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短編小説・兄の結婚

今回は、二首短歌と「ゴールデンウィーク」の一言をお題に5000文字で小説を捻りました!

今回はレッツ#短歌でBL!

短歌は月は東に さんからです。
毎日短歌と、ちょい読みに最適な短編満載のnoteです!

【お題】の短歌
①セーラー服※ワード指定

セーラー服の襟なびかせて歌いおる「水兵、リーベ、僕の…」 君の、

②元彼のラブレター

「字が好き」がとっとく理由になるってさインクの染みはあまりに碧い

企画の挑戦者の小説を全部まとめた欲張りな記事を、後ほど投稿します。
1週間トップに固定しますんで、まとめ読みにどうぞ!

挑戦者のみんな!
月さんの渾身の短歌に我々の想いをぶつけようぜ!


偶然ですけど、この小説を読むのにうってつけの日になりました。

小説はそのままでも読めますが、先月にカクヨムさんに連載、と言うより一気に投稿した長編を読んだ人が「あ、あれか」と思える仕様にしてます。

✴︎男性同士の恋愛の話だよ。



小説「兄の結婚」


兄は恋長き人だ。

実際、お付き合いした人は5人。
小学生の時のミオちゃん、中学生のハナちゃんとは高校まで。
紆余曲折あり、今は俺の親友のリキと付き合い初めてそこで高止まり。

人数はシンプルだが、性別を問わない奔放さは自分には真似できない。


リキも恋長き人だ。

リキは俺の高校からの親友で、バスケ部のエースだった兄の強火のファンだった。

学歴、部活だけで収まらず、プロバスケ選手になった兄を追いかけ自分もプロになり約8年。
ついに昨シーズン同じチームに移籍し、挨拶もそこそこに兄を口説く。
交際が始まると、もう逃さないように半同棲を始めた。

リキは運命だというが、俺は運命を捻じ曲げたえげつない執念だと思う。


「ゴールデンウィーク中に悪いね。物置の荷物を片そうと思っていたら、リキが新居に行っちゃって」
「暇だったしいいよ。それにしても急な結婚だな」
「うん。引っ越しはオフシーズンでないと大変だし、バタバタしてる」

兄が廊下の途中の引き戸を開けると、その放置具合が窺い知れた。
4畳半の広さの室内は、角が潰れた古い段ボールが5個手前に積まれ、布テープでしっかりと閉じられたまま開いた形跡がない。
ここに住んで3年目だが、越してから一度も開けてないらしい。

「何入ってんだよ?」
「分からない。チームの移籍で引っ越す度に出来るだけ捨てたり譲るんだけど、なんとなく持ってきてしまった物なんだ」

俺なら記憶にない思い出の品なんて、どんな黒歴史が出るか分からないから1人で開けたい。
でも兄は古い思い出の箱を真っ新な気持ちで開けれるほど、隠し事がないんだろう。

2人で日当たりのいいリビングまで段ボールを運んだ。

「もう夏みたいな春だね」
「人はそれを初夏って言うんだよ」
「そうか」

バルコニーから吹き込む風がレースのカーテンを揺らし、兄の白い綿のシャツの裾がもわりと魚の尾鰭みたいにひるがえった。

「そんな服持ってた?」
「うん。ロスコがイタリアの海軍のセーラーの古着を譲ってくれたんだ。俺は好きだけど、リキは幼稚園のスモッグみたいって笑う」

独特の角がある襟も同じ白で、その下に紺色のスカーフが胸元で簡単に結ばれている。
光に透けたボディラインに沿うようにインナーの黒がうつり、記憶の底が浚われた。

「そういや幼稚園の制服セーラーだったよな?」
「あぁ確かに。だから懐かしいのか」

ドナルドダックみたいな青いセーラーに麦わら帽の兄が、幼稚園バスからおりる写真が実家のどこかにあった気がする。

袖をまくった兄が布テープに人差し指の爪をかけてカリカリ掻いて、ビィっとテープを剥いでいく。
いつもつけてる右手首のシルバーのバングルに照明が反射して目を細めた。

箱の中身は学生時代のバスケ部のユニフォームや、写真、卒業アルバムが雑多に入っていた。
トロフィや、チャンピオンリングは実家のリビングに所狭しと並んでいて、ユニフォームも一緒に飾りたいと母さんが探していた。

俺は割となんでも置いておきたいが、兄はあまり物に執着がない。

3年住んだこの部屋も必要最低限の家具しかなく、本気を出せば明日にでも出て行けそうに俺は思う。

段ボールの中にアルバムを見つけ、家族で富士登山をした時の写真を取り出し俺に見せた。
この時は夜が浅いうちから登山を開始し、富士山の途中から河口湖であった花火大会を上から見たのだ。

「花火は上から見ても丸かったね」
「普通に考えたらそうでしかないのに、不思議だったな」
「帰ってからみつに『花火の色はどうやってつけてるの?』って聞かれて必死に炎色反応について調べたね」
「あぁ、火薬に元素混ぜた星を作るんだよな?なんだっけ、ピンクが…リチウム、黄色がナトリウムで、オレンジがカルシウム」
「習いたての元素記号がこんなに早く役に立つとは思わなかったよ」

