一生のお願い!を聞き入れた話

昨日、私は誕生日だったんですが、翌日の今日は私に「人生最後のリクエスト」をくれた方の多分、命日です。
はっきりとは分かりませんが、自分の中ではそうだと思ってます。


私は名だたる作家でも、文豪でも著名人でもライターでもない、ただのメガネの筋肉オタクでBL小説を書いている。
その界隈でも道に転がる石より知られていない。

でも、そんな私の言葉に恋をして、リクエストをくれた人がいました。

二次創作を初めて半年ほど、閑古鳥の鳴く読まれもしない時期に、一通の匿名のメッセージが届いた。


以下、“匿名さん“と書く


「私はもうすぐしぬ者です。
理由なんかは省きます、それを語りたいわけではないので」

冒頭から陰鬱で私は一回メッセージ画面を閉じた。

つらつらと自分を傷めた他者のことや、どれだけ自分が大変で苦労しているかをつぶさに書いた記事やブログの流れに、当時は辟易へきえきとしてたが、“それはしない“と書いた冒頭に気がつき、もう一度開く。

「率直に言います、時間がありません。
私はあなたの書く登場人物に恋をしています」

いやいや何を、二次創作だから原作のキャラだろうが。

「他の書き手の文章は、ただ欲求を満たしてくれますが、
あなたの書く、言葉が好きです。
私の体でなく、心を満たしてます」

あぁ、ほな恋かもね。

「重ねて言います、私は時間がありません。
私の最期の小説を書いてください」

は?

「承諾頂けましたら、返事をください。
書いてほしい内容の詳細を送ります」

最期?それって今際の際って事?

荷が重い。

ただの二次創作書いてるペーペーには重すぎる。
有名な書き手やないからって遊んでる?
試されてる?
これがアメリカのハリウッドストーリーなら、承諾して創作し、それを読んだ老人が莫大な資産を私に相続して・・・みたいなドリーム満載やけど。

でも、何度読み返しても「嫌な気配はない、時間のない文章」であることは伝わった。

創作時間も考えて、すぐに短い承諾の返事を返した。
匿名のメッセージも当時はX(当時はTwitter)で公開して返信していたが、非公開で返信するとすぐに返事が来た。

私なら承諾すると思ってあらかじめ作っていた文」もしくは「何人にも送る為の定型分」だったかもしれない。

内容を一読し、同じ界隈のフォロワーで、書き手と積極的に交流している懇意の読み専の方にDMでさらっと聞いてみた。

『この界隈で、人生最期の小説書いて!って頼む人、流行ってる?』
『聞かないし、私はみたことないですね。どうかされましたか?』
『いえ、ちょっと違う界隈でいるよって友人から聞いたので。気にしないでください』

本当かもしれない。

匿名さんからのリクエストは、さらり、としたものだった。
内容は割愛するが、端的に書くと。

「明るく、最期を待ち侘びたい」
作風、雰囲気、設定はお任せ。
人によってはシリアスで暗くなるが、なみさんならきっと愛情たっぷりに終わらせてくれると思いました。

これだけは守ってください。
・小説は恋愛を含み、絶対に2人きりで
・全体公開、全年齢でHPに投稿し、キャプション等にリクエストの事は書かない
・読んだら返事をしますので、我儘ですが消してください

今思うと、宮沢賢治の「注文の多い料理店」みたいだったな。

いよいよ本気なのだと、脊椎がぞくりとした。
それに、早熟な文体の若い人かもしれない予想もある。

少し怯んだ。
出来るだけリラックスしようと、当時の恋人のもとに行って一晩抱かれた。

匿名さんは病気かもしれない。
命のかかった大きな手術の前かもしれないし、
人生に疲れて自死を考えているのかもしれない。

足跡を残したくない感じが、本気度を増す。
端に寿命が近い年配の方なら、少しロマンチックだけど。

反面、断られない為の手の込んだリクエストか、人の心を揺さぶる悪戯かもしれない。
でも、自分のことを知られたくない機密性が、闇の濃度を増した。

本気で挑戦させてもらおう。

一言だけ、執筆前に返事を返した。
あまりにもヒントが少ないので、寄り添えないと判断し、手っ取り早くイメージを回収しようと思った。

「もう、執筆に取り掛かります。
安心してください。
一つだけ質問します、差し支えなければお答えください。
あなたが最期に聞きたい曲はなんですか?」

曲名と歌手名のみ、ぽんっとカラオケみたいに返信された。

私のメッセージから2時間後と比較的早い返信の、誤字がたいへんに気になった。
なぜなら、いつもは何度も書き直したような、丁寧な文体だったから。

誤字に気付いて、もう一度訂正された吐き捨てでないメッセージを受けた時、なんの事実も分からないけど、この人が私を求めて、時間がないのは真実だと思った。


それは少しヒットした曲で、祖母が書いた亡くなった祖父へのラブレターをもとに作詞された曲、だったと思う。

もしかしたら、大切な人をなくしているのかもしれない。
では、たった2人の幸せな結末“だけ“を書いてみようか。
充分に年をとって、往生して・・・


私は書き上がった小説を、匿名さんの指示通り、何の関係もないキャプションをつけて何でもないフリで投稿した。

1週間ほどか、もう少し後か。
一通の匿名メッセージの通知がきた。

「ありがとうございます、ありがとうございます。
これで何の恐れもなく、私はどこにでもいけます。
〜作品の感想〜
何も悔やまないでください、道端の石を蹴ったら、近くを歩く人に当てたくらいに流して、なみさんは生きてください。

いつか気持ちが向いたら、私のリクエストを使ってください。
現世は死人に口無しですが、これは私の生きた証と、あの世でニンマリしますから。

記憶の中のものを書き出してます
全ては私と匿名さんの記憶の中に隠しました


「一生のお願い!これ買って!」と、幼い頃に妹が何度も吐いた、使い込んで萎びてしまった、人生をかけた言葉を思い起こす。

これこそ本物の「一生のお願い」ってやつじゃない?と、私は小説を削除した。

今もその小説だけは、端末のフォルダーの端にずっといる。
日の目を浴びて、成仏する日を待っている幽霊みたいに。




創作をしていると不思議な出会いがある。
それは決まってこんな下手くそやめちゃえよ!と無闇に一人思っている時。

こんな時に挑戦状を叩きつけてくる人が必ずいて、どうしても続けてしまう。
それこそ、この挑戦状が無くなれば潮時、筆を折る日と思う程に、降ってくるのだ。

ちなみに約1週間、世に晒していたが、投稿したその何の脈略もない小説は全く伸びず、スキやいいねの類もつかなかった。
ただ、たった一人の人の心を満たしてはなむけになった満足感は、自信と優越感になって私をとても満足させた。

とはいえ。

全部嘘かもしれないし、事実が捻じ曲がっているかもしれない。
体良く遊ばれたのかもしれない、譫言うわごとみたいな挑戦だった。

ただ、匿名さんと連絡をとって、感想を頂いたのは事実。
何の音沙汰がなくても、こっそり自分を生き甲斐にしてくれている人がいる事を知れた、いい経験だと思う。

見ている人は本当に見ている。

この経験は、今もこうやって地面を這うように創作する上で、負けないでいられる心の基盤になっている。


匿名さんに愛を込めて。

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