埼玉にじゃじゃ麺屋さんがないので、三軒茶屋まで行って味を再現しようと試みた話し
好きな食べ物はなんですか、と聞かれたら私は即答する。
「じゃじゃ麺です」
ジャージャー麺ではない。盛岡じゃじゃ麺である。
この2つは全くの別物だ。ジャージャー麺は中華料理。盛岡じゃじゃ麺は、岩手県盛岡市のソウルフードである。似て非なるもの、というやつだ。
仙台時代のじゃじゃめんの思い出
仙台に住んでいた頃、近所に「じゃじゃや」という盛岡じゃじゃ麺の店があった。
毎週通った。本当に毎週である。金曜日の夜、「今週も頑張ったな」と自分を労うように、あの店の暖簾をくぐるのが習慣になっていた。
もちろん本場の盛岡でも食べたことがある。本場は本場で美味しかった。でも「じゃじゃや」は私の生活圏内にあって、いつでも会いに行ける存在だった。それが良かった。
じゃじゃ麺ロスの日々
しかし、埼玉に引っ越してから事態は急変する。
じゃじゃ麺屋さんが、ないのだ。
ラーメン屋は星の数ほどある。うどん屋も多い。なのに、なぜじゃじゃ麺はないのか。
埼玉に来てから一度も食べていない。
禁断症状で手が震え始めた頃(嘘です)、私は東京の三軒茶屋に唯一無二の光を見つけた。
「じゃじゃおいけん」
東京で本場の味が食べられる数少ないお店だ。
行くしかない。これはもはや食事ではなく、救済活動なのだ。
久しぶりの再会
はるばる埼玉から電車を乗り継ぎ、三軒茶屋へ。
お店の暖簾をくぐった瞬間、懐かしい香りが鼻をくすぐる。
席に着くやいなや、迷わず「ジャージャー麺(大盛り・2玉)」を注文した。
久しぶりの再会で「並」なんて頼んでいる場合ではない。
胃袋の許容量なんて関係ない。私は今、じゃじゃ麺に溺れたいのだ。
そして、着丼。

会いたかった。本当に久しぶりだ。
じゃじゃ麺の作法として、食べる前に徹底的に混ぜなければならない。
味噌を混ぜる。その瞬間、ごまと味噌の混ざった香りが鼻腔をくすぐる。この懐かしい感じに、思わず目を閉じてしまった。
にんにくとラー油をガンガン入れるのが私の好みだ。遠慮なく入れる。混ぜる。食べる。
美味い!
一口食べると、記憶が一気に蘇る。
ちーたんたんは飲み物です
無麺を少し残して、卵を割って混ぜる。
「ちーたんたん、お願いします!」
店員さんに声をかけると、卵を溶いた器に熱々のスープを注いでくれる。これがちーたんたんだ。
肉味噌を追加して、胡椒を足して飲む。美味しい!
お店特製のラー油とごま油を入れるのもおすすめされたので、やってみる。これも美味しい!
ズズッとすする。
あぁ、五臓六腑に染み渡るとはこのことか…。
ニンニクと味噌と卵の優しさが、全てを許してくれる味がした。
今日の本当の目的
大満足で店を出た。
いや、待て。
今日の目的は懐かしさを楽しみに来たのではない。
じゃじゃ麺を持ち帰り、この肉味噌を再現させるのが目的だ。
そう、私は決意していたのだ。三軒茶屋まで毎回来るのは無理だ。だったら自分で作るしかない。
実はこの「じゃじゃおいけん」さん、親切にもレシピを公開している。
なんて太っ腹なんだ。
しかし!
レシピを見て愕然とした。肝心の「味噌の銘柄」だけは書かれていないのだ。「赤味噌」というヒントしかない。
材料は分かっても、味噌の種類が違えば全く別の味になってしまう。
ここからは、私の舌だけが頼りだ。
自宅に戻り、私の孤独な「味噌探しの旅」が始まった。
味噌探しの旅
東北繋がりで考えた。盛岡じゃじゃ麺なら、恐らく仙台味噌だろう。
そう当たりをつけて、仙台味噌に絞って探すことにした。
まず試したのが、スーパーで見かけた「シュウセンの仙台味噌」だ。

公開されているレシピ通りに作ってみた。

水で戻した干し椎茸のみじん切りが意外にも大変だ。

そして食べる。
違う。

残念ながら、味噌の味が前面に出てきてしまう。これじゃない。一口食べただけで分かってしまった。
諦めない。次だ。
次に使ったのが「今野醸造さんの仙台味噌」。

パッケージを見た時点で、色が他の味噌よりダントツに濃いことに気づく。
再びレシピ通りに作る。

食べる。
あれ、美味しい。
ただ、明らかにおいけんさんの肉味噌より赤みが濃い。そしてお店の味とは違う。
でもこれはこれで美味しい。味噌がそこまで全面的に主張してこない。そして独特の深みがある。
「これでもいいかもしれない」
そう思った。でも、もう少し探してみたい気持ちもあった。お店の味に、もっと近づけるはずだ。
そして3つ目。
「今野醸造さんの仙台味噌」を試してみた。

作る。

混ぜる。食べる。
お、近い!?
そして美味しい!
肉味噌の色こそ違うが、近い味になった気がする。
でも、やはり同じ味に近づけるには、味噌だけではない何かがありそうだ。火加減なのか、混ぜ方なのか、それとも別の隠し味があるのか。
完全に一致しているわけではない。でもこれでまぁまぁ盛岡じゃじゃ麺に近い味にできた。
亀兵商店さんの味噌も美味しかったが、今野醸造さんの味噌の方が「じゃじゃおいけん」の味に近い気がする。
それから私は、この肉味噌をいつも作り置きしている。

結局、本物が一番美味しい
こうして私は、自宅でいつでも盛岡じゃじゃ麺(風)を食べられるようになった。
麺を茹で、きゅうりを切り、味噌を乗せるだけ。最高である。
多いときには週に5回、じゃじゃ麺を食べる。にんにくとラー油をガンガン入れる。この一連の動作が、もう体に染み付いてしまった。
でも、不思議なもので。
家で作れば作るほど、お店の味が恋しくなるのだ。
「あー、家の味噌も減ってきたしな…」
などと言い訳をして、結局また三茶まで電車に揺られて行ってしまう。

交通費で肉味噌がどのくらい作れるか計算するのは、野暮というものだ。
やっぱり本物が一番美味しい。
お店の活気の中で、ニンニクの匂いを気にせず周囲の客と共に麺をすする。あの一体感と背徳感は、家では味わえない。
これが現実である。
※この記事は、おいけんさんに許可をいただいて公開しています。 (なんと及川さんご本人が読んでくださいました!感涙)
尚、記事中で紹介しているレシピは、あくまで「家庭で簡単に作れるようにアレンジしたもの」であり、お店の秘伝の味そのものではないとのことです。(そりゃそうだ! )
本物の味は、ぜひお店で体験してください!
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