ヨークビルの地下には、いまも何千人もの死者が眠っている?トロント高級街の知られざる歴史
ヨークビルといえば、トロントでも特に高級なエリアとして知られています。ブランドショップ、コンドミニアム、ホテル、カフェ。観光でも視察でも名前が出やすい街ですが、最近SNSでは「このヨークビルの地下には、何千人ものトロント市民が今も埋葬されたままだ」という内容の投稿が広く回っていました。写真のインパクトは強いですが、こういう話ほどどこまで本当なのかを一度落ち着いて調べてみたくなります。実際、ヨークビル一帯にはかつて Potter’s Field(York General Burying Ground / Strangers’ Burying Ground) と呼ばれる墓地があり、19世紀前半から半ばにかけて多くの人が埋葬されていました。
ただし、SNSでよくある「高級住宅地の真下にいまも全員が眠っている」という言い切り方は、少し大袈裟な感じがしました。なぜなら、この墓地については「全員移された」とする資料と、「5,000人以上が残された可能性が高い」とする資料が、今も並存しているからです。いまトロントでは古い建物をバキバキ壊して高層マンションをあちこちで立てようとしているのを見かけます。そこで!この記事では、掘ったら・・・含めて、ヨークビルの地下にある歴史を整理してみたいと思います。
ヨークビルの地下にあった墓地とは
まず前提として、ヨークビルにかつて墓地があったのは事実です。CityNews によると、現在の Yonge と Bloor 周辺、特にヨークビル一帯には、1820年代に開かれた York General Burying Ground、通称 Potter’s Field がありました。これは当時の York(現在の Toronto)で最初の 非宗派墓地 とされ、英国国教会やカトリック系の墓地に入れなかった人々も埋葬される受け皿的な場所だったと説明されています。

Toronto市の考古学関連文書でも、この墓地は Potter’s Field / York General / Strangers Burial Ground として記録されており、現在の Mayfair Mews 付近から西、Bloor Street から北は Cumberland Street 近くまでの範囲に広がっていたとされています。つまり、現在のヨークビルの一等地のかなり広い範囲が、もともとは墓地だった可能性が高いということです。
Potter’s Field はどこにあったのか

この墓地は、いまの感覚でいうと「ヨークビルのど真ん中」と言ってよい場所にありました。Toronto市の考古学評価書では、Potter’s Field は Yonge と Bloor の北西側 から西へ広がり、現在の再開発エリアや商業地の一部に重なっているとされています。歴史的には当時の町外れに造られた墓地でしたが、都市が成長するにつれ、墓地の周りに住宅や商業施設が増え、やがて街の真ん中の墓地になっていきました。

ここがSNS投稿で「ヨークビルの地下に眠る人々」と表現される理由です。現在のヨークビルは、コンドミニアム、ブティック、カフェ、高級ホテルが集まる洗練されたエリアですが、その土地の歴史をさかのぼると、そこはかつて都市の外れにあった無宗派の墓地でした。高級街の風景と墓地の過去の落差が大きいぶん、この話は拡散されやすいのだと思います。

何人が埋葬されていたのか
埋葬者数については、おおむね 6,685人 という数字が繰り返し出てきます。Toronto市の考古学文書では、1826年の最初の埋葬から 1855年の閉鎖までに 約6,685人 がこの墓地に埋葬されたとされています。CityNews も同じ数字を紹介しており、30年足らずで 6,000人超が眠る大きな墓地になっていたことが分かります。
埋葬されたのは、宗派墓地に入れなかった人、貧しい人、旅の途中で亡くなった人、身元が曖昧な人など、当時の社会の周縁に置かれた人々も多かったとされます。CityNews の取材では、研究者が「どこにも属さない人たちのための“catch-all”の墓地だった」と説明しています。だからこそ、SNS画像にあった the poor, the unknown, and the forgottenという言い回しは、完全な作り話ではなく、この墓地の性格をかなりよく表しています。
「全員移された」のか、「まだ残っている」のか
ここが一番大事なポイントです。
この墓地については、資料によって結論が割れています。

