医療落語台本:ACP・みんらぼカード
(高座に出てきて一礼)
枕
「えー、みなさま、ようこそお運びくださいましてありがとうございます。
私、医者から落語の世界に迷い込みまして、“医療落語家”なんていう、あまり前例のない肩書きを背負っております。
まぁ、人間、転んでもただでは起きないもんでして、白衣を脱いだら着物を着て、注射器を捨てたら扇子を持つ……これでなんとか生き延びているわけでございます。」
(会場が笑う)
「医療と落語、一見まるで違うように思えますが、似ているところがあるんです。
患者さんが『先生、私は助かりますか?』と聞く。落語の客は『この噺は笑えますか?』と聞く。
どっちも『やってみなきゃ分からない』っていうところでしてね。」
ACP導入
「さて、今日は“ACP”というテーマで一席。
ACPと聞くとね、『えーしーぴー?なんですかそれ、新しい電池ですか?』なんて方もおりまして。
違います。アドバンス・ケア・プランニング。
つまり、まだ元気なうちに“自分が病気やケガで意識がなくなった時にどうしてほしいか”を考えて、家族や医療者と共有しておこうという取り組みなんですね。」
「ただね、日本人はこれが苦手でして。
『縁起でもない!』『まだそんな話は早い!』と逃げ腰になる。
まるで宿題を先延ばしにする小学生のようでしてね。
——で、夏休みの終わりに泣くのは、だいたいお母さんなんですよ。」
みんらぼカード登場
「そんな“ACP、やりたいけど難しい”という皆さんのために生まれたのが、この“みんらぼカード”でございます。」
(懐からカードを取り出し、扇子でトントン叩きながら見せる)
「これね、名刺くらいの小さなカードなんですが、自分の思いや希望を書いておける。
“延命治療は望む”でも“自然に任せたい”でもいいし、“最期は家で笑って過ごしたい”とか“最期の晩餐はすき焼きにしてくれ”でも構いません。
要は、自分の声を未来に残すカードなんですね。」
家族の小噺
「で、これを書いておくと、家族が救急車の前で迷わなくなる。
あるおばあちゃんがね、家族に“延命治療は望まない”ってカードに書いたんですよ。
ところが孫が心配して『おばあちゃん、それじゃ死んじゃうよ!』って泣き出した。
するとおばあちゃん、カードを取り返して、こう一言——
『いや、私は死ぬために生きてるんだよ』って。
孫がポカンとして、『……かっこいい!』なんて言ってね。
ACPが家族の教育にもなるってわけでございます。」
医療現場の小噺
「現場でもね、こんなことがありました。
あるおじいちゃんが、救急搬送されましてね。
お医者さんが家族に『延命治療どうしますか?』と聞いた。
奥さんは『やってください』、息子さんは『自然に任せてほしい』、娘さんは『分からない』。
家族会議が始まって、医者は腕組みして待つ。
その時、ポケットから“みんらぼカード”が出てきた。
そこには一言、“なるべく痛くないようにしてくれ”と。
全員が『あ、そういうことか!』と納得して、治療方針がスッと決まった。
たった一枚で、家族の迷いが消えるんですね。」
観客いじり
「ここで会場のみなさんに質問です。
もし自分が明日、突然倒れたら……どんな医療を受けたいか、ちゃんと考えてますか?
——おや、手が上がらない。なるほど、まだACPは道半ばというわけですね。
じゃあ、帰りに一枚ずつ配りますから、宝くじ代わりに持って帰ってくださいな。
当たりが出ても一等賞は“延命治療”ですけども。」
(会場笑)
サゲ
「昔から落語は“一枚の座布団から世界が広がる”と申しますが、
医療も同じで、たった一枚のカードから、安心と笑顔が広がるんでございます。
えー、どうか皆さま、今日からは“座布団代わりに、みんらぼカード一枚”。
——もっとも、座布団に敷いたらスースーしてお尻が冷えますけどね。」
(深く一礼して退場)
