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今年は、ほんとうに甘かった。

庭の片隅で、
数年ぶりに我が家の杏が ひっそりと、
小さな実を結んだ。

杏には人を癒やす力があるのだと。

だからだろうか。
昔、中国の名医が 診療の代わりに杏を植えさせ、
やがて村に温かな林が生まれたという
「杏林(きょうりん)」の話が残っている。

そういえば、こちらに来てから実が成った最初の年。
私は、あれを梅だとばかり思い込んでいた。
摘んで、ざるに広げてみても、香りが無い。

香りのない梅もあるのだろうか。

そんなふうに首をかしげていたら、
カフェのお客さんが言った。

「奇麗な杏ですね…」

エッ、杏。

お恥ずかしい話で、
あの時まで梅だと信じて疑わなかった。

毎年は実を付けぬ、
気まぐれな我が家の木。
以前口にした時は、
きゅっと酸っぱかった。

さて、今年はどうしてくれよう。
シロップにしようか、
ジャムにしようか。
いや、コンポートも良さそうだ。
そうだ、今年はコンポートにしよう。

台所に立ち、砂糖を出し、水を火にかける。
ふと思いついて、
鍋に入れる前に ひとつぶ、口に放り込んでみた。

――甘い。

今年の杏は、驚くほどに甘い。
奥から追いかけてくる、
ほどよい酸っぱさも心地いい。

火にかけるのは、もうやめだ。
加工なんてせず、
このまま生でいただくのが一番。

不器用な木が、時間をかけて実らせた 一瞬の贅沢。

もぎたての甘みが、
まるで年寄りの心にそっと効く薬のように、
私の胸を静かに癒やしていく。

梅ならむ 酸っぱき記憶 よぎりつつ 食めば杏の 甘き一粒

うめならむ すっぱききおく よぎりつつ 
はめばあんずの あまきひとつぶ

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