学習机で小学生の俺が全く分からない花火のカラクリに挑んでいく中学生の兄は、とても“兄貴“だった。
背丈を超えても、発育が追いついても、兄というものはいつも一歩前をいく。
清楚に粛々と、時に背筋の毛穴が痛くなるほどゾクッとする、大人の顔を覗かせながら。

「写真はつい手が止まる。これはまた今度整理しよう」
「違うだろ、それするからこうなってんだろうが!バスケ関連は母さんが飾りたいって言ってたから、今まとめる実家用の箱を作れ」
「はい」

5個あった段ボールの中身は、ほとんどが確かに捨てるかどうか悩むものばかりだった。

沖縄のチームで頂いたかりゆし、オリオンビールのサコッシュ、島の子供が編んだ口に指を入れると抜けなくなるハブ。
なんかのネジ、家具を組み立てた六角レンチ。
洋服の予備ボタン。
怪我で長期離脱した時の寄せ書き、日本代表のサイン入りのユニフォーム、オールスターのユニフォーム。
チームのスポンサーに頂いた未使用の調理機器。

実家用、リサイクル、ゴミ、と分けて最後の一箱に取り掛かる。

これは他の段ボールより小さく真新しい。

布テープを剥くとマトリョーシカみたいに中から古い段ボールが覗いた。
取り出すと、スーパーからとってきたのか、側面に舞茸の絵が入っていて、サイズはオーブントースターくらい。

中身はそこそこ重いが片手で持てないほどでもない。

兄は不意にテープを取る手を止めた。
そして壁にかかった時計を見あげ、鼻歌みたいに呟いた。

「ねぇ、コーヒー飲まない?」

最後の一箱だろ、と俺は呆れる。

「何度言わせるんだよ!最後までやり切ってから休憩!だから片付かないんだろ?」
「いいから」

キッチンに入る兄のセーラーの白い裾が見えなくなると、勝手に開けてやろうかと箱側面の舞茸をにらんだが、開けてとんでもないものが出たら収拾がつかないからやめ、ため息の勢いでリビングを見渡す。

この家は本当に何もない。
半同棲状態の恋人のリキの片鱗もない。

あいつは旅行が好きで、あれやこれやと置き物やらなんやらを置きたがるが、ここには買ってこないようだ。

2人は合っているようで、合っていない。
なのに兄は突然に親友のものになってしまった。

急に俺の心の様子が変わり、余裕が無くなる。
リキも兄も俺の近しい人なのに、急に2人で手を繋いで遠くにいなくなるんじゃないかって。

当たり前は前兆もなく形を変えるんだ。

例えば、自分の足はずっと自分の体にくっついていものだと思っているが、ある日突然に事故で切断したような気持ち。
その経験は現時点の俺にないけど、例えるならあって当たり前のものが欠けて当たり前になるみたいな、そんな気持ち。

この部屋で愛を育む2人には、一生推し量れないかもしれない。

「はい。召し上がれ」

ご機嫌でコーヒーを淹れて戻った兄は、箱を撫でながらぼんやりとカーテンの向こうを見た。
海ですくった熱帯魚が、家の水槽から遠い海を懐かしむみたいに見えるのは、セーラー服の遠い記憶のせい。

「いい天気だね、寝具を洗濯すればよかったな」
「は?乾燥機あるしいつでもいいじゃん」
「いや。天日干しにうってつけの日だったんだよ、今日は」

今度はコーヒーカップの丸みを撫でる。

「なのに俺はすぐにこうゆう事を忘れてしまうんだ」

言っている意味は分からない。
遠い昔の話をしているようで、つい最近みたいにも聞こえる。
でも、後悔みたいな水分が目元にうるうると膜をはったから、多分遠い記憶だ。

オッドマンに置いた天板にコーヒーを乗せて、諦めみたいに舞茸の箱のテープに触る。
長い年月で粘着力を半分失いカサカサになった安いガムテープの端だけ取ると、沈んだ段ボールの蓋の上にペラっとたわんだ。

「こんなところにいたんだね」

中に入っていたのは、古い文庫本が二冊と、新聞紙で厳重に包まれた丸いものが二つ、そして兄の筆跡ではない文字で、几帳面に「生活費」と表紙に書かれたキャンパスノート。
他には緩衝材しか入っていなかったが、雑多に詰めていた他の段ボールに比べて随分と厳重だった。

文庫本を手に取る兄の横で、俺は重なった新聞紙を剥いて中からコーヒーカップを発掘した。
それは実家でいた頃から兄が愛用していた見覚えのあるものだった。
もしやと思ってもう一つを剥くと、誰かが大切に使い込んだ形跡のあるカップが出てきた。
口をつける部分だけ塗料がはげている。

