【第二話】 んちゅう人、食べ比べてみました。
んちゅうで借りた私の部屋にタコんちゅとイカんちゅが遊びに来ていた時、クラんちゅとチキンヤロウが訪ねてきた。彼らはタコんちゅとイカんちゅの友人で、私がんちゅうに迷い込んで右も左もわからず困り果てていた頃に親身になって助けてくれた恩人たちだ。今日はこの2体を食べ比べてみようと思う。

※一部生成AIによる作画
クラんちゅ
まずはクラんちゅからいただく。いつもニコニコ笑っているクラんちゅを捌いて調理するのは良心が痛むので本人に「君を食べてもいい?」と聞いてみたら赤面してモジモジしながらコクリと頷いた。認識に齟齬が生じた気がするがそのまま進めていく。
クラんちゅの体はそのほとんどが水分なので筒状の棒を挿せば水が溢れ出る。その水は無色透明で無味無臭ゆえに飲むことが可能。ただし、軽い副作用として人肌恋しくなり好きでもない行きずりの他人に抱かれてしまうことがあるのでパートナーがいる人は注意が必要。塩蔵して水分を抜けば副作用もなくなるため、そうして食べるのがんちゅうでは一般的。
「クラんちゅとピャーモの喧嘩別れの酢和え」
塩抜きしたクラんちゅと細切りピャーモを、味付けした喧嘩別れの酢で和えるだけ。
喧嘩別れの酢とは、あんなに仲が良くて大切な存在だったはずなのにくだらない意地を張って「ごめんね」がお互いに言えずそのまま別れてしまった生命体の懺悔と後悔から採取される酸っぱい味の汁。ちなみに、喧嘩別れした年齢が若ければ若いほど酸っぱさが増す。

※一部生成AIによる作画
実食
コリコリとした食感のクラんちゅとシャキシャキのピャーモが胸を締め付ける酸味で切なくも懐かしい味わいを生んでいる。口の中でクラんちゅを噛み締めるたびに、あの日言えなかった「ごめんね」と「だいすきだよ」が口からこぼれそうになる。だけど、その言葉はクラんちゅとピャーモと一緒に飲み込んだ。あの日と同じように…。私には酸っぱすぎたのか、鼻の奥がほんの少しだけツンとした。
チキンヤロウ
鼻を啜った私の顔を覗き込んできたタコんちゅとイカんちゅに背を向けて、私はチキンヤロウを食べる準備に入った。チキンヤロウは食材になることを察して自ら羽根をむしってくれていた。鳥の肌って本当に鳥肌なんだと改めて思った。
鳥獣タイプのんちゅう人を捌くのはコツがいるので専門家がいる精肉店に依頼するのが一般的。今回はチキンヤロウが自ら丸鶏の状態にまで仕上げてくれたのでそれを使っていきたい。
「炭火焼きチキンヤロウ」
チキンヤロウはんちゅうにおいても一般的な食材であり、様々な料理に使われている。ただ、オココケテスペニという寄生虫がいることが多いので生食は避けるべき。
オココケテスペニ
オココケテスペニを口腔摂取して寄生された場合、脳の特定の分野に侵食され、手を脇の下に挟み首を前後にカクカクさせたくて仕方なくなるという症状に悩まされるので注意。健康には影響はない。
今回はシンプルに炭火で焼き鳥風にする。
丸鶏を捌いて使用する部位を切り分ける。今日はもも・皮・せせりをいただこう。
それぞれを一口大に切り、部位ごとにスヘ串に刺していく。刺すたびに時代劇の斬られ役の断末魔のような声をあげるが気にしてはいけない。
焼くための火を起こす。炭は大都会の路地裏で酔い潰れている老人の胸の奥にある叶わなかった夢への情熱が燻って生成された極上の心炭を使うと決めている。成功者への嫉妬と捨てきれない希望が長い年月をかけて熱分解したのちに凝華した物体を炭として燃やせば全てが煙とともに昇華していくことで食材が晴れやかな気持ちになり美味しく焼きあがるという。
味付けはタレもいいけどシンプルに食べたいので塩にする。ドュボプァ山で採取された岩塩の粉末を、炭火で焼いているチキンヤロウに振りかけてやる。この時、かなり高い位置から振りかけることで食材にまんべんなく塩が行き渡るのだとか。よくわかんないけど、なんとなくカッコイイからやっている。

※一部生成AIによる作画
実食
直火でついたほどよい焦げが夢の終わりを告げているようで、腹の虫が泣く。“泣く”のだ。
うまそうなにおいとともにたちこめる湯気をスクリーンに、路地裏で酔いつぶれた夢追い人の人生がダイジェストで流れる。右下にスキップ表示が出た瞬間に飛ばした。
まずはももから食す。丸い肉が今にも弾けそうで思わず慌てて口の中に放り込んだ。熱い──そして美味い。柔らかい肉を噛むたびに“うまみ”という肉汁が口の中に流れ込む。「もも肉味のガム」が発売されたら絶対売れるのに。私は買わないけど。
次に皮。好みによるが、私はよく焼いた方が好きだ。可能ならカリカリになるまで揚げ焼きにしたいところだけど、焼きチキンヤロウで食べる皮はそれはそれで美味い。こちらは食感もガムっぽい。ももより皮をガムにするべきだったか。どちらにせよ買わないけど。
最後はせせり。プリプリとした食感と溢れ出る肉汁。焼けた脂に岩塩が溶けて舌の上で広がり味蕾に染み込む。飲み込んだ脂と塩が体内に入った分、押し出される形で私の頬を涙が伝った。
「ご馳走様でした」
もう一品ずつ作って食べ比べるつもりだったけど、もはやそんな必要がないくらい圧倒的に差があった。チキンヤロウが美味い。クラんちゅは好き好んでわざわざ食べるほど食材としての価値はない。
「ごめんね。がっかりさせちゃったね。」
クラんちゅは困ったような笑顔で私に語りかけてきた。食材としての価値はないと、私は確かに言った。だが、クラんちゅには友人としていつまでも私のそばにいてほしいと思っている。
私がそう伝えると、タコんちゅとイカんちゅとチキンヤロウが私たちの肩に手を置いて微笑んだ。
いつの間にか夜が更けて満天の星が私たちを包み込んでいた。
タコんちゅが「あのツショメネヘソピソ座に永遠の友情を祈ろう」と言って夜空に向かって指を差した。私たちは同じ空を見上げながら、この日々が続いていくことを願った。
七輪の中にある消したはずの炭に、捨てきれなかった夢への情熱がまだ燻っていた。

オブロンのヒポセスが、キックベースの試合でサヨナラホームランを放った日の打ち上げで出されたチーケンを食べる際、ツショメネヘソピソを割り損ねたという神話が由来とされる。

続く
