「デスゲームの運営じゃん」と叫ばれた会社員が、監視部屋を脱するまでの話【一目惚れした絵と暮らす】
「デスゲームの運営が集めた参加者を監視する部屋だ!」
1LDKの新居に遊びにきた友人が、私の部屋を見た瞬間に放った第一声だった。
この記事を書いているモノ

我が家にはデスクが1台、PCモニターが3台、液タブが1台、ノートパソコンが3台と本棚が8台、そして別の友人が譲ってくれたASMRにも使えるらしい高性能マイクがある。
そのうちのデスクとPC、本棚5台を作業部屋(六畳の洋室)に集めて、いつでも休めるようにとベッドも置いていた。ダンボールが片付いたので、友達を招いた。結果、冒頭の叫びである。
ド失礼な発言に叩き出してやろうかと思ったが、白い壁と白い本棚の群れ、ズラリと並んだ7台のモニター、そしてなによりも「運営からのお知らせ」をクリアな音質でお届け出来るマイクを改めて眺めたら、認めるしかなかった。「デスゲームの運営が集めた参加者を監視する部屋です」と。

「情」を醸し出すための策として「死んだ愛犬の写真」を置いた。
せっかくの新居なのに、謎の緊迫感を醸し出しているのはいやだ。「意外と“こちら”は落ち着いていいもんだね…」とモニターの群れを見下ろし呟く友達もなんか怖かったので、インテリアを見直すことにした。
だけどセンスがない。そもそもセンスがあったらデスゲームの運営の部屋にはならない。必死にYouTubeのルームツアーや大型家具店のお部屋特集を読み漁った。でもだめだった。デスゲームの運営の座から逃れられない。
いい感じのグリーンをいい感じに配置したり、北欧風やらモノトーンやらで雰囲気を統一したり、簡単に実践出来そうな案はいくつもあった。けど、ピンとこなかった。どれもほんとうに素敵だが住みたいとは思わない。これらを参考に、人様が見たら素敵な空間を作れたとしても、自分が住んで楽しくないなら意味がない。
そもそも家の外、畑だから中までグリーンいらんし。すでに白い壁・黒いモニター・白い本棚でモノトーンだし。今の部屋の感じも好きだし…。好きな部屋の雰囲気が「デスゲームの運営の部屋だ!」と叫ばれたこと以外に悪いことはないのだ。なにも。もはや友達の口を塞いで、なかったことにするしか道はなさそうだった。
そんなとき、Twitter(現X)(←この表現は令和ロマンの高比良くるまさん著「漫才過剰考察」リスペクトです)のタイムラインを眺めていたら、友達のリポストで、こちらの作家さんを知った。
https://x.com/shoji_riko
庄司理子さん
物語の気配を閉じ込めた庄司さんの絵の中でも、「あい灯る」という絵に、率直に言うと一目惚れした。
ツイート(現ポスト)を読んでいくと「生活の果て、いのりの輪郭」という個展を近々開かれるという。ぜひとも生で鑑賞したくて、個展会場の場所と日時を確認した。遠方だ!有休取れない!仕事で行けない!販売もされるっぽいので誰かに購入されちゃったら(失礼)鑑賞できる機会があるかもわからない!!悔しい!!!
涙しつつ、庄司さんの制作アカウントを未練がましくフォローし、個展のご様子や他にもアップされている素敵な絵を楽しんでいると、会場のatelier眞空さんのホームページで庄司さんの展示品販売リストが公開されはじめた。ついに、別れの時がきた…。
「ただのサラリーマンにはきっと購入出来ないお値段だろうな」
諦めつつ、やっぱり未練がましく販売リストを見て、そこに記載された金額に固まった。
……。
………………。
買えるお値段だ!!!!!!???
もちろん気楽に出せる金額ではない。この絵が出来るまでにかかった時間や手間、画材費やアトリエの費用などを考えれば妥当なお値段だと理解しつつも、イチサラリーマンが気安く買える金額じゃない。
しかし、頑張れば買える。
しかも2枚買っても、10万円以下だ。
なんのために毎日汗水流して働いているのか。それは稼いだお金を好きなことに使うためだ。「生で見たかった」「次の機会があるかわからない」と悔しい思いをした1点ものが、頑張れば買えるお値段で目の前にあるなら、そりゃもう、買うしかない。
などと、冷静でいられたのはここまでだった。
「購入方法…画廊へ直接メール!?やばい、他の絵sold outしはじめている!うわこういうときに限ってパソコンの更新入ってGmail立ち上がるのメチャクチャ遅え〜〜〜!!!!!!!!!」なんて超絶焦りながらも「はじめまして」から始まり「ご縁いただけましたら幸いです」で結んだビジネスパーソン丸出しな購入希望メールを画廊へと放った。
運命やいかに。
買えた。


