【SF】冷凍庫、西暦2025年。タッパーの中で眠る「白米」たちの長い旅
「警告。保温機能の限界が近づいています。これ以上の維持は、風味(ライフ)の低下を招きます」
炊飯器の黄色いランプが、静かに点滅していた。
かつては温かな蒸気に満ちていたこの惑星(内釜)も、今は水分を失い、カピカピの荒野へと変わりつつある。
私は決断を下した。
「……移住計画(フリージング・プロジェクト)を開始する」
私は右手にシャモジを装備し、ハッチを開放した。
そこには、まだ温かさを残した生存者たちが身を寄せ合っている。
白き民、コシヒカリだ。
「総員、搭乗せよ! この星はもう長くは持たない!」
私は彼らを掬い上げ、用意していた脱出ポッド――『ジップロック・コンテナ(正方形・400ml)』へと移送を開始した。
湯気が立ち上る。
それは彼らの生命の輝きであり、これからの長い旅路への不安の表れでもあった。
「艦長(私)、ポッド内は満員です。これ以上は蓋が閉まりません!」
「詰め込め! 一粒たりとも残すな! 彼らは明日の私の糧となる重要な資源だ!」
私は少々乱暴に、彼らをポッド内へと圧縮した。
そして、半透明のハッチ(蓋)を被せる。
パチン。
気密性が確保された。
彼らは今、真空パックの中で時を止める準備に入った。
「転送準備完了。行き先は……暗黒星雲『レイ・トウコ』」
私はポッドを手に取り、巨大な扉を開けた。
そこは絶対零度の世界。
霜に覆われた保冷剤や、半分だけ食べかけのアイスクリームといった先住者たちが漂う、死と静寂の宇宙だ。
「……次に目覚める時は、灼熱のマイクロ波の中だ。それまで、安らかに眠れ」
私は彼らを、冷凍庫の奥深く――「急速冷凍エリア」へと安置した。
彼らはそこでコールドスリープに入り、肉体(デンプン)の老化を止める。
そして数日後、あるいは数週間後。
私が「手抜きランチ」を欲したその時、彼らは500ワットの熱線を受け、ふっくらと蘇るのだ。
バタン。
扉を閉じる。
キッチンに再び静寂が戻った。
私は空になった内釜を水に浸しながら、遠い宇宙へ旅立った彼らに想いを馳せた。
***
■あとがき
炊いたご飯が余った時、すぐに冷凍するか、保温で粘るか。
それは「種の存続」をかけた重大な決断です。
すぐに冷凍されたエリートたちは、解凍後も美味しいままですが、保温で一晩過ごしてしまった者たちは、黄色く変色し、過酷な運命を辿ることになります。
みなさんの冷凍庫(宇宙)には、今どれくらいの移民船が眠っていますか?
「奥の方から、いつの時代か分からない『謎の銀紙』が発掘された」というスペースデブリをお持ちの方がいらっしゃいましたら、コメント欄で報告してください。
■ハッシュタグ
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