自由という名の代償【ちび創作大賞】
皆様こんにちは(*^▽^*)
灯の旅人です。
昨日ぶりです。
本日も、ちび創作大賞。今回は、此方の【自由】をテーマにした1作をお届けいたします…。
文字数としては代替4600文字程。
起承転結面白い物語になっていますので是非お楽しみください。
プロフィール

自由という名の代償
「この国は、すでに滅びております」
御者の言葉を聞き、アルヴェンは馬車の窓から外を見た。
道の両側には、同じ形をした石造りの家々が並んでいた。屋根の高さも、窓の数も、壁の色も、すべてが揃えられている。
かつて、この国では家を建てるにも許可が必要だったという。
どこに住むか。何を育てるか。どんな仕事に就くか。何を語り、何を書き、何を描くか。
それらはすべて、国が決めていた。
争いをなくし、間違いを防ぎ、国民を正しい道へ導くためだった。
しかし、今は誰もいない。
風に揺れる看板には、かすれた文字でこう書かれていた。
『命令なく行動することを禁ず』
アルヴェンは馬車を降りた。

彼はエルグラント帝国の第三皇子であり、同時に一人の商人でもあった。皇帝である父から、諸国を巡り、民の暮らしや商売を自分の目で見てくるよう命じられている。
もっとも、命じられる前から彼は、皇子として城に閉じこもる生活を退屈に思っていた。
人は何を望み、何に金を払い、何を恐れるのか。
それを知るには、玉座の近くにいるより、市場を歩く方が早い。
アルヴェンは廃墟となった役所へ入り、机の上に残されていた記録を読んだ。
ある年、国を干ばつが襲った。
農民たちは、水の少ない土地でも育つ作物へ植え替えようとした。
だが、作物を変更するには中央からの許可が必要だった。
申請書は地方役所から州の役所へ送られ、州から王都へ送られた。王都では審議が始まったものの、干ばつによる混乱で担当官が不在となり、許可は出なかった。
農民たちは命令を待った。
畑は枯れた。
食料を求めて隣町へ向かうにも許可が必要だった。
商人が国外から穀物を仕入れるにも許可が必要だった。
許可を出す役所そのものが機能しなくなったあとも、人々は命令を待ち続けた。
そして、誰もいなくなった。
「自由を奪いすぎれば、自分で生きることすら忘れるのか」
アルヴェンは記録を閉じた。
この国を視察する予定は、これで終わった。
次の目的地は、正反対の国だった。
あらゆる自由を認める国、リベルタ。
国境を越えた瞬間、アルヴェンは思わず笑った。
街は色彩に満ちていた。
赤い屋根の隣に青い屋根があり、その隣には塔のように細長い家が建っている。通りには画家、歌手、発明家、占い師、菓子職人、物語作家が並び、誰もが思い思いの看板を掲げていた。
広場では、一人の若者が空を飛ぶ機械について熱弁し、その横では老女が自作の詩を朗読している。

誰も止めない。
誰も許可を求めない。
店を開きたければ、その日のうちに開ける。商品を売りたければ、自分で値をつける。国を批判しても、王を笑いものにしても構わない。
「素晴らしい国ではありませんか」
同行していた商会員が言った。
アルヴェンも、最初はそう思った。
エルグラントでは、商売を始めるために申請が必要だった。食品を売るなら検査を受け、薬なら効能を証明し、出資を募るなら事業の内容を国へ届けなければならない。
皇子であるアルヴェンでさえ、商人として店を出すときには帳簿を提出している。
面倒な国だ。
リベルタには、その面倒がなかった。
アルヴェンは身分を隠し、商人として市場へ店を出した。
最初の数日は楽しかった。
見たこともない工芸品が集まり、常識外れの発想を持つ職人たちと出会った。故郷では売れないと思われていた奇妙な絵が、この国では高値で取引されていた。
誰にも理解されなかった物語が、多くの読者を得ていた。
自由は、人が持つ才能を外へ連れ出す。
アルヴェンは、その光景を確かに見た。
だが、商人として市場を眺め続けるうちに、別のものも見えるようになった。
「この水を飲めば、あらゆる病が治る!」
広場で男が叫んでいた。
透明な瓶に入っているのは、近くの井戸から汲んだだけの水だった。
「この護符を持たぬ者には、三日以内に不幸が訪れる!」
老人が、人々の不安を煽って紙切れを売っていた。
「今ここで金貨を一枚預ければ、来月には百枚となって戻ってくる!」
豪華な服を着た女が、存在しない事業への出資を募っていた。