我が家へようこそ!!!!!!!!!
atelier 眞空さん、購入希望のメールを送って1時間もしないうちに仮押さえてくれてこちらが初めて絵を購入することを伝えたら「作家にも話しますね!」とメッセージを添えてくださって、なんというか、人…温かい…。いつかatelier 眞空さんにも行きたい。
https://atelier-shin-kuu.jimdosite.com/
一連の思い出も含めて、素敵な買い物になった。
あとはデスク近くの棚に飾り置けば、終わりだ。
……。
欲が生まれた。
棚に置くのではなく、部屋にいればどの角度からも視界に入るところに絵を飾りたくなった。それに、届いた素晴らしいものを見ていたら、作業部屋がこの絵たちにふさわしくないというか、今のままだと絵を飾ったところで『あれ』な印象を拭えない部屋に思えてきた。
もうこの六畳間を『あれ』な部屋だと認識してしまったせいだ。どうしよう。考えて、新居を大改造劇的ビフォアフタることに決めた。
1ヶ月ほど時間をかけて、人の手を借りつつ、引っ越しをやり直すレベルで、物の位置を移動しまくった結果がこちらです。

相変わらずモニターと本棚は多いけど、壁が広くなったので開放感が生まれた。太陽光も入る部屋なので「晴れるや!」って叫びながら作業ができる!あとはこの寂しい感じの白い壁に絵をかければフィニッシュ…というところで気づく。壁に絵をかけたことがない。やり方がわからない。インテリア特集を読み漁ったおかげでニトリに壁を傷つけないピンがあることだけは知っていたが、枝葉を知っているところでどうしようもない。そうだ、絵の裏に壁にかけるための紐を通す必要もある……うまくやれる気がしない…。つか、太陽光がある部屋なせいで絵が日焼けしたらどうしよう。「曇れや!」って叫びたくなった。
なので。
絵の日焼けを防止出来る額縁を探しに、あと「紐通してください」ってお願いができる絵のプロがおわす世界堂へ行ってきた。

新宿本店世界堂の写真を撮り忘れた。
本店はデッサン・水彩用の額縁の階と油絵・アクリル用の階で分かれていた。「材質アクリルだっけ?まあキャンバスだし…上から攻めるか」と六階に行く。事前にホームページを読んだけど、「直接お越しください」とあったので予約はしていない。しかし、エスカレーターで輸送されつつ、不安になる。表のページをドラッグしたら『あなたは〇〇〇〇人目の世界堂の《真のお客様》です』って隠された予約ページが出てきて、そこで予約しないと受け付けてもらえないシステムだったらどうしよう。めちゃ不安になりつつ、六階へ。
フロアは空いていた。名前を書く待合用の紙とペンがあったので、カウンターの店員さんに「名前を書いて待っていればいいですか?」と声をかける。「今空いているのですぐにお受けしますよ〜」とのご回答。よかった、隠しページなんてなかった!不安を拭い去ってもらった勢いで、「額装が初めてなので、そもそも額縁ってどういうものがあるのかを聞きたいんです」と我ながら面倒なオーダーをしてしまったが、めちゃくちゃ丁寧に接客してくださった。神。神は新宿世界堂の六階におわす。ちなみに、額装後の絵を引き取りに行ったときは別の店員さんだったが、その方もとても丁寧な接客だった。世界堂の神は唯一神じゃない。
額装には種類があって、①既存の額縁から絵のサイズに合う額縁を選ぶスタイル、②幾つかの額のモデルパターンから気に入った額を選んで(外縁と内縁を)組み合わせるスタイル、③他?があるそう。この点、メモり忘れたので忘れてしまった…。あと間違っていたらごめんなさい。額装したい人、正しい情報は世界堂の神々に聞いて!
で、当然時間もお金もかかるのは②。まあ、オーダーメードだし。
私は②を選んだ。理由はいくつかある。絵の形がどちらも正方形なんだけど、「これイイな」と思える正方形の額縁がなかった。まあ、今回は元々オーダーする構えでいたので「ほほう。意外と数がないのね、正方形の額縁」と思うだけだったけど、これから絵を買って額装するつもりの人は絵のサイズもちょっと気にしておくといいかもしれない。でもまあ、好きなものを買うのがいちばんなのであんまり気にしなくてもいいかもしれない。
あとは、世界堂の店員さんに部屋の写真を見てもらって、「太陽光の入るお部屋なら奥行きのある額装にして、間にUVカットのアクリル板を噛ませることで絵が長持ちしますよ」とアドバイスをいただいたこともでかい。というかこの接客が決め手だった。商売がお上手。

