ナイアガラの滝が止まった日|1848年に起きた40時間の沈黙
ナイアガラの滝を案内していると、ときどきお客様から聞かれる質問があります。
ナイアガラの滝の水って、止まったりしないんですか?
たしかに、あれだけの水が毎日落ち続けているのを見ると、逆に気になりますよね。冬は凍って見える日もありますし、夜や季節によって水量が変わるように感じることもあります。
先に結論から言うと、ナイアガラの滝は基本的には流れ続けています。ただし、記録に残る歴史の中で、過去に一度、自然現象によって大きく水が止まったことがありました。
ナイアガラの滝は止まるのか?1848年に起きた40時間の沈黙
1848年3月。ナイアガラの滝が、およそ30時間にわたって静まり返った日です。Niagara Parksも、1848年3月に約40時間、川の流れが止まり、住民が普段聞いていた轟音が消えたと紹介しています。
今回は、あまり日本語では語られていないこの出来事を、観光で見るナイアガラの景色と重ねながら、わかりやすくまとめます。
参考動画として、YouTubeではこちらが見やすいです。
The Day Niagara Falls Ran Dry
ナイアガラの滝は本当に止まったことがある
1848年3月、滝の音が消えた
1848年3月29日の未明、ナイアガラ周辺で信じられないことが起きました。
いつもなら遠くからでも聞こえる滝の轟音が、急に消えたのです。水しぶきも霧もほとんどなくなり、滝はいつもの姿ではなくなりました。
原因は、エリー湖から流れ込んだ大量の氷でした。
当時、冬の寒さでエリー湖には厚い氷が張っていました。その後、気温の変化や強い風の影響で氷が割れ、巨大な氷のかたまりがナイアガラ川の入口へ押し寄せます。そして、バッファローとフォートエリーのあたりで氷が詰まり、自然のダムのようになってしまったのです。The Exchange Niagara Fallsの歴史解説でも、1848年3月28日から29日にかけて強い東風が大量の氷をエリー湖から押し出し、ナイアガラ川の流れを約30時間せき止めたと説明されています。
今の感覚でいうと、トロントから車でナイアガラへ向かう途中、滝に近づいてもあの低い音が聞こえない。展望台に着いても霧が立っていない。そんな状態です。
これはかなり不気味だったと思います。
人々が歩けた

水が引いたことで、普段は絶対に見えない川底が姿を現しました。
当時の人々は、恐る恐るその川底へ降りていったそうです。中には、アメリカ側のゴート島方面へ歩いて渡った人もいたと記録されています。The Exchange Niagara Fallsによると、川底からは1812年戦争に関係すると考えられる銃剣や剣などの軍用品、木材なども見つかったとされています。
今のナイアガラを知っている人ほど、この話の不思議さが伝わると思います。
あの水量の下に川底があり、そこを人が歩いた。しかもそれが観光用の演出ではなく、自然現象として突然起きた。ガイド中にこの話をすると、ほとんどの方がえっ、そんなことあったんですか?という反応になります。
日本人でこの話を知っている方は、かなり少ないのではないでしょうか。
なぜ40時間で元に戻ったのか

氷のダムが崩れた
この水の停止は、永遠に続いたわけではありません。
氷がナイアガラ川の入口をふさいでいたために水が止まりましたが、風向きが変わるなどして氷の詰まりが崩れ、たまっていた水が再び流れ出しました。
そして、ナイアガラの滝はまた元のように流れ始めます。クリフトンヒルの解説でも、氷のダムが壊れると川の轟音が戻り、滝は再び流れを取り戻したと紹介されています。
想像すると、これも少し怖いです。
静まり返っていた川に、突然、水が戻ってくる。川底を歩いていた人たちは、いつ水が戻るかわからない場所にいたことになります。現代なら、おそらく立ち入り禁止になっていたはずです。
今は同じことが起きにくい理由
では、今後も同じようにナイアガラの滝が止まることはあるのでしょうか。
自然現象なので、断定はできません。ただ、1848年と同じような氷詰まりは起きにくくなっていると考えられています。
理由のひとつが、エリー湖とナイアガラ川の入口付近に設置されるアイスブームです。ナイアガラパークスは、1964年から氷による被害を抑えるためにアイスブームが使われていると説明しており、長さは約2.7kmと紹介しています。
簡単に言うと、冬に流れ出す氷をある程度コントロールして、ナイアガラ川へ一気に押し寄せないようにする仕組みです。
もちろん、自然相手なので絶対ではありません。でも、1848年のように大量の氷が一気に川をふさぐ可能性は、現在ではかなり低くなっていると見られています。
冬のナイアガラは凍って見えるけれど、実は流れている

