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【レビュー】「ナイン・ソウルズ」:脱獄犯に自由を見た平成という時代

“平成ノワール”

そんな言葉は無いのだが
“平成ノワール”というカテゴライズが
しっくり来る邦画たちがある。

ノワールとは“黒”を意味するフランス語で
映画界での厳密な定義はないが
主に退廃的な世界観で男たちの破滅的な
生き様を描いた作品群を指す。

平成後期に入ると、
邦画の中でこのノワール的な作品が
一気に増え、観客を動員した印象がある。

それは決して偶然ではない筈だ。

映画は時代の写し鏡。

そこで今回はこの“平成ノワール”の
ど真ん中を走り抜けた
豊田利晃監督の代表作「ナインソウルズ」を題材に
犯罪と暴力の描写が観客の心を掴んだ
平成という時代を考察していきたい。

作品概要

ナイン・ソウルズ(2003年製作の映画)
上映日:2003年07月19日製作国:日本上映時間:120分
ジャンル:ドラマ
監督・脚本:豊田利晃
出演者:原田芳雄、松田龍平、千原ジュニア、鬼丸、板尾創路、渋川清彦、マメ山田、鈴木卓爾、大楽源太、伊東美咲、京野ことみ、唯野未歩子、今宿麻美、鈴木杏、松たか子、麿赤兒、國村隼、北村一輝、永山瑛太、井上順

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あらすじ

偶然見つけた穴から脱獄に成功した服役囚9人。某小学校に埋められているという大金を目指して、ストリップ屋のバンを奪って走り出した。手持ちの金はない、テレビで報道される…苦しい旅の末に、9人は絆を結び、それぞれの生きる目的を見出していく。

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切実な共感

「ナインソウルズ」で描かれているのは
個性豊かな脱獄囚によるロードムービーである。

彼らは大金の在処を目指して旅をするのだが
やがて大金など存在しないことを知り、
目的を失った彼らは自分の居場所を探し求め
破滅に飲み込まれていく…

当時、大学生だった私にとって
本作はただただカッコいい邦画として見ていたが
いま見てみると、この物語は
まさに平成を象徴していることに気付かされる。

金に目がくらんだ大人たちが
実態のないバブルに踊らされ
その崩壊により行き場を失い
自由や救済のない社会でもがき苦しむ。

そして、一度レールから外れると
二度と、陽の当たる場所へ戻ってこれない。
努力をすれば報われるという価値観は
もはや過去の産物となり
勝ち組と負け組に明確に分けられており
その隔たりを超えることは至難の業…。

本作が公開された2003年は
非正規雇用が増加し、格差が拡大が始まった時代。
中高年や高齢者による犯罪が増え、
社会に戻っても居場所がないことから
再犯を繰り返すことが問題とされていた。

本作の9人による脱獄ロードムービーに
当時の観客は行き詰まる現実世界からの逃避と
刹那の自由を味わったことだろう。

社会から孤立して犯罪を犯した彼らに
自分を投影し、
破滅に向かっていく物語に共感した
平成の大人たちがいたのだ。

いまが良い時代とは決して思わないが
平成とは多くの犠牲者を生んだ
残酷な時代でもあったのだと思う。

平成の空気が詰まった“青春三部作”

本作を監督した豊田利晃監督は
本作を含む“青春三部作”と呼ばれる
初期三作品を通して
アウトローが主人公の作品を送り出している。

『ポルノスター』(1998年)
千原ジュニア演じる無表情の若者・荒野が
渋谷に降り立ち
ジャックナイフでヤクザを次々と殺害。
暴力と無目的さの中で生きる
虚無な若者の姿を描いた作品。

『青い春』(2001年)
松田龍平演じる荒廃した高校に通う不良少年が
屋上で仲間と共に意味のないゲームに命を懸けて、
虚無に塗りつぶされていく青春を描いた作品、

“青春三部作”とは言うものの、
千原ジュニア、松田龍平ともに
ナインソウルズに出演しているが
キャラクターは異なり
ストーリーも地続きではない、

監督自身も三部作として
意図していなかったそうだが
同じ空気感を持つ作品であることから
後にカテゴライズされた。

同じ空気感とは平成という時代のことだろう。
今回、3作品を見返したところ
平成の空気が詰まったタイムカプセルを
開けたような気分になった。

『ポルノスター』(1998)が映し出しているのは
バブルの崩壊によりヤクザが
普通の若者を取り込んでいった平成の渋谷。
当時、暴行やリンチを繰り返す
チーマーやカラーギャングが
連日、ワイドショーで扱われていたことを思い出した。

『青い春』(2001)が映し出しているのは
当時の退屈と虚無の中で生きた若者の姿である。
1997年の神戸連続児童殺傷事件(酒鬼薔薇事件)、
そして、校内暴力、引きこもり、少年犯罪…
大人たちは自分たちの理解を超えた若者の姿に
「キレる17歳」「無気力世代」とレッテルを貼っていた。

そんな居場所なきアウトローたちを代弁し
社会と繋ぎ止めるような役割を
豊田利晃監督は果たしていたのかもしれない。

リアルに込められた思い

“青春三部作”で扱われている
暴力、死、銃、麻薬、ナイフ、売春、ヤクザ…
といった要素は
多くの場合、エンタメとして消費されがちだ。

特に平成はタランティーノに影響を受けた
粗末なバイオレンスムービーが量産されていた。

そんな中で豊田利晃作品では
例えば暴力ひとつとっても地味なのだ。

日常ではあり得ないような
アクション映画のような派手さを封じ、
“地味な暴力”に徹することで
言葉ではなく暴力でしか
思いを伝えられない彼らの悲痛さが
生々しく伝わってくる。

「オレはお前たちの生き様をエンタメにはしないぞ」
という監督の強い意志を感じる。

それはアウトローたちへの誠実な優しさだと思う。

三部作で共通する演出がある。

それはラストシーンで主人公たちが
空を見上げることだ。

「閉塞感のある社会の中でも
目線を上げれば自由な世界は存在する」


アウトローをはじめ
平成をサバイブしていた大衆へ投げかけた
エールなのだろうと思った。

平成ってどんな時代?

と、いつか息子に聞かれることがあったら
僕は豊田利晃監督の“青春三部作“を
観ることを薦めたい。

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