【税金の学校】役員給与の基本ルールと実務上のポイントを解説
こんにちは、公認会計士・税理士の入江です。
これから開業を考えている方も、事業を継続している個人事業主の方も、1度は考えたことがあるであろう「会社設立」。
法人と個人事業主どちらが良いか?
いつのタイミングが良いか?
など、検討されている方も多いのではないでしょうか。
会社設立を検討する上で非常に重要な論点の一つが「役員給与」です。
同じ給与でも従業員給与と役員給与では税務的取り扱いが大きく異なります。
役員給与の規定は、法人税法第34条(役員給与の損金不算入)ですが、この条文は、非常に長く読みづらい部分もあるので、今回は条文の解説ではなく、体系的にわかりやすく説明していきます。
実務上の誤りやすいポイントにも触れていきますので、是非読んでみてくださいね。
では、まずは従業員給与と役員給与の違いから押さえていきましょう。
従業員給与と役員給与の違い
まず、同じ給与でも従業員給与と役員給与の大きな違いは、雇用契約(労働の対価)なのか、委任契約(経営の対価)なのかという契約の性質の違いです。
雇用契約であれば残業代もありますし、労働保険もあります。役員は残業代という考え方がないですし、労働保険も原則加入できません。
従業員給与と役員給与は、会社から支払われる対価という点では同じように思えますが、対価の性質が全く違うものです。したがって、次のとおり税務上の取り扱いが異なっています。
従業員給与:原則として全額損金になる。
役員給与:法令で定められたルールを守らない場合、損金として認められない。
役員給与自由に支払ってもいいんですよ。
ただ会社のお金は役員に払っているのに、税金計算上は損金にならないという二重苦になります。
役員給与のルールの意義と厳格な理由
では、なぜ役員給与はルールを守らなければいけないのでしょうか?
ここからは、ルールの必要性と厳しい理由を説明していきます。
①利益操作を防止するため
これが最大の理由です。
役員は会社の経営方針や自分自身の報酬額を決定できる立場(または強い影響力を持つ立場)にあります。
もしルールがなければ、決算直前に「今期は利益が出すぎたから、自分の給料を大幅に増やして利益を圧縮しよう!」といった、恣意的な利益操作が簡単にできてしまいます。
②役員報酬と利益配当を区別するため
会社が利益を株主に分配する配当は、法人税を支払った後の利益から出すものであり、損金にはなりません。一方、役員給与は経営というサービスの対価として損金になります。
もし、無制限に役員給与を認めると、本来「配当」として払うべき利益をすべて「給与」という名目で支払うことで、法人税を不当に免れることができてしまいます。
③実質的なお手盛りを防ぐため
役員が自分の報酬を自分で決めることを「お手盛り」と言います。
これを許すと会社の財産が不当に流出し、株主や債権者の利益を損なう可能性があります。
税法もこの考え方を踏襲しており、会社法上の手続きを経ていない(会社法第361条)、あるいはその上限を超えた支払いは、税務上も経費として認めないというスタンスをとっています。
④2006年(平成18年)の抜本的改正
改正前の日本の税制では、役員への支払いは「報酬(毎月)」と「賞与(臨時)」で明確に区別されていましたが、2006年(平成18年)の税制改正で大幅にルールが変更されました。
改正前:役員賞与は原則として損金不算入。
改正後:事前確定届出給与など、形態よりも「事前に確定しているか」という実態を重視するルールに変更。
この改正により、企業の柔軟な報酬体系を認めつつも、後出しジャンケンでの損金計上はより厳しくチェックされるようになったわけです。
⑤規定が存在する意義
役員給与の規定は、単に増税を目的としたものではなく、法人という独立した人格から、経営者が勝手に利益を抜き出さないようにするための公正な課税ルールであるといえます。
もしこのルールがなかったら、みんな決算直前に給料を増やして税金をゼロにできてしまいますし、それでは税の公平性が保てないため、厳しいルールが設けられているんですね。
損金算入が認められる「3つの給与」
