見出し画像

雨の日のちょっと切ない小説

短編企画小説!今月のお題!

「雨の日の恋」「ルマンド」「ダンボール」
この3つのお題を使ったブロマンス〜BL小説

後ほど他の参加者様の小説も集めてまとめ記事を出します!
まとめ読みしたい方はそちらからどうぞ。

切ないよ!
男性同士の恋愛を含むよ!
愛されてるよ!

レッツ♪ #noteでBL


本編「傘がない」


今年は夏コミに参加しない。

浮かぶのは五番煎じのネタばかりで新作のネタもなく、それに伴う書く気も皆無になり、俺はついに手の中のシャーペンを机に転がした。
こんな時は、チアチョア界隈の同人界の巨根である『らめぇ♡打先生』のエロ本で一回身も心もクリーンにしよう。

クローゼットを開けて服のカーテンを避けると、そこには薄いエロ本コレクションが広がるが、今日は秘蔵のダンボール。
中には届いたばかりの新刊達、今日はこれをご開帳だ。

推しのククちゃんの浴衣で♡♡♡にするか、水着も悪くない。いや……ホットパンツの尻もけしからん。

吟味しているとインターフォンが鳴った。
居留守をつかえと下半身は言っているが、脳みそは察知している。

Amazonとふるさと納税の返礼の心当たりなし。
友達との約束もしていないとなると、急に家のインターフォンを押すのは十中八九、兄貴だ。

リキなら無視だが兄貴は別腹、クローゼットを閉じて窓を開け、出来るだけ遠くの緑を眺めて深呼吸。
ブラコンモードに切り替える。

そんな悠長なことしてたら兄貴は帰ってしまわないかって?

俺の兄貴は気が長い。

アマゾン川より長くて、チチカカ湖より深い心の持ち主だから大丈夫なのだ。
とは言え、外は雨だから急いで玄関を開けた。

「みつ、タオルある?」

開口一番これである。
しかもずぶ濡れの手ぶら。

「車は?」
「うん。置いてきた。みつの服、貸してくれる?」
「着の身着のまますぎるだろ」

恋人のリキと不毛な水掛け論でもして出てきたな。

長年俺の親友をしているリキは兄貴を熟知し、1人になって気がすめば必ず戻ってくるのを知っているから、追わず探さず放置する。
これが兄貴の元彼のともえ先輩だったら、追跡してきて連れ帰る。

「面倒になっちゃった」

俺は思う。
リキの穏やかさは好きだが、時には巴先輩くらいの力技をしないと大切なものは逃げていくと。


バスケの名門大学に進学した兄貴は寮に入り、その年は部活が忙しくて帰省しないと聞いていた。

盆休み中の俺が二階の自室で昼寝をしていると、階下に人の気配を感じて目が覚めた。両親は墓参りに出たところ、自分しかいないはずだ。
足音を忍ばせ階段を降り玄関を見る、見覚えのない大きなサイズのサンダルが揃えてあり、廊下に視線をずらしていくと、仏間の襖が開いていた。

チィィンーーー……

りんの音に飛び上がり、心臓を抑えながら廊下をそろそろ進んで襖の奥を覗くと。

ちょこんと仏壇の前に正座して、音が消えるまでしっかり手を合わせている兄貴がいた。
一気に膝が抜ける。

「みつ。ただいま」
「なんだよ、もう!」

安堵したのも束の間、今度は違和感で冷や汗を浴びる。

8月半ばの茹だる暑さ、汗で濡れたTシャツが背中に張り付いている。
それは兄貴の趣味ではない、海外のロックバンドの古着のTシャツで、バックプリントを前に着てしまっていた。

「帰るって言ってたっけ?」
「ううん」

下は短パンで靴下も履いてない。
俺の兄貴なのに、盆の幽霊みたいで、俺の兄貴じゃないみたい。
ザラザラと耳が詰まるような蝉の声と自分の鼓動が重なり、玄関を振り返る。

「あれ?荷物は?」
「うん。置いてきた。みつの服、貸してくれる?」

視線を戻すと、兄貴は仏壇に供えたお菓子に手を伸ばしていた。
「おばあちゃん、ありがとう。お腹すいてたんだ」と外袋を割いて、薄皮のクレープにチョコクリームをまとわせたお菓子を食べ始める。

