中小社長コラム㊷煎餅で走る? 崖っぷちの鉄道会社/銚子電気鉄道/竹本勝紀社長
米菓製造業
JR東日本は2027年に、千葉県木更津市と君津市を走る「久留里線」の一部を廃止する。
乗降客の減少が理由で、同事情での廃線は、JR東日本で初の事態だ。
鉄道を運行するには莫大なコストがかかる。
過疎化が進むエリアでは、今後も路線の廃止が相次ぐだろう。
そんな状況のなか、同じ千葉県の銚子市を走る銚子電気鉄道は、様々な副業を駆使して鉄道の運行を維持している。
決算によると、売上高6億2000万円のうち、鉄道事業は1億3000万円にすぎない。
残りの4億9000万円は、「ぬれ煎餅」などの販売。
副業で利益を稼ぎ、赤字の電車を走らせているのだ。
竹本勝紀社長は「帝国データバンクの業種分類では、うちは鉄道会社ではなく米菓製造業」と笑う。
買って下さい
銚子電鉄は、千葉県銚子市の中心から関東最東端となる犬吠埼近くまでを走る。
前身は、海水浴客を運ぶ「銚子遊覧鉄道」だ。
設立直後から赤字続きだった同社は4年目に経営破綻。
折からの鋼材の高騰もあり、電車も線路もバラバラにして売り飛ばされてしまう。
その後、有志により別会社として復活したが、今度は第二次世界大戦で被災し、再び経営が頓挫する。
戦後に負債と事業を切り離し、再び新会社として走り出す。
この会社が現在の銚子電鉄だ。
経営状況が厳しいのは創立当初から変わらない。
竹本は「電車なのに自転車操業」と自虐する。
1969年から国の補助を受けてきたが、1997年に一旦打ち切りが決まった。その穴埋めとして始まったのがぬれ煎餅だ。
製造も自社の工場内で行っている。
竹本は2012年に社長となったが、1995年から税理士として銚子電鉄に関わっていた。
2004年に当時の経営者による横領事件が発覚し、経営が加速度的に厳しくなった銚子電鉄を支援するため、竹本は自らホームページをつくり、ぬれ煎餅のネット販売を始めた。
だがネット販売の売上高は一日一万円程度であり、焼け石に水。
銚子電鉄は民事再生を検討するほど追い込まれていった。
次回の給料が払えないかも。そのギリギリの状況で同社は、「お願い文」をホームページに載せた。
「電車運行維持のためにぬれ煎餅を買って下さい!! 電車修理代を稼がなくちゃ、いけないんです」
当時の経理課長が生み出したこの文章は、インターネット掲示板「2ちゃんねる」を中心に話題となった。
大手マスコミも追随し、厳しい状況で経営を続ける銚子電鉄の努力が一気に知れ渡った。
銚子電鉄を応援するため、多くの人がぬれ煎餅を購入。
それまでぬれ煎餅の年間売上高は2億円程度だったが、一気に倍の4億円へ跳ね上がる。
銚子電鉄は息を吹き返した。
まずい棒
この体験をひとつの契機として、銚子電鉄、竹本の副業シフトが始まる。
ぬれ煎餅につぐヒットを狙ったのが「まずい棒」だ。
まずいのは味ではなく、銚子電鉄の経営という自虐ネタ。
お菓子の形や包装が、某人気菓子をパロディしている。
その発売元に許可を取りに行ったところ、最初はOKと言われたが、途中から話が変わり、認めないと言われてしまう。
すでに製造を外注し、マスコミに話をしていた竹本は青くなった。
一時は販売中止も考えたが、背中を押されたのがやはりネットの書き込みだった。
相手企業のお菓子のキャラクターは、某ネコ型ロボットを彷彿とさせるが、原作者に許可を取っていなかった。
まずい棒のキャラクターの「まずえもん」は、漫画家に正式に依頼し作られている。
2ちゃんねるに投稿された「パクりをしている企業が、まずい棒を訴えられる立場か」という書き込みに勇気づけられた竹本は発売を断行。
美味しさはもとよりアナーキーな魅力が人気となり、ぬれ煎餅に次ぐヒット商品となった。
この後も、竹本は際どい自虐ネタを込めた製品やイベントを連発する。
人気映画と似た「電車を止めるな!」というタイトルの映画を制作。
さらにネーミングライツとして銚子電鉄の名前を「犬吠崖っぷちライン」に変更した。
その他にも面白い取り組みをしており、本稿にはとても書き切れないほどだ。
ぜひ同社ホームページをご覧になって頂きたい。
ウケる、儲かるものに躊躇わず飛び込む竹本の姿勢が、銚子電鉄を前に進めている。
銚子エリアは人口減少が続き、事業環境が好転することは望めない。
しかしこのアイデアと行動力があれば、銚子電鉄は何度でも「運行再開」するに違いない。(敬称略)
【企業情報】
社名=銚子電気鉄道株式会社、住所=千葉県銚子市新生町2-297 TEL 0479-22-0316、社長=竹本勝紀、資本金=6910万円、事業内容=普通鉄道業、食品製造販売業
https://www.choshi-dentetsu.jp/
(信用金庫新聞、2026年4月1日号掲載より修正)