「これ、大学の寮で同室だったともえのカップだよ」
「巴先輩の?おい、何パクってんだよ!」

思わず大きな声が出たが、あぁ、そうだったと気がつく。

巴先輩は恋永き、人だ。

確か巴先輩は大学時代の兄の同居人で、2人は恋人同士だった。

「やだな、人聞きが悪い。餞別だよ?この文庫本もそう」

髪をかきあげた兄の手首でシルバーのバングルが光る、お揃いのものを巴先輩もつけているのを俺は知っている。

「普通こんなのもらう?どう考えても、」

未練だろ。

「青春の思い出には重すぎる」
「はは、確かにそうだね」

パラパラと読む気のない音を立ててページが繰られていた文庫が、勝手に開いて止まった。
しおりかと思ったら、付箋ふせんの束が挟まっている。
粘着はもうなく、キャンパスノートの表紙に書かれているのと同じ筆跡で「20時に戻る」と書き付けた、何でもない日常の会話の切れ端の、ボールペンのインク溜まりは乾き切っている。

「俺ね、巴が書くアラビア数字の形が好きなんだ」

慈しむ、という言葉がよく似合う横顔。

「こうやってよく伝言を机に残してくれて、俺は好きな数字の書かれたメモだけこっそり集めてたんだ」

20時に戻る、18時には帰宅する事、2人で。

お菓子のおまけのシールすら全部俺にくれたものを持たない兄が、唯一集めたものかもしれない。

「日常の中でね、不意に手に入るのが嬉しかった」

コーヒーの匂いが濃くなったのは、また強く吹いた風のせいだろうか。

床に置かれた兄のスマホが光って、現在の、恋人のリキの帰宅を伝え、付箋を持つ指が迷う。

「もう捨てないとね」

兄は返信をせず、文庫のページを繰って付箋を集め出した。
一緒に慌てた風がシャツの裾をひるがえし、青い付箋が落ちる。


おやすみ有時ゆうじ、大好きだよ。
明日は晴れたら一緒にシーツを洗濯しよう。


数字なんか入ってない、剥き出しの未練が外の晴天に照らされて半分白い。

だめだろ、これは。

「置いとけよ」
「でも」
「古のビックリマンシールの値段知ってる?日本のバスケの歴史を変えた天才・白瀬 巴直筆メモの価値も上がると思う」

そうこうしてるとリキの帰宅を知らせるインターフォンが鳴り、俺は付箋を奪い取った。

リキが入ってくると2人で白々と笑う。

「有時さんすいません!手伝うって言ってたのに急にカイの奴が車出せって言うから!」
「俺のはただの気まぐれだから大丈夫。どうだった?お兄さんの新居」
「オカルトYouTuberの家なんていいもんないって!てか、いつの間に彼女なんか出来たんだよ!俺知らねぇっつの!」
「一緒に住んでるお兄さんの結婚をSNSで知るって、時代だね」

リキのお兄さんのカイさんは、長くリキのヒモをしながらYouTuberをしていたが、この度「撮影を手伝いたい」と申し出てくれた視聴者の女性と恋に落ち、結婚する運びとなった。
リキはオフシーズン中に今までのマンションを解約し、新しいマンションに1人で引っ越す。

これを機に一緒に住めばいいものを、住所で所属チームにバレたりマスコミに気づかれると厄介だから、リキと兄は一緒に住まない。

そして。

リキの片鱗のないこの部屋で、剥き出しの未練との暮らしを更新する。


俺は文庫本を持って、古い段ボールを潰しだした兄の横をすり抜け、勝手に寝室に入った。
付箋をページに戻してサイドテーブルに置く。

リビングではセーラー姿の幼い兄の写真を見つけたリキが、今の姿と見比べながら目尻の皺を深くする。

二つ並んだ古いカップにまだ気が付いていない。

俺はこの度、兄が結婚する事になった、おめでたいリキに質問を投げかけた。

「なぁ。お兄ちゃんが結婚するってどんな気持ち?」

ん〜?と間延びした相槌の後に、眩しい返事がすぐかえる。

「何もねぇよ、家族が増えるだけ!」




ちょっと書き

恋愛は絶対に誰か1人を愛し続けないといけない、とは限らないと思ってます。

家族がある人はそうもいかないですが、私の物語に出てくる人は、日本では家族に今のところなれません。
それは不自由でいて考え方を変えれば「自由に恋愛し続けられる」ことでもあります。
特定の人と家族になるのももちろん素敵です。
でも、彼らのように自由に誰かを思い合うのも素敵だなぁと私は思います。

私の外国籍の友人は定職と高額だった収入を捨てて、日本にやってきた。
彼女は女性が好きな人で、日本人の女性が好みなのだそうです。

でも、日本は同性婚が今は出来ないよ?と言うと「私の国で、私は恋愛をすると刑務所入れられるわ。それに比べたらこの国は自由」とマイルドセブンをプカっとふかし「タバコも安くて美味しいしね」と笑った。

自分は本当にちっぽけな島国の、本当に小さな人間でしかないんだと、国外の人と触れ合う度に考え直します。

口だけで、頭に中だけで、ネットに連なる言葉の羅列だけでは、感性も判断も人としての心も磨けない。
悲しいことと、幸せなことの分別は、その場の空気に触れないと難しいですね。

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