一つ、また一つ。
ガリッ、ザクザク、ザクザク。
ぽろぽろ、ぽろぽろ。

歯に砕かれたクレープ生地が膝にこぼれ、溶けたクリームがついた指をしゃぶる。
上品な兄貴がそんな粗らかな食べ方をする姿を初めて見た。



そんな日は変な事が続く。
夜にインターフォンが鳴り玄関を開けると。

「え?白瀬……さん?」

目の前には兄貴の同居人、日本バスケの希望の星「天才・白瀬しらせ ともえ」がいた。

「やぶ、夜分遅くに申し訳ありません。えっと、充時みつじ君だよね?有時ゆうじ…お、お兄さん帰ってる?」
「ぇえあ、兄貴、ですか?」

裏返った俺の声を聞いた母さんが兄貴の手を引っ張りながら玄関まで出てくると、巴先輩は慌てて姿勢を正して頭を下げる。

「お母さん、突然すみませんでした」
「いいのよ巴君、もう遅いし泊まっていって。みつ、服貸してあげて!お兄ちゃん、客間にお布団!お父さん、いいわよね?」
「有時君の無事が知れたら僕はいいんです、近くに高校の後輩の下宿があるんでそこに、」
「泊まりなさい」
「はい…」

気迫に負けた巴先輩が、脱いだ靴を端に揃えて兄貴の前に立つ。
顔を見てほっと肌を赤くし、溺れるように唇と頬を振るわせて「よかった」手を伸ばした。
兄貴はそれにさっと身を引いて客間に消える。

みるみる巴先輩の顎がしおしおになって、糸が切れたように項垂れる。
母さんはその頭をポンと撫で「あんなにお兄ちゃんを怒らせたのは巴君が初めてよ。大好きな証拠ね」と小学生の喧嘩の仲裁みたいな事を言いながら、巴先輩をお風呂に案内した。

夜の12時を過ぎた頃、自室の電気を消そうとすると「みつ」と細い声がして兄貴が俺の寝床に潜り込んできた。
纏う空気がしょっぱい。

「白瀬さんと寝ないの?」
「うん。喧嘩したの」
「そっか。優しいな、追いかけてくるなんて」
「……困る」

喧嘩をし慣れない兄貴は、ぐりぐりと俺の胸元に冷たい鼻を擦り付けた。

「辛い事には慣れてるけど、優しくされると弱いから」

巴先輩が体裁よりも自分の身を案じてくれていた事に兄貴は猛省し、どんな時も出先を伝えるようになった。
おかげで巴先輩の回収も捗ったのは別の話。


そう言えば。


巴先輩が実家に押しかけてきた事がもう一度だけある。

2人がプロバスケット選手になって6年目の夏の終わり。
アメリカ帰りの巴先輩と、日本の名門チームの“ヒーツ“の絶対的エースの千速ちはやさんとの熱愛報道が流れた時だ。
ビックカップルの報道に日本のバスケ界も変わったなぁと感心していたら、渦中の巴先輩がまた突然インターフォンを鳴らした。

兄貴は移籍の引っ越しで忙しく、帰省していない。

リビングから覗くと、巴先輩は母さんと玄関先で話し込んだ後に深々と頭を下げた。
でも母さんはあの日のように巴先輩を受け入れず「火のないところに煙は立ちません」とピシャリと玄関を閉める。

