずか何かがべったりとくっついていたのだ。
その正体が一体なんなのか、一眼だけではわからない。ただ云えることはただ一つ、脱ぎ捨てた衣類の中に紙なるものが入れっぱなしだったことに気づかず、かつ取り出すことを忘れてしまった事実が目の前に映っていることだけである。
なぜこのような惨状になってしまっているのか、皆目見当もつかなかった。放心状態から我に返ったところで、なんとか心当たりを探そうと、洗い終わった洗濯槽を覗いてみた。するとその中に、一枚のQUOカードが挟まっているのを目撃した。
(あ、あの時かぁ…)
ようやく事の顛末を思い出したと同時に、私は思わず肩を落としてしまった。あの白い固まりような何かの正体は、QUOカードを収納するための簡易的な紙のケースと、残高を印字していたレシートだったのだ。
それをズボンのポケットから取り出していたつもりが、そのまま入れっぱなしであることに全く気づかず、なおかつ確認することも忘れてしまい、洗濯機に入れてまわしてしまったのである。
完全に油断した。まさかこの10年越しになって、かつて母が苦労していたのと同じように窮地に立たされることになるとは、全くもって思いもしなかった。
おまけに、取り出したQUOカードにおいては、まだ全ての額を使い切っていない。とはいえ、およそ30Lの荒波に揉まれに揉まれた結果、複数の折り目がついていたのだから、引き続き使用することはもはや不可能だろう。
なんて勿体ないことをしてしまった。そう思いながらも私はひとまず、至る所に付着している白い残骸を取り除く作業にあたった。次は…いや次こそは絶対にやらかすものかと云い聞かせつつ、貴重な資源を水に流してしまったことに後悔してしまうのであった。
ちなみに今回の失敗談について、いつも苦労をかけっぱなしにしてきた母には話していないが、自分から切り出したら「ほれみたことか…」なんてふうに茶化されるかもしれない。
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