保育士への道⑥― “緊張”という見えない壁 ―
① 家では完璧に弾けていた
ピアノは弾けていた。
家では、ちゃんと弾けていたのだ。
何度練習しても問題なく、曲も頭に入っている。
だから私は、実技試験についてはかなり自信を持っていた。
けれど今思えば、
通信教育や独学で学習している人には、ある弱点があるのかもしれない。
それは、
「人前で弾く経験が少ないこと」。
そして私は、まさにそこが弱かった。
② 「もしかして緊張するかも」という予感
どこかで薄々感じていた。
「人前で弾いたら、もしかして緊張するかもしれない」
そんな感覚があった。
ピアノを習っていたのは小学生の頃。
当時は毎年発表会があり、大きな会場でも普通に弾いていた。
でも、思春期を経て、私はかなりの緊張体質になっていた。
人前に立つ。
注目される。
評価される。
そういう場面で、自分でも驚くほど緊張するようになっていたのだ。
③ 実技試験対策講座へ
だから私は、実技試験の対策講座を受けることにした。
講座の会場には、前方に電子ピアノが置かれていて、
参加者全員の前で、一人ずつ弾く形式だった。
順番が近づくにつれ、
ピアノの横に置かれた椅子へ移動していく。
前の人が終わるたびに、少しずつ前へ詰める。
そして、直前になると、
弾いている人のすぐ真横で待機することになる。
いよいよ、私の番が来た。
④ ピアノの前に立った瞬間
不思議なことに、待っている時はそこまで緊張していなかった。
ところが――
ピアノの前に立った瞬間、
一気に緊張が押し寄せてきた。
椅子に座ると、手が震えている。
家では一度も間違えない曲なのに、
何度もつっかかる。
歌声まで小さくなってしまう。
頭が真っ白になるというのは、こういうことなのかと思った。
⑤ 「絶対大丈夫」という自信が崩れた日
私は、かなり落ち込んで帰宅した。
実技試験には絶対的な自信があった。
ピアノも、歌も、言語も、
「ここは大丈夫」と思っていた。
なのに、対策講座で、ここまでコテンパンにやられてしまった。
相手は技術不足ではない。
“緊張”だった。
私はその時初めて、
緊張というものが、こんなにも人の力を奪うのだと実感した。
⑥ どうしたら、本番で弾けるんだろう
帰宅してから、ずっと考えていた。
どうしたらいいんだろう。
どうしたら、本番でちゃんと弾けるんだろう。
そして私は、
ある方法を試してみることにした。
「これができれば、きっと本番でも弾ける」
そう確信した方法だった。
でもそれは、
私にとっては、清水の舞台から飛び降りるより怖いことだった。
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