しばらく玄関に人の気配があったが、諦めたように消えた後、天気が一気に崩れた。
こぼれ出した大粒の雨に気づいた母さんは、洗濯物を取り込むより先に俺に傘を渡した。

「巴君に渡してあげて。これお兄ちゃんの傘だから、うちに返しに来なくていいから」


理由はよく分からないが、特殊任務を預かった気がして、降り始めた雨の中走った。
すぐにロックバンドのビンテージTシャツが見えて声を上げる。

「巴先輩!」

全く気付かない。
今度は息を吸い込み、高めの声で呼ぶ。

「ともえ!」

弾かれたように振り向いた一刹那、巴先輩はくしゃっと顔面を潰した。
口角の端から普段は見せない八重歯が見えて、笑顔が泣いた。

「先輩……」

そして小走りの俺が追いつくと、ずっしり肩を落とした。
拳を握り、薄い下唇をキリリと噛む。


「あぁ、みつ君か」

俺達は全然似てない。
俺より身長が15㎝低く、声も高い兄貴と間違えるほど巴先輩が兄貴を切望している事だけ分かった。

「あの、傘」

柄に見覚えがあるのか先輩の真っ白な頬が引き攣り、誤魔化そうと張り付いた前髪をかきあげた。

「ごめん、雨なのに」
「雨だから、ですよ」

大きく吸い込んだ息で肺が膨らんでも、分厚いはずの胸板はしょんぼりし、傘をゆっくり押し返しながら首を横に振ると。
「ふぇぇ」と空気の抜けるような声をこぼして、巴先輩が泣き出した。

大先輩で、日本代表で、バスケの最高峰のNBAまで行った男が、土砂降りの雨の中、片田舎の住宅街で嗚咽をあげている。

「先輩、」
「ごぇ、ごめんなさい……お兄さん、傷つけて」
何の事だか分からないが、熱愛報道の事だろうか?
「えっとニュースの事なら、」

俺の言葉に先に堰を切ったのは、雨じゃなくて巴先輩だった。

「なぁ、世の中にはもっと、さぁ。ニュースにするべき事っていっぱいあると思うんよ。
人が亡くなったり、政治家がアホゆうたり、税金の使い道とか、なぁ、みつ君もそう思わん?」

やっぱりあの熱愛報道だ。

「俺が誰とどうなろうが、かまへんやんか、一週間もしたら記憶の片隅にもあらへんやんか」
「すみません。あの、それとうちに何の関係が?」

雨粒が巴先輩に落ちて雫が髪を何本つたっても、雨で涙は誤魔化せないんだと初めて知った。

「俺、有時と、お兄さんと大学からお付き合いしてて、」

同時に俺は、2人が何年も付き合っていた事をも初めて知った。

でも、チームは2人の交際をよく思わなかった。
巴先輩は2年アメリカでプレイしながら、渡米した千速さんに相談していたところを「密会」としてすっぱ抜かれた。
だが、帰国するとチームは千速さんとの熱愛に祝杯ムードでそのまますんなり契約を続行。
同じチームにいるはずの兄貴は来シーズンの契約を入れ違いで打ち切り、退団した後だった。

何も知らないチームメイトは「有時はビリーバーズに引き抜かれた」と言っていたが、この時に巴先輩は気がついた。

世の中は地位も名誉も話題性もある千速さんを良しとし、“よく言って優秀“の兄貴を自分の相手に不足としていたんだと。

「有時の引越し先も行ったけど、おらんくて。こっちかなて思てんけど」

放っておいてほしいって事だろうな。

俺は新しい特別任務に気付いた。
“よく言って優秀“程度の兄貴の弟として、俺は本当の天才白瀬を世に晒さなければならない。

容赦なく巴先輩を叩く雨を傘で遮った。

「先輩、千速さんとの熱愛は否定していいんですよね?」

バカな報道よ、この世の中よ。これをニュースで流せよ。

「当たり前やんか」

“よく言って優秀“程度の俺の兄貴にどうしようもなく恋をして、水浸しで鼻水まで垂らすくちゃくちゃのみっともない男を世間はもっと知るべきだ。


「母からの伝言です。もう家には来なくて結構ですが、必ず兄貴にこの傘を返してください」


報道は数週間で立ち消えた。
兄貴はその1年は実家にも顔を出さず、同じチームに移籍した俺の親友のリキと幸せそうに交際を始めた。

一方で、兄貴の新居に傘が1本増え、巴先輩は母さんと和解した。
じりじりと猛追してくる日本の頂点に立つ男、天才白瀬の諦めの悪さに俺は寒気を感じたが、もう一つの疑惑が浮かぶ。

あの日の喧嘩みたいに巴先輩から一定の距離をとったふりをして、兄貴は上手く雨を避けただけなんじゃないかと。
あの艶かしい桃色の薄い肌の下から、そんなしたたかな本心が透けて見えないように雨を避けただけなんじゃないかと。




