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私小説「ビー・クリエイション! 」第一部 -6 「絵の販売の顛末」

第六話 「絵の販売の顛末」



翌日。

教室の席で、私は絵も描かず、ひとりぼんやりと座っていた。机の上には、描きかけの紙さえない。

胸の奥で、何かが静かに折れてしまったのだと、はっきりわかった。張りつめていたものが力を失い、すとんと落ちてしまったかのようだった。

私の落ち込みをよそに、揺るがない日常を証明するかのように、教室のざわめきが、潮騒のように耳に響いてくる。

──絵が描けない。
もう、駄目。





その時。




「絵のおねぇさん? あそこにいるから、行っておいで」

突然、クラスメートの声が、私の耳を打った。
驚いて、振り返る。

「あの……おかあしゃ……おかあさんに、お金、もらってきた」

以前、絵を描いてくださいと頼みに来た、一年生の女の子だった。

十円玉をのせた小さな手のひらを、私に差し出してくる。







その手を見た後、思わず、その子の顔をまじまじと見つめてしまった。ゆるゆると、凍りついていた心が溶け始めてゆく。



……本当に、買ってくれるの?

──いや、でも。


「お金は、もういいんだよ。
……よかったら、もらってくれるかな?」

女の子は驚いた顔をして、それから、こくんと首を縦に振った。

私は、女の子のために、いつもよりずっと丁寧に絵を描き、教室まで持っていった。

女の子はぱっと顔を輝かせ、大事そうにそれを受け取った。

「どうもありがとう!」

その嬉しそうな表情を見た瞬間。
胸の奥に立ちこめていた霧が、すっと晴れてゆく。

「……本当に、ありがとう」

思わずそう言うと、女の子は不思議そうな顔をした。
だから、もう一歩、言葉を重ねる。

「私も、絵をもらってくれて嬉しいんだよ」

すると女の子は、本当に、本当に嬉しそうに、にこにこと笑った。

それからというもの、廊下や校庭ですれ違うたび、その子は必ず手を振ってくれるようになった。






✳︎





当初、私は
「絵の販売に失敗した」と思っていた。

けれど、あの小さな女の子が差し出した十円は、ただの十円ではなかった。

本当に絵が欲しくてたまらなくて、つい最近まで幼稚園児だった子が、お母さんに生まれて初めての交渉をして、手に入れてきた十円だったのだ。





誰も、私の創作物に価値を見出さなかった。
けれど、たったひとり。
心から絵を欲しがってくれた人がいた。
それが、あの小さな女の子だったのだ。








きっと、創作というのは、

たったひとり──
たとえその人が、どんな年齢で、どんな性格で。
どんな立場であろうとも。

その価値を、心底わかってくれる人が現れたのなら。






「成功」なんだ。







✳︎



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