印刷用書体の開発とデジテルフォントの未来 #1|デジタルフォントの原点〈1〉
今回から連載本編である「第1章 デジタルフォントとは」を始めます。
最初にデジタルフォントの原点とも言える「ドット文字」について紹介します。私が一番関わった仕事ということで、自己紹介を兼ねてお話します。
このテーマは、2005年の女子美術大学でのシンポジウム「タイポグラフィタイプフェイスのいま。デジタル時代の印刷文字」での発表をもとに、それから20年を経た現在の視点で再編集したものです。
まず初めに、私がデジタルフォント、特にドット文字に関わるまでのプロフィールをお話させていただきます。
私は1977年に株式会社写研に入社しました。写研という会社は、元々「写真植字研究所」という名前で、いわゆる写真植字機のメーカーでした。写真植字機を作るだけでなく、当然それに用いる文字を作っていた会社です。
この時代はデジタルフォントの黎明期でした。新卒で入社した私は、デジタルフォント開発のプロジェクト要員として、写研文字部に配属されました。新卒採用では初めてのことだったと聞いています。それから退職するまでの18年間、ほとんどをデジタルフォント制作に従事しました。
デジタルフォントといっても色々種類がありまして、「低画素フォント」「高画素フォント」「アウトラインフォント」というのが写研での主な分類でした。
私がこの中で一番多く携わったのが、画素数が少ない低画素フォントです。これからお話する「ドット文字」がこれに当たります。
最終的に、私が写研でこつこつ作った文字は大体10万字ぐらいになるのではないかと思います。
写研における初期のデジタルフォント
写研における初期のデジタルフォントは、現在のようなベジェ曲線によるアウトラインフォントではありませんでした。直接ドットを足したり、引いたりして作っていくフォントです。
このドットはXY座標に数値的に配置されるため、「“ビットマップ”フォント」とも呼ばれていました。ここでは簡単に「ドット文字」と呼ぶことにします。
低画素フォントのドット文字には、「16×16ドット」「24×24ドット」「32×32ドット」など、用途によって様々なボディサイズがありました。
ほとんどは写研の自社製品搭載用に制作していたドット文字です。
ちなみに80×100ドット以上のものを「高画素フォント」と呼んでいました。
ドット文字が搭載された製品
次の写真(図1、図2)は、これらのフォントが搭載されていた製品の一例です。今ではあまり見慣れない格好をした機械かもしれません。
当時はテキスト情報を入力する「入力機」と、校正用のプリンターや最終段階の印画紙にプリントする(出力する)「出力機」があって、「入力機」にはモニター表示用のドット文字(ドットフォントデータ)、「出力機」にはその後の高品位な印刷工程向けの高画素フォントがそれぞれに搭載されていました。
その後、入力機はMacintoshやWindowsのパソコンに置き換わり、フォントもドット文字ではなく、そのまま高精細な出力機やダイレクト刷版、オンデマンド印刷機に隔たりなく使用できるアウトラインフォントに置き換わっていきました。
入力機器「SAZANNA‒NV121」

(出典:布施茂『技術者たちの挑戦 写真植字機技術史』2016年 創英社/三省堂刊)
図1は、文字の入力機器「SAZANNA‒NV121」です。キーボードがあって、モニターがあってと、なんとなく昔懐かしい形をしたマシンです。
単にテキストを入力するだけでなく、行間や行長、書体指定といった、様々な組版データを入力できます。
今で言うHTMLのようなマークアップ文章のコーディングマシン、と言って良いでしょう。
ついでを言うと、HTMLは様々な指示言語によって冗長になるため、書式設定などの特定の指示をひとまとめにし、それを特定の代名詞によって簡略化するCSSという技法を生みましたが、写研では代名詞の代わりに「ファンクション」という記号を用いていました。
正にマーク(=記号)アップな言語を開発していたわけです。もちろんこの記号も文字の一つとしてドットで作られていました。
この機械のモニター画面に表示される文字が、いわゆるドット文字になるわけです。
出力機「SAPTRON‒APS 5」

(出典:布施茂『技術者たちの挑戦 写真植字機技術史』2016年 創英社/三省堂刊)
組版データを入力したら、画面の脇にあるフロッピーディスクドライブでディスクに記録します。そのディスクを出力機「SAPTRON‒APS 5」(図2)に挿入して、印画紙に出力するという仕組みです。
印画紙に出力されるのは高画素フォントです。商業印刷向けの高精度なデジタルフォントが使われます。
写研に馴染み深い方々は、手作業でガチャンガチャンと文字を打つ、いわゆる「写植屋さんが使う機械」を作っている会社だと思われるかもしれません。
けれども実際にはこの図のようなデジタルフォントの入力機や出力機、いわゆる「電算写植機」の一大メーカーで、日本全国で80%くらいのシェアを握っていた主力製品でした。
ちなみにここで紹介した機械は、数ある製品のごく一部です。
私が直接関わった中では、この「SAPTRON‒APS 5」と「SAZANNA‒NV121」が一番多かったと記憶しています。
【次回予告】
次回は、入力機「SAZANNA‒NV121」の低画素フォントと、出力機「SAPTRON‒APS 5」の高画素フォントについて、それぞれの特徴と違いを見ていきます。