「これ、みつの服?」

シャワーから出た兄貴がむぅっと不細工な顔で俺を見上げる。
「ご名答。それはリキが忘れてったシャツ」
巴先輩には絶対にしないくせに俺とリキには見せる変顔で、ブカブカの彼シャツを引っ張った後に俺の禁断のクローゼットに手をかける。

「あ!ちょッ!」

一足遅れて扉が開いた。
奥の薄いエロ本はセーフだが、もっとヤバい足元のダンボールに気付かれる。

「何これ?」

慌てた俺の腕より早くしゃがんで残像になったが、リーチで勝って羽交締めにし、難を逃れる。

「プライベート!」
「へぇ。なんかえっちなのがはみ出てる」
「うそッ!」
ダンボールを庇おうと腕を解くと、ぺたっと床に尻をつけた兄貴が俺を真顔で見上げた。

「うそ。中身はえっちなんだ?」
「すいません、えっちです」
「別にかまわないけど」

くそ。

腹いせに冬コミの新刊ネタにしてやる。
雨の日に彼女未満のずぶ濡れの子が家に押しかけ、シャワーとブカブカの俺のシャツを貸してエッチになだれ込む。
生活圏内で安易で起きそうで実際にこの現場に立ち会えた人間は少数、ベタは幻で正義だ。

「もうリキのこと許してやれよ」
「怒ってないよ。ただ面倒くさいだけ」
「言い方!」

まぁ。
兄貴は気が長いから簡単に人を嫌いにならないし、中途半端はしない。
後ろから抱きしめられたみたいにシャツのボタンを上までとめて、眉間を緩めた兄貴は、俺の兄貴だけどリキの麗しい恋人だった。

「素直になれよ」
「明日には帰る」
「今帰れ、その格好で!」
「柄が恥ずかしい」
「言い方!」

全く、俺が助けてやらないと仲直りも出来ない仕方のない奴ばっかりだ。

「なんでもいいから、兄貴がリキに返しといて!」
「…ねぇ、ルマンド食べたい」

あ、無視しやがった。


巴先輩の身の潔白

千速は巴と同時に考えていた登場人物で、アメリカ留学後に海外リーグを転々として日本のリーグに来た選手。
アジアキャンプや日本代表で巴とは顔馴染みで、ずっと前から好きだった。
シェアケース(全世界のバスケのドラフトみたいなの)でスカウトを受けた巴が、しばらく日本を離れてNBAの下部組織でプレイしていた時に距離が近くなる。

巴は交際を否定、千速は否定していない。
あれ?先輩グレーゾーンです。


すごいどうでもいい後日談

大学時代の痴話喧嘩の翌日。
帰る間際に「お騒がせしました」と仏壇に手を合わせてる巴に惚れ直した有時は我慢出来ずに巴の背中に抱きつき、現場をお父さんに目撃される。

父の心は乱れた。

スパーンッと襖を開けて「息子が天才イケメンの玉の輿に乗る世界線なんてお父さんは許しません!」と激怒。
若い2人を応援するお母さんに「天塩にかけた息子がハイスペのスパダリにベタ惚れされて何が悪い!」とバチクソ怒られてお小遣い減給。

「俺のツンデレ彼氏の有時が今日も食べたいくらい可愛いくて死にたい」巴先輩と「カースト下位の分際ですがチート彼氏に執愛されて困ってます」の有時は仲良く寮に帰って行った。

ちなみにお寝坊の弟の充時は「夜中に彼氏を差し置いて夜這いしてくる俺の兄貴が隠れ巨乳の美少女だった件について」の不毛な夢を見ていましたとさ。


お知らせ

同じお題で「おっぱい漫才コメディ」を書きました。
本編にするには「恋」が激よわすぎて「ルマンド」「ダンボール」「の、上に乗った雨の日のおっぱい」の話です。
頭空っぽにしておっぱいの夢を詰め込む話ですが、下品さはないさっぱりした、勢いで読む漫才です。

また後日、こっそりだします。

いいなと思ったら応援しよう!