アルヴェンは役所へ向かった。
「明らかに人を騙している商人がいる。取り締まらないのか」
役人は穏やかな笑顔で答えた。
「商品を売るのは、彼らの自由です」
「偽りの効能を語っている」
「信じるかどうかは、購入者の自由です」
「存在しない事業へ金を集めている者もいるぞ」
「出資するかどうかも、本人の自由な判断でしょう」
役人は胸を張った。
「我が国は、すべての表現と商売の自由を尊重しております」
数か月が過ぎた。
詐欺はさらに増えた。
騙された者が、損を取り戻すために別の誰かを騙した。
偽物を売る店が、本物を売る店よりも大きな声で客を呼んだ。
真面目な商人が商品の品質を説明している隣で、詐欺師は「買わなければ一生後悔する」と叫んだ。
人々は、何を信じればいいのか分からなくなった。
優れた薬も、ただの水も、同じように疑われた。
誠実な商人も、詐欺師と同じ目で見られた。
職人たちは店を閉じ始めた。
作家は、作品を盗まれても訴える場所がないと知り、国を去った。
市場に残ったのは、誰よりも大声で嘘をつける者たちだった。
やがて、役人たちまで言い始めた。
「我々に責任はありません。すべて、国民が自由に選んだ結果です」
アルヴェンは宿の窓から、荒れ始めた街を見下ろした。
自由を奪った国では、人々は命令がないために動けなかった。
自由を放置した国では、人々は何を信じればいいか分からず動けなくなった。
どちらの街からも、少しずつ人の姿が消えていった。
「殿下」
背後から声がした。
身分を知る密偵の一人だった。
「帰国なさいますか」
「その前に、少し商売をしよう」
アルヴェンは笑った。
翌日、彼は街で最も大きな広場を借りた。
そこへ、真面目に暮らしていた職人、農民、商人、作家、家族たちを集めた。
アルヴェンは、初めて自らの身分を明かした。
「俺は、エルグラント帝国第三皇子、アルヴェンだ」
広場がざわめいた。

「この国が遠からず滅びることは、皆も分かっていると思う。故郷へ戻るつもりだが、望む者は共に来てほしい」
人々の顔に、わずかな希望が浮かんだ。
だが、アルヴェンは続けた。
「先に言っておく。俺の国は、ここほど自由ではない」
広場が静まった。
「商売を始めるには届け出がいる。食べ物や薬には検査がある。税も払ってもらう。夜中に大声で騒げば衛兵に叱られるし、人を騙せば牢へ入る」
何人かが不安そうに顔を見合わせた。
「だが、好きな物語を書く自由はある。国の制度へ文句を言う自由もある。職業を選び、国を離れ、また戻る自由もある。人を騙さず、他人の命を脅かさない限り、皆の暮らしは守る」
アルヴェンは広場を見回した。
「来るかどうかは、皆の自由だ」
その日、多くの者が名簿へ名を書いた。
その一方で、アルヴェンは別の集会も開いた。
招いたのは、リベルタで名を知られた商人たちだった。
奇跡の水を売る者。
偽りの成功法を売る者。
不安を煽って護符を売る者。
実体のない事業へ金を集める者。
アルヴェンは彼らへ、商人らしい笑顔を向けた。
「皆様の優れた商才を、この国だけに留めるのは惜しいと思いませんか」
詐欺師たちは顔を見合わせた。
「私の故郷には、ここよりも多くの民がいます。市場も広く、蓄えを持つ者も多い。皆様の商売をさらに広げる、絶好の機会です」
「規制はないのか」
一人が尋ねた。
アルヴェンは笑みを崩さなかった。
「皆様の才能を歓迎する準備は、すでに始めております」
嘘は言っていない。
彼はその夜、故国へ書状を送った。
入国希望者のために住居と食料を用意すること。
国境へ衛兵を配置すること。
ドラゴンニュートの鑑定士を集めること。
そして、大量の鉄格子付き馬車を用意すること。
数週間後、長い移民の列がリベルタを出た。
新しい暮らしを求める民も、さらに大きな獲物を求める詐欺師も、同じ道を歩いた。
誰も強制されてはいない。
全員が、自らの意思でアルヴェンについてきた。
エルグラントの国境へ到着すると、人々は一人ずつ審査を受けた。
審査官を務めるドラゴンニュートには、魂の在り方を見る力がある。
罪を犯していても、悔い、償おうとしている者。
周囲に流されて悪事へ加担したものの、やり直す意思を持つ者。
彼らは罪の重さに応じて、数か月から数年の牢獄へ送られた。刑を終えた後は働き、被害者への弁済を続けることになる。

