再生の灯 #42規則の温度
(#41より続く)
三井、「すいません、経理マンとかいう立場から離れた意見というか、質問というか、あれですが」
私は、彼の真剣な眼差しを見ながら、先を促すべく頷いた。
三井、「とても凄い優しい新制度だと素直に感動しています。副社長がみんなの為を考えて決断されているのは良く分かります。きっと皆喜ぶと思います。
しかし、私は決算とかがあるので、自分の誕生日にその特別休暇を取れないと思っています。
折角ですが、私にとっては、あまり嬉しくないという訳ではないですが、あまり意味がない新制度のように思います。
とても嬉しいのですが、ちょっと私には取得は無理かなと。
いつも、自分の誕生日の時には、深夜帰宅で、ああ、もう誕生日あとちょっとで終わるなというのがここ数年で。家族はもう寝てますし。」
その光景が、眼に浮かぶような気がするのか、皆、沈黙して聞いていた。
仕方ないなぁ、という空気感が漂う中で、
私、「なるほど、職責、責務によっては誕生日と言っても特別休暇は取れないと。むしろ、それを取ると自分の仕事が溜まって、首を締める結果となるのは、嫌だとなるのはわかる。
少人数で廻している職場だから代われる者もいないと。それでは逆効果だ。無理に取れとは言えない。
それではなんだか不公平だね。」
沈黙。 他の経営幹部は、それは仕方ないだろう、三井はコツコツ型の頑張り屋なのはわかっているし決算作業は俺たちにはわからない世界だし、という空気感。
暫しの黙考の次に、私からの発言。
私、「では、こうしようか。事情によっては、ご家族1名の誕生日の時に休暇を使ってもらうというのは。
事前にそれを上長に伝えておいて、その希望日に、ご家族と一緒にリフレッシュ休暇してもらおうか。」
え?という人事部長の顔。
三井の目が輝く。
三井、「もしもそれなら、娘の誕生日をその特別休暇にして頂けるのなら、妻も娘も大喜びです。
そうできれば、家族3人で、心から楽しい1日を過ごせそうに思います。 本当にいいんですか?」
静かに頷く私と、人事部長もそれは社労士に聞くが、まぁそれもありかという顔。
三井、「副社長、ありがとうございます。それは凄い話だと思います。」
私、きっと前回の社員総会後の夜と同様に、今夜三井は3歳の娘さんに熱く語ってくれるんだろうと想像し、微笑んだ。
会議室にも静かな安堵感が拡がった。
門脇の手が再びあがる、「副社長、そうしたら独身とかは不利ですよね。
そのぉ、恋人の誕生日とかはだめですか?」
私は、苦笑しながら、言葉を発しようとしていると、人事部長が、「それをどう認めるかを君が考えるんだぞ」と言うので、私はにんまりと笑顔で彼をみた。
例の中古車販売部門の本社店長が、「1年に1回だからな。お前のガールフレンドの誰のを取るか知らんけどな。」というと、門脇は、多少焦った顔で、
「いや、今は、もう一人だけですから大丈夫です。」という一言で、爆笑が起こった。 しまったという顔の三井。
中古車販売店長は、「毎年変えるんじゃないぞ。俺はお前の特別休暇のその日付覚えておくぞ。」
私、「ま、どういう事前申請方法を君がするのか楽しみだが、考えてくれ。」
皆の笑顔と三井の苦笑がさざなみのように会議室に流れていった。
(続く)