世界堂の壁にたくさん貼られている見本をもぎ取り、絵にはめてみるのだ。

今回はアクリル版を間に挟むので、それぞれの絵には外縁と内縁が必要。
額縁を決め、いざ会計。6万ちょいだった。富豪じゃないので懐は苦しいが、額縁を4つオーダーして、この額ならわかる。絵にピッタリな額縁を見つけたし良い接客を受けたし、額装の奥深さ・面白さも知ったので余は満足!カカカカカ!(口調だけでも富豪になろうとしている)
それから数週間後。
再び世界堂へ行き、額装された絵を受け取ってきた。

持ち運びやすかったです。


見て………。いい…………。めっっっちゃ………いい。
ここまで読んでくれている人、ありがとう。もうちょっとで終わるからこの額縁にした理由もぜひ、読んでください!
「写真だと見えづらいんだけど、左上の絵(「赤い実と、終の住処」)の白い外縁は、絵の中の家の外壁の質感と似ていて、絵の中の家の手触りを現実に持ってきてみたかった。右下の絵(「あい灯る」)の黒い外縁も、削れた質感が、絵の中の光の届かない奥の木々の肌を表せる気がして選んでみた。そして、両方の絵の外縁と内縁の色を反転させることで、2枚の絵に調和が生まれるようにした。」
以上、オタクの早口を聞いてくださり超絶感謝。そして実際に飾った部屋がこちらです。



もう二度と、デスゲームの運営の部屋だと言わせない。
というのは当初の目標だったけど、この数ヶ月間、好きになったものを通して知らなかった世界を知っていくこと、好きなものが増えていく体験自体がとても楽しかった!絵を飾ってほんとうに良かった!大満足です!!
おわりに
絵を飾ってから、1日が経った。1日中嬉しかったのでnoteを書いた。
仕事や作業の合間ふと見上げた壁に美しい風景があると、なんかいい。なんかいいと思えるだけで絵を飾ってよかった。
ちなみに長々と絵を飾る話を書いておきながら、「生活にアートを取り入れよう」とおすすめする気持ちは全くない。ないんかい、って突っ込まれそうだけど、ない。
前に職場の人が「デスクワークだから疲れたときに手元を見てやる気を出せるようにネイルしている」って言っていたのと同じで、自分の気持ちをアゲるためだけに、一目惚れした絵を買って、額装して飾った。それくらいの気楽さ、気軽さでしかない。
皆さんも自分がご機嫌になれるものを手に入れるがいいさ。私にとっては、それが庄司さんの絵だった。


次に誰かが遊びにきたら、飾った絵と整えた部屋を自慢しまくるつもりでいる。自慢しまくりてぇ。はよ来い。来ないならこちらから捕まえにいく。我が部屋にふさわしい、《鑑賞者》を。