一方で、数え切れないほどの人間を騙しながら、何の痛みも覚えていない者たちもいた。
自分は悪くない。
信じた者が愚かだった。
別の国へ行けば、また同じ商売を始めればいい。
その魂には、反省の欠片もなかった。
彼らの列は、国境の右側へ分けられていった。
百人。
千人。
やがて、数える者が数を気にしなくなるほど膨れ上がった。
詐欺師の一人が、並べられた鉄格子付きの馬車を見て叫んだ。
「話が違うぞ!」
「何が違うのでしょう」
アルヴェンは商人の笑顔で答えた。
「新しい市場を用意すると言ったではないか!」
「ええ。皆様を心待ちにしている方々が、大勢おります」
遠く、北の山脈から咆哮が響いた。
低く、重く、地面まで震わせる声だった。
詐欺師たちの顔から血の気が引いていく。
「我が国には、古くから友好関係にある龍の一族がおりまして」
アルヴェンは、北へ続く道を示した。
「皆様ほど嘘で肥えた魂は珍しいと、たいへん喜んでおります」
自由の国リベルタは、その翌年に滅びた。
最後まで残った者たちは、互いの言葉を信じることができず、国を守るために力を合わせることもできなかったという。アルヴェンはそういった残った人々をも救いに再度訪問し救ったという…。
そして、エルグラントへ移り住んだ人々は、新たな土地で店を開き、畑を耕し、物語を書いた。
決まりに不満を持つ者もいた。
役所へ抗議し、規則を変えさせた者もいた。
何もかもが自由な国ではなかった。
だが、何も選べない国でもなかった。
ある日、一人の少年がアルヴェンへ尋ねた。
「殿下。自由って、何ですか」
アルヴェンは少し考えた。

かつて訪れた、誰も命令なしには動けなかった国。
誰もが好き勝手に振る舞い、最後には誰の言葉も信じられなくなった国。
そして、文句を言いながらも、人々が自分で働き、自分で選び、自分で暮らしている故郷。
「さあな」
アルヴェンは笑った。
「ただ、自由という言葉が、誰かを騙すための道具になったとき。それを止める者がいない国は、長くは続かないらしい」
少年は分かったような、分からないような顔をした。
北の山脈から、再び龍の咆哮が聞こえた。
この国を治める王族には、ドラゴンニュートの血が流れている。
かつて、人と共に生きることを選んだ者は人の姿を保ち、人を忌み嫌った者は龍となって山へ去ったという。
もっとも、龍たちは王国の敵にはならなかった。
人間を滅ぼすために戦争を始めるより、山で眠り、魔物を狩る方が楽だったからだ。
敵対するのは面倒だった。
王国側も、巨大な龍の一族と争うほど暇ではなかった。
ただし、人や龍の中から過激な者が現れれば、両者は協力してそれを討った。それは古くから続く、少し物騒な遊びのようなものだった。
龍たちは冬を越すため、いつも魔物を喰らうという。
ただ、魔物は初めから食卓へ並べられるわけではない。
広大な領域へ放たれ、狩られる側になる。
その年、龍たちは冬支度のために魔物を狩る必要がなかった。
代わりに何が北の領域へ放たれたのか。
まあ、それは俺たちの知らない領域での話だ。
人と龍の奇妙な関係は、これからも続くだろう。
そして、適度な自由と、適度な不自由を抱えたこの国もまた、しばらくは続いていくのだろう。
少なくとも、人々が自由について好き勝手に議論できている間は。
――終
物語はここで終わりです。
尚その冬の終わり、アルヴェンの元には一枚の感謝状が届いたそうな

まあ彼等の結末は、察しが良いだろう…。
こんな感じでこの世界も無事いい物語の結末を迎えた。
いい結末だと何だか幸せですね。
この国の結末はどうなる事か…。
末永く続くことを祈っていましょう…(´・ω・`)。
それではまた次回、何処かの作品でお会いしましょう。
以上、灯の旅人でした。
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ここまで歩いていただき、ありがとうございます。
もし何か感じていただけたなら、その想いをそっと置いていっていただけると嬉しいです。