Mount Pleasant Group の沿革ページでは、Potter’s Field は住民の圧力を受けて閉鎖され、埋葬されていた遺骨はすべて Toronto Necropolis か Mount Pleasant Cemetery (←グレングールドのお墓がある場所)に移された と説明されています。もしこれをそのまま読めば、「ヨークビルの地下に今も何千人も残っている」というSNSの語りは誇張だということになります。
ところが、Toronto市が公開している考古学評価書は、かなり違うことを書いています。この文書では、1855年に墓地が閉鎖された後、約25年にわたり遺族に改葬の機会が与えられたものの、実際に掘り起こされ移されたのは推定約1,000人だけ で、5,000人以上がそのまま残された としています。さらに20世紀の再開発では建設工事中に人骨が見つかっており、Toronto Historical Society の言葉として「技術的には今も 5,000人以上がそこに埋葬されている」と引用しています。
つまり、史料の世界では「全員移された」という整理と、「かなりの人数がそのまま残った可能性が高い」という整理が共存しています。記録は一致していないが、市の考古学資料は残存の可能性をかなり強く示している感じだと思います。
実際に人骨は見つかっているのか

この点については、少なくとも「工事中に人骨が見つかったことがある」という記述は複数あります。Toronto市の考古学評価書には、20世紀の商業開発で human remains were found during construction と明記されています。また CityNews でも、Necropolis と Mount Pleasant の移葬数を合計しても総埋葬数に届かないことから、「残りの人々はどこへ行ったのか」という疑問を紹介しています。
このため、いまもヨークビル周辺で大規模工事や地下工事をするときには、考古学的な注意が必要とされています。Toronto市の文書でも、旧 Potter’s Field の範囲にかかる場所では archaeological monitoring が重要だとされており、単なる都市伝説ではなく、都市計画・工事実務の上でも実際の注意事項になっています。
なぜこの話がいま面白いのか

この話が刺さるのは、単に「怖い歴史」だからではありません。
ヨークビルという、トロントでもっとも洗練された場所の一つが、じつは都市の初期における誰のための墓地だったかという話と結びついているからです。今のヨークビルは、高級不動産、ラグジュアリーブランド、ギャラリー、カフェ、ホテルが並ぶ街です。けれど、その足元には、宗派や階級からこぼれ落ちた人々が集められた墓地の歴史がある。街の価値が上がるにつれて土地は再開発され、墓地は閉鎖され、移葬記録は食い違い、そして一部の人々は記録からも風景からも消えていったかもしれない。この構図が、現代のヨークビルの華やかさと強く対比されるからこそ、SNSでも大きく広がるのだと思います。また、これはトロントらしい話でもあります。
この都市は、今ある街並みの下に、移民、貧困、病気、宗派対立、再開発の歴史が何層にも重なっています。ヨークビルの地下の墓地の話は、その象徴の一つです。観光地として歩くと見えにくいけれど、背景を知ると街の輪郭が一気に深くなる。
ヨークビルは買い物の街だけではない
ヨークビルは、買い物やホテル滞在、カフェ巡りだけでももちろん楽しいです。でも、こうした歴史を知って歩くと、同じ通りでも見え方が変わります。高級コンドの下に、かつて誰が眠っていたのか。再開発で消えたものは何か。残された石碑や、移された墓地の記録は何を語るのか。そういう視点でヨークビルを見ると、街は一気に背景のある場所になります。
トロント観光や視察では、どうしても「今あるもの」ばかりが注目されがちです。けれど、本当に面白いのは、今の街の下にある過去まで含めて歩いたときです。ヨークビルはその典型で、ラグジュアリーな外見の裏に、トロント初期の死生観や都市化の暴力性まで見えてくる場所でもあります。
まとめ
SNSの写真にある「ヨークビルの地下には忘れられた死者が眠っている」という話は、完全な作り話ではありません。Potter’s Field という墓地が実在し、6,685人規模の埋葬があり、再開発後も残存遺骨の可能性が市の考古学資料で示されているのは事実です。ですが一方で、すべて移されたとする資料もあり、史料上のズレがあるのも事実です。だからこそ、この話は都市伝説として消費するより、トロントの都市形成の複雑さを考える入口として読むのが面白いと思います。
トロントには、こうした「歩いているだけでは見えない歴史」がたくさんあります。ヨークビルのような有名エリアも、背景を知ると印象がまるで変わります。観光だけでなく、トロント視察や街の成り立ちを含めて深く知りたい方は、Toronto Kiki のトロントツアー・視察ガイドものぞいてみてください。表の華やかさだけでなく、街の奥行きまで含めてご案内しています。
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