子どもがいる世帯の貧困率は改善している。それは本当に良いニュースなのか?
SNSで流れてきたグラフを見て驚いた。
総務省「就業構造基本調査」をもとに作成されたもので、妻が30〜39歳、6歳未満の子どもがいる世帯を所得別に並べたものだ。

目を引くのは、年収200〜500万円台の子育て世帯がこの10年で大きく減っていることである。
この図から本当に言えること
図を見ると、
200~299万円
300~399万円
400~499万円
500~599万円
の子育て世帯が激減
している一方、
700万円以上
の減少幅は比較的小さいように見えます。
そのため、
いわゆる中間所得層の子育て世帯が消えている
という解釈は妥当です。
ただし、
中間層が貧困化した
とはこの図だけでは言えません。
なぜなら、
パターン1
子どもを持たなくなった
パターン2
晩婚化して30~39歳の条件から外れた
パターン3
世帯所得が上昇して上位帯へ移動した
パターン4
子どもの数そのものが減った
が混ざっているからです。
実はもっと衝撃的なポイント
この図で最も重要なのは
「世帯数」
を見ていることです。
つまり、
子育て世帯の所得分布
ではなく
子育て世帯そのものの数
を見ています。
2012年と2022年では出生数が大きく減っています。
2012年出生数:約103万人
2022年出生数:約77万人
です。
つまり母集団自体が激減しています。
そのため、
「子育て世帯の総数が減った」
影響も相当入っています。
一方で、相対的貧困率は改善している
ここが非常に面白いところです。
厚生労働省の国民生活基礎調査では、
子どもの貧困率
子どもがいる現役世帯の貧困率
は長期的に改善傾向です。
2022年時点で
子どもの貧困率 11.5%
となり、
過去よりかなり低下しています。

では日本の子どもは豊かになったのか?
ここが政策的に難しいところです。
SNSで指摘されているように、
子育て世帯の貧困率低下=子育て世帯の生活改善
とは限りません。
もし
高所得層だけが結婚する
高所得層だけが子どもを持つ
中間層以下が未婚化する
のであれば、子育て世帯全体の平均所得は上がります。
結果として
「子育て世帯の貧困率」
は下がります。
しかし社会全体としては
「貧しい人が子どもを持てなくなった」
だけかもしれません。
私の見立て
私はこの図を見て、
「子育て世帯の貧困率が改善した」
よりも
「中間層の再生産能力が落ちている」
ことの方が気になります。
昔は
年収300~500万円
地方公務員
中小企業正社員
サラリーマン世帯
でも普通に結婚し、普通に子どもを2~3人育てていました。
しかし現在は
住宅価格上昇
教育費上昇
共働き前提
長時間労働
によって、
「子どもを持つハードル」が上昇しています。
結果として、
子育て世帯の貧困率は下がるが、子育て世帯の絶対数そのものが減る
という現象が起きていると思われます。
最近の若い人は●●
最近の若い人は
自動車を欲しがらない
海外旅行に行きたがらない
結婚にこだわらない
子どもを持ちたがらない
と言われます。
そして、その理由として
「価値観が多様化したから」
と説明されることがあります。
しかし私は、この説明に以前から違和感があります。
本当に価値観の多様化なのでしょうか。
もしそうであるならば、所得に関係なく、あらゆる階層で同じように結婚願望や子どもを持つ意欲、自動車所有欲、海外旅行への関心が低下しているはずです。
ところが実際には、近年のデータを見ると違います。
結婚する人は高所得層に偏り、子どもを持つ人も高所得層に偏り、自家用車を所有する人も、海外旅行に行く人も高所得層に偏っています。


男性よりも女性の方が、相手に多くを求める傾向



つまり、
「欲しくなくなった」
のではなく、
欲しいと思っても選択できないので、欲しくないと思うようにしている
人が増えている可能性があります。
例えば、年収300万円の若者が
子どもを2人育てる
住宅ローンを組む
ミニバンを買う
家族で海外旅行に行く
という人生設計を描くことは、30年前よりもはるかに難しくなっています。
教育費は上がり、住宅価格は上がり、共働きが前提となり、雇用は不安定化し、可処分時間は減っています。
その結果、
「最初から考えない」
という合理的な適応行動が生まれます。
私はこれを
価値観の多様化
というよりも、
仕事中心社会(work-centrism)への防衛的適応
とか
個人が生きることに必死
として理解した方が実態に近いと思っています。
本当は結婚したい。
本当は子どもが欲しい。
本当は車も欲しい。
本当は海外旅行にも行きたい。
しかし、それらを実現するためのコストが高すぎる。
だから人は、
別に欲しくない
という形で自分の欲望を調整する。
これは価値観の変化というより、生存戦略です。
冒頭でも示しましたが、子育て世帯の相対的貧困率が改善しているという報道があります。
しかしその一方で、中間所得層の子育て世帯そのものが急減している可能性も指摘されています。
これらは、
高所得者だけが結婚し、
高所得者だけが子どもを持ち、
低所得者は親になること自体を諦めているので
子育て世帯の貧困率は当然改善するでしょう。
子育て世帯の多様性はかなり低下していそうです。
これは決して、
「子育て世帯が政府の再配分で豊かになった」
のではなく、
「経済的に貧しい人が親になれなくなった」
のでしょう。
少子化問題を考えるとき、
私たちは
若者の価値観が変わった
という説明で思考停止してはいけないと思います。
問うべきは、
普通の所得の人が、普通に結婚し、普通に子どもを育て、普通に家族旅行に行ける社会なのか
ということです。
価値観の多様化なのか。
それとも選択肢の縮小なのか。
その見極めが、これからの少子化議論はもちろん、社会の在り方を議論するうえで十分に理解する必要がああると思います。
「子どもの貧困率が低下している」というグラフをみて、よくわかっていない政策関係者が、「日本の子育て環境が改善しているね」と満足していないことを切に願います。
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