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世界で一番幸せだった二女の独白

アタシのパパ、エイモス・アイビーはとっても優しくて、賢くて、素敵な人だ。
パパはアタシたち三姉妹にとって世界の中心だったと思う。
少なくともアタシ、ナナリス・アイビーにとっては――

―――

昔のアタシには悪い癖があった。
二女、という立場が影響するのだろうか。何かと姉と妹と自分を比べてしまう、悪い癖だ。

お姉ちゃん、ジリウス・アイビーはとっても大らかで献身的な人だ。
何時も家族のことを考えてくれて、何かあれば体を張って家族を守ってくれる。
少しアタシたち妹に甘すぎだと思うこともあるが、アタシはそんなお姉ちゃんが大好きだ。

ニア、ニアリス・アイビーはアタシの可愛い妹だ。
ちょっと甘えん坊で、おしゃべりは得意じゃないけど、心に思ったことははっきり言える素直な子。
森での狩りや魔物との戦いでは普段と違う凛とした姿も見せてくれる。アタシはそんなニアが大好きだ。

それに比べてアタシはどうだろう。
お姉ちゃんのように大きな体も無ければ、力も強くない。
ニアのように機敏でなければ、狩りも上手くない。

性格もそうだ。
姉妹の二人は心根がはっきりしていて、気持ちがいい性格だ。

それに比べてアタシは性根が曲がっている、と言った方がいいだろう。
他人と触れ合うと心がむず痒くて、素直に言葉が出てこないのだ。
それが棘になって、口から吐き出される。
何時も言葉を口に出してから後悔する。
なんであんなことを言ったのか。そんなつもりじゃなかったのに。
これも悪い癖だ。
そんな自分のことを、アタシは何時も嫌っていた。

―――

思えば本を読んだり魔法の勉強を始めたのもその頃だった。

長い雨の日が続く季節に、パパの広げていた薬草の本を退屈しのぎに読み始めたのがきっかけだった。
森で見た草木と書物に載っている図解が一致した時の楽しさは、小さなころのアタシを夢中にさせるには十分だった。
そんなアタシを見て、パパはすぐに沢山の本をアタシに読ませてくれた。
簡単な草木の解説の本から始まり、薬学、鉱石、錬金術――本を読んで知識を得ることにアタシはのめり込んだ。

そして、知識を得たら実践に興味を持つのは自然な流れだった。
本に書いてあることをアタシもやってみたいと言うと、パパはすぐにその手解きをしてくれた。
薬の作り方、魔物の見分け方からカードを使った錬金術まで、沢山のことをパパに教わった。

魔法の勉強を始めたきっかけは、森で妖精が見えると言った時だった。
パパは目を丸くして驚いた後、妖精魔法のことを教えてくれた。

パパが魔法を使うところは見たことが無かったけれど、その教え方は熟練の魔法使いのように丁寧で知見に富んだものだった。
おかげでアタシはすぐに魔法を覚えて、妖精が何でも言う事を聞いてくれるようになった。
パパは謙遜して、本当の魔法使いに会ったら正しい魔法を学びなさい、と言ったけれど、アタシはパパより凄い魔法使いはいないと答えた。
何時ものようにパパは困ったように笑っていた。

―――

その日、アタシはパパに勉強を教えてもらっていた。
パパの出した問題に答えたアタシにパパは、ナナは賢いねと褒めてくれた。

きっと、その言葉で心に抱えらえる感情が限界を超えたのだろう。
褒めてもらえた嬉しさと、普段抱えていた劣等感や不甲斐なさが溢れ出して――アタシは泣いてしまった。

そんなアタシを、パパは困った顔も呆れた顔もせず、ただただ抱きしめてくれた。

パパは本当に優しい人だ。怒るどころか、声を荒げるところも見たことがない。
だからと言って、無関心でも放任でもない。アタシたちが間違ったことをした時にはまず心配して、これからどうすればいいか、どうしたいか根気よく話をしてくれた。
そんなパパだから、アタシはその胸の中で泣きながら思いの丈を、抱えているものを全部吐き出した。

アタシが落ち着いた後、パパはゆっくりと言葉を交わしてくれた。
無理に変わる必要はないこと、姉妹にはそれぞれ得意なことがあること、ナナはナナの得意なことで家族の力になって欲しいこと――
その会話のひとつひとつが、アタシの、心の救いだった。

―――

正直、アタシは昔とそんなに変わっていないと思う。

でも、それはパパの言葉に胡坐をかいているわけじゃない。

お姉ちゃんはちょっとお人好しなところがあるし、ニアは素直過ぎるからアタシが少し斜に構えているくらいがちょうどいいのだ。
二人は肉体労働担当で、アタシは頭脳労働担当。役割分担が出来た方が都合がいい。
姉妹でバランスが取れればよいのだと、割り切れるようになった。

姉と妹に変わらず小言を言うのも、妬み嫉みからじゃない。二人にもパパが誇れる素敵な娘になって欲しいからだ。

パパのおかげで、心が少しだけ変わった。
アタシは家族が大好きだと心から思えるようになった。恥ずかしいから、口には出さないけれど。

そんな素晴らしい父親と三姉妹で、幸せな日々を過ごし、明るい未来に向かっていくのだと、アタシは何の根拠もなく信じていたのだ。

―――

灰になった生家、いなくなってしまったパパ。
アタシたちの幸せが薄氷の上にあったことをこれでもかと思い知らされた。

悲しいのは当然だ。でも、アタシはパパに対して初めて怒りの感情を覚えていた。
パパがアタシたちの幸せを思って去っていったのは理解できる。
でも、納得できない。

もう一度、パパに会おう。
困っていること、抱えていること、全部話してもらおう。
家族でなら、解決できるはずだから。

絶対に、幸せな日々を取り戻す。
炎も、煙すら消し去った嵐の後で、アタシの心は熾火のように燃えていた――

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