写真で見る凍った滝の正体
冬のナイアガラの写真を見ると、滝が全部凍っているように見えることがあります。
白い氷、凍った手すり、霧が固まったような景色。私も真冬のナイアガラに行ったとき、あたり一面が氷の世界のようで、夏とはまったく違う迫力を感じました。
でも、実際には水が完全に止まっているわけではありません。
ナイアガラパークスも、ナイアガラの滝は見た目には凍っているように見えても、水は氷の下を流れ続けていると説明しています。
ここは観光で見に行く方にも、ぜひ知っておいてほしいポイントです。
冬のナイアガラは、滝が眠っているのではなく、氷の下で動き続けている。そう思って見ると、景色の見え方が少し変わります。
冬は水量が少なく見えることもある

もうひとつ、ナイアガラの水が少なく感じる理由があります。
それは、水力発電のために一部の水が別ルートへ送られていることです。ナイアガラパークスによると、冬はエリー湖からナイアガラ川へ流れる水のうち75%が発電用に迂回され、滝を流れる水量は冬で毎分約8,500万リットル、夏は毎分約1億7,000万リットルとされています。
数字が大きすぎてピンと来ないかもしれませんが、冬でも毎分8,500万リットルです。
家庭のお風呂を約200リットルとすると、1分間に何十万杯分もの水が落ちている計算になります。冬に少なく見えても、実際にはかなりの量が流れ続けています。
1969年には人工的にアメリカ滝が止められた

1848年とは別の出来事
ナイアガラの水が止まった話を調べると、もうひとつ有名な出来事が出てきます。
それが1969年のアメリカ滝の人工的な停止です。
ここで大切なのは、1848年とは違うということです。1848年は自然現象で、ホースシュー滝もアメリカ滝も大きく水が減りました。一方、1969年は工事と調査のために、アメリカ側のアメリカ滝の水を人工的に止めたケースです。
HISTORYによると、1969年には米国陸軍工兵隊の指揮のもと、約600フィートの仮締切堤を作り、2万8,000トン以上の岩を使って水をホースシュー滝側へ流したとされています。
つまり、カナダ側の大きなホースシュー滝は流れ続けていました。
なぜ止めたのか

目的は、アメリカ滝の崩落や岩の状態を調査するためでした。
アメリカ滝の下には、長い年月で崩れた岩が積み重なっていました。この岩を取り除くべきなのか、それとも自然のままにするべきなのか。専門家たちは、実際に水を止めて岩肌を調べる必要があったのです。
The Exchange Niagara Fallsによると、アメリカ滝は1969年6月12日から11月25日まで水が止められ、地質調査が行われました。
当時の写真を見ると、普段は水に隠れている岩肌がむき出しになっていて、まるで別の場所のようです。
ナイアガラの滝は自然そのものに見えますが、実は景観保護、発電、観光、安全管理など、いろいろな要素の上に成り立っています。そのことを知ると、目の前の滝が少し違って見えてきます。
1969年のアメリカ滝については、こちらの動画も参考になります。
Why Niagara Falls Was Turned Off
観光で見るナイアガラが、少し深くなる話
ただ大きいだけではない
ナイアガラの滝は、初めて見ると水量と音に圧倒されます。
でも、少し歴史を知ってから見ると、ただの大きな滝ではなくなります。
1848年には、氷によって40時間ほど静まり返った。1969年には、人の手でアメリカ滝が止められた。冬には凍って見えるけれど、水は流れている。季節や時間によって水量の見え方も変わる。
こういう背景を知っているだけで、展望台で立ち止まる時間が少し長くなります。
写真を撮るだけではなく、今この水がどこから来て、どう流れて、なぜ止まらないのか。そんなことを考えながら見るナイアガラも、なかなか面白いです。
お客様の質問から生まれる旅の深さ
今回のテーマも、もともとはお客様の質問からでした。
ナイアガラの水って止まらないんですか?
何気ない質問ですが、調べていくと、カナダとアメリカの地理、五大湖、冬の氷、発電、観光の歴史までつながっていきます。
こういう小さな疑問を拾いながら旅をすると、同じ場所でも見え方が変わります。ナイアガラの滝は、有名すぎる観光地だからこそ、知っているつもりになりがちです。でも実際には、まだまだ知らない話がたくさんあります。
まとめ

ナイアガラの滝は、基本的には今も流れ続けています。
ただし、1848年3月には、エリー湖から流れ込んだ大量の氷がナイアガラ川をふさぎ、約30時間にわたって滝の水が大きく止まったことがありました。その後、1969年にはアメリカ滝が人工的に止められ、地質調査が行われました。
冬に凍って見えるナイアガラも、水そのものが完全に止まっているわけではありません。氷の下では、今も水が流れ続けています。
次にナイアガラの滝を見に行くときは、ぜひこの話を思い出してみてください。あの轟音が消えた30時間を想像すると、目の前の水の音が少し特別に聞こえるかもしれません。
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