映画「キングダム」を見た私の帰還
手術が成功して退院したら、おりた保険金で「キングダム」を大人買いする。
10年前の私も安定してトチ狂っていたなぁ、と本棚を占拠する赤黒い背表紙を見つめる。
時は春秋戦国時代。
なんだそれ?
人気大絶頂の「キングダム」は本屋に行くたび気になっていた。
時を戻そう
私は、勉強に興味がない。
だから、日本史はおろか世界史もなんなら国語もちゃんと学んでいないので、文法が乱れた話し方を今も指摘される。
漫画は好きで物心ついた頃から読んでいたが、バトル漫画ばかりで歴史物はチンプンカンプン。
言葉も漢字も難しいし、奇妙な言い回し(昔の言葉)をする。このくらいの用語は知っているだろう?を前提に書かれた歴史の流れ。
知らん。
オダノブナガを「きっと尾羽が長くて綺麗な鳥」と思い野鳥に興味を持った私にとって歴史漫画は鬼門でしかなかった。
私の頭の中のケンコバ
キングダムはいつも本屋の一番良い平台を占拠していて、気になって気になって、手に取ってはレジに行く前に戻す、を繰り返していた。
当時の私の特技は「二の足を踏むこと」
三歩進んで二歩下がる人に憧れを感じていた、はじめの一歩は踏み出せているのだから。
きっと面白い、でも歴史は鬼門。
自分に合わなかったら嫌だ。
ある日、アメトーーク!の人気企画、漫画大好き芸人で、ケンドーコバヤシが言った。
「キングダムの第一話試し読みしたら止まらんなって、タクシー飛ばして本屋で大人買いした」
あの漫画大好き芸人のケンコバそんなに言うなら!
でも歴史は鬼門だし。
コバはコバ、私は私、でも!だけど・・・いや!いやいや・・・。
そんなことをウジウジ考える性格のせいか、ストレスがたたり、ある日、体を壊した。
手術と入院が必要。
手術が受けれる病院への紹介状を準備すると先生に言われながら、私は泣きそうだった。
簡単な手術だ。
でも、腹を切るのだ。
自分の意思で腹を切る、それは最早 切腹やんか。
そして気づいた、切腹なんて歴史用語知ってんやん、あたし。
紹介状の封筒は少し重かった。
中に私の内臓のデータが入ったディスクも入っているから、大切に持っていきなさい、と先生は3回言った。
電車を待つ間に本屋に立ち寄ると、キングダムの1話試し読みの冊子が、ケバケバになったビニール紐でぶら下がっている。
今日から私は歴史最強。
迷うことなく読んだ。
ページを繰るたび、頭の中の記憶のケンコバが私に語りかける、低めの大きな声で、いつもより早口で、顔に唾がかかる勢いで、うっとうしい。
読み終わった時、私の頭のケンコバが汗を拭って手を伸ばした。
私はその手を躊躇なく握り返した。
清々しさと先が気になる衝動が、私の心に吹き荒れた。
手術が成功して退院したら、おりた保険金で「キングダム」を大人買いする。
二の足ステップ
退院した私は、Amazonでキングダムを大人買いした。
1ヶ月の療養中に何度も読んで、何回も泣いた。
本屋の前でステップ踏むだけの私にとって、いつも真っ直ぐに思い立ったら駆け出している主人公の信は、眩しかった。
2ステップの私と、ホップ・ステップ・ジャンプの信。
何かをやり出す時、踏み出す時、思いついた時、何が必要なんだろうか。
それを考えさせる漫画だと思う。
人はそれを「勇気」だと言う。
でも、私は「仲間」だと言いたい。
まずは同じ方向を見る仲間、支えてくれる仲間、叱咤し尻を叩いてくれる大人の仲間。
勇気は振り絞らないと出ない時もあるが、仲間がいれば躊躇なくでる。
側にいなくても「上手くいったらあいつに伝えよう」「失敗したら知恵を授かろう」そう思うことで勝手に湧く。
「私も仲間を作ろう」
私は二の足を前へ踏み出した。
それは大いなる自信につながり、今の頑張りになっている。
僕のヒーローズジャーニー
今回の映画キングダムの一番の山場である、王騎将軍と武神・龐煖の一騎打ちは圧巻だ。
映画部分の15〜6巻は何度も読みながら泣いた。
信と同じ村から出兵している尾 兄弟のところ、将軍の一騎打ちからの帰還は、ずっとずっと泣きながら読んだところだ。
当時は人が亡くなる部分に心を揺さぶられた。
残された家族や恋人のこと、仲間、理不尽な思い、してやれなかった後悔。
そんな部分に悔しさの混ざった涙が出た。
でも、昨日の私は泣かなかった。
心は震えるが、涙にはいきつかない。
なんて余裕ぶっこいていたら、大義を果たし、力尽きた弟に兄の尾平がかけた言葉に涙が止まらなくなった。
「謝るな、信。こんな時は笑って、よく頑張った!って言ってやるんだよ」
がんばれ!とか、がんばる!と安易に人は言う、でも最後にこの言葉を言えるのは「本当に頑張ったことがある人か、頑張っている人だ」
いつも見守っている仲間が仲間にいえる言葉。
それを今の私は知っている。
私の特技は「勝手な仲間意識」
一度会ったら友達で毎日会ったらもう仲間。
私の大好きな皆んな、思い立ったらいけよ、いい時も悪い時も私がいるから。
迷わずいけよ、行けばわかるさ!