①定期同額給与(毎月決まった額を払う)
ルール:毎月同じ金額
改定のタイミング:原則として期首から3ヶ月以内
注意点:期首から3か月を超えた場合の増額減額については、定められた事由に該当しなければ、全額または一部が損金不算入になるリスクがある。
②事前確定届出給与(いわゆる役員ボーナス)
ルール:いつ、いくら払うかを事前に税務署へ届け出る
厳格さ:1円でも、1日でもズレると全額損金不算入
③業績連動給与(主に上場企業向け)
客観的な指標に基づき支払われるものですが、中小企業では採用が難しいと考えますので、説明は省略します。
この記事では、①②だけ覚えておけば良いです。
規定の全体像の理解のためにかなり簡潔な説明となりましたが、詳細が知りたい方は、リンク先の国税庁のタックスアンサーをご参照ください。No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)|国税庁
実務上の注意点と対策例
①定期同額給与の未払計上
資金繰りが厳しい時期に、役員報酬の額は変えずに未払金として処理し、実際の振込額を減らすケースについて、額面が同じなら定期同額と勘違いしがちですが、実務上、未払いが長期間続くと、そもそもその金額を支払う意思も能力もなかった(=定期同額給与ではない)とみなされるリスクがあります。
対策:払えない場合は、一度全額支給した上で、役員から会社へ役員借入金として処理する等の対策をとりましょう。
②事前確定届出給与の1円、1日のミス
事前確定届出給与は1円、1日でもズレると支給額の全額が損金不算入になります。例えば、次のようなケースです。
・源泉所得税や社会保険料の計算ミスで、額面が届出額とズレる
・資金繰りの都合や銀行の休業日で、支給日が1日でも前後する
これは最も弁解の余地がありません。
対策:事前確定届出給与の支給日が休日でない日であることを確認したうえで届出書に記入しましょう。また、振込予約を予めセットして人為的なミスを防ぐための会社内のルールを設定しましょう。
③みなし役員への給与
登記上は役員ではない家族などに支給する給与について、従業員だから残業代も出すし、ボーナスも自由と思っていると、税務調査で経営に従事しているから実質的な役員と認定されることがあります。
役員とみなされると、従業員として払っていた賞与や残業代がすべて損金不算入になりますので、注意が必要です。
対策:家族を従業員にする場合は、タイムカードによる勤怠管理や、他の従業員とのバランス(職務内容に対する給与の妥当性)を証拠として残しておきましょう。
④改定時期の3ヶ月ルールの勘違い
意外とありがちなのが、期首から3ヶ月以内に改定が必要なものを「4ヶ月目から変えればいい」と誤解する方がいます。
原則として、期首から3ヶ月以内に改定後の支払いが開始されている必要がありますので、ご注意ください。
対策:定時株主総会のスケジュールと、給与計算の締め、支払日のカレンダーをセットで管理しましょう。
⑤非常勤役員の報酬額
名目だけ役員にしている親族などに、高額な報酬を支払うケースについて、税務署は「勤務実態(出勤日数、会議への参加、レポートの提出など)」を厳しく確認します。
実態がないと判断されれば、不相当に高額と判断され否認される可能性がありますので、ご注意ください。
対策:議事録への署名捺印、業務報告のメール、出勤簿など、該当する役員が何をしたかを説明できる証拠を保存しておきましょう。
会社設立を検討する上で、役員賞与の規定を理解することは非常に重要です。しっかり整理して、後で損金として認められない!なんてことにならないようにしましょうね。
また、役員給与に関しての法人税基本通達もありますので、興味のある方は参考に確認してみてください。
法人税基本通達
9-2-1~(役員給与の範囲)
9-2-12~(定期同額給与)
9-2-14~(事前確定届出給与)
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入江会計事務所
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