003 | 海に帰りし、わが恋は | 土佐清水市竜串に残る伝説
人魚姫のような伝説
美しい海に住む魚の精が、人間に恋をした ────
そんな人魚姫のような話が、高知にもあるのです。
それは、土佐清水市の竜串に残るお話です。
恋する魚の精の伝説
昔、竜串に鯛舞兵助(たいまいひょうすけ)という若侍がやってきて、大ウバメガシの木のそばに仮小屋を建てて住んでいました。
なかなかに豪勇な兵助さん、いつしか村人からも慕われるようになったそうです。
ある雨風のはげしい夜。
美しい巡礼の娘さんが、道に迷って困っているので一晩泊めてほしいとやってきました。
男の独り暮らしですし、断ります。
しかし、雨で疲れて歩けないと言うので、仕方なく泊めることにしました。
ところが、何日たっても旅立っていかず、何かと助けてくれるので、いつしか夫婦になりました。
この娘さん、名前は「ののえ」さんといい、優しく働き者でした。
あるとき、兵助さんは魚が食べたくなり、釣りに行くつもりで早起きすると、軒に活きの良い魚がぶら下がっていました。
米びつの米がなくなったと思うころに増えていたり、不思議な出来事が続きます。
最初は気味悪がっていた兵助さんもだんだん慣れていきました。
あるとき、兵助さんは、山道で見事な鹿の角を拾いました。
軒の木が朽ちていたので、ちょうどいいと角で直しました。
その日から、魚がパタリと来なくなったのです。
明るかったののえさんも暗く沈み、顔は青ざめ体はやせ細ってとうとう床に伏すようになりました。
ある朝、兵助さんは夢うつつにののえさんの声を聞きました。
「実は私は見残湾の魚の精です。
あなたの男らしい姿のひかれてお側にお仕えしておりましたが、鹿の角の毒気の当てられここにおることができなくなりました。
これにてお別れです。
幸せにお暮らしください。」
ハッと兵助は目を覚まし浜へ出てみると、布をしいたように白く光る水面を、ののえさんが走り去っていくのが見えました。
別バージョンもどうぞ
昔、源平の戰いにやぶれた平家の落人が竜串に逃げてきました。
老夫婦がこの男をかくまい、一緒に暮らすようになりました。
老夫婦には美しい衣江さんという娘がいて、いつしか男と恋仲になり、夫婦になりました。
別で暮らすようになった衣江さんを気づかって、魚を持って様子を見に行く老夫婦。
しかし衣江さんの家の軒先には、大きな鯛がかかっていました。
次の日も、また次の日も鯛がかけられています。
老夫婦は、自分たちの魚を持ち帰る日々。
こうして何年か過ぎました。
ある日、源氏の追手に捕えられ、男は殺されてしまいました。
嘆き悲しんだ衣江さんは、竜串の岩に立ち持っていた衣を海へ投げ、それを渡って海の向こうへ消えていきました。
衣江さんは、竜宮の使いで魚の精だったと伝えられています。
竜串の鯛舞屋敷といわれるところに、娘の霊を供養する祠が立てられたということです。
竜串の祠を訪ねて
竜串は、風光明媚なところです。
不思議な形の岩が、海に突き出しています。
砂岩ならではの柔らかい風合いの奇岩がつらなり、あまり見たことのない景色をつくっています。
そんな竜串の民家の間に、小さな祠が残っています。
近所の方に、扉を開けて拝んでいいですよと言ってもらったので、失礼してオープン。
竜串の奇岩と同じキャラメルラテのような色合いの石が鎮座されてました。

この辺りでは「布碆さん」と呼んでいるとその方が教えてくれました。
大漁祈願をするのだそうです。
釣り人のみなさん、なかなかたくさん釣らせていただいてるらしいですわよ!
高知市からは、おおよそ3時間かかる竜串。
確かに遠いですが、奇岩を心ゆくまで楽しめる遊歩道、水族館、海底館まであるので、旅気分が味わえますよ。
参考文献 : 市原麟一郎さん著『土佐のごりやくさん』、 土佐清水市史
