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[企画参加作品]新幹線・花びら・レモンスカッシュ #せりふ三題噺

「ただいまー」

2Kのアパート。お世辞にも広いとはいえない玄関にはデカイ靴が3つ。
2つはあいつので、1つは俺のだ。

「なんだお前、まだいたの?」

リビングに向かって声をかけたが返事はない。
その代わり、マウスを動かす音とクリック音がひそかに聞こえてくる。
仕事かな?

俺は音を立てないようにすっとリビングに入り、ソファーに座ってパソコンを開いているあいつの背後に立った。
映されていたのは昔のアルバム。

「なんだよ、仕事じゃないじゃん。ってかやめろよそんな昔の写真」

画面には親が撮りためた写真が並んでいる。
こいつとは小学生のころからの付き合いで、いわゆる幼馴染というやつだ。

「ふふ、懐かしい」
「いや、そうだけど……」

流れていく写真を眺め、あいつがつぶやいた。

「あ、ってかお前、ちゃんと家行ってるか?」

話題を変えたくて声をかけるも、あいつは無言のままスクロールを続けている。
これは——行ってませんね。

「いや、行けって。車がダメでも、新幹線なら2時間かかんないじゃん」

こいつが車に乗れなくなったのは俺のせい。

2人で出かけたときに、こいつの運転で人身事故を起こしたからだ。

「いやね、正直お盆でもここにいてくれるのは嬉しいよ? でもさ、そろそろ帰ってやんなよ」

こいつが実家と疎遠になってるのも俺のせい。

こいつは俺が責任感じるのは違うって言うけど、どうしても気にかかる。
まぁ、俺もこの時期にここにいる時点で、人のこと言えないんだけど。

「ここ、綺麗だったな」

映されているのは花見の写真。
満開の桜の下、大学のサークルメンバーで撮った写真だ。

「綺麗だったけど、途中から急に風が強くなって大変だったじゃん」
「はは、飲み物に花びらめっちゃ入ってる」
「そうそう! 帰ってきてからも髪の毛の間にすげえ入ってて、2人で毛づくろいみたいにして取ったよな」

「――幸せだったな」
「ああ……」

言ってから、俺はなんだか気恥ずかしくなってコートの襟元をくっとあげた。
こいつに気づかれることはないだろうけど、恥ずかしいもんは恥ずかしい。

「あ、そうだ」
「え?」

パソコンをそのままに、あいつが急に立ち上がった。
おもむろにキッチンに向かうと、冷蔵庫を開けてタッパーを取り出す。

「なんだ? どうした?」

中にはレモンのはちみつ漬け。
運動部だった俺に、よく差し入れてくれた懐かしの一品だ。
それをグラスに入れて炭酸で割る。

「お前これ好きだったよな」
「お、俺の分も作ってくれたんだ」

手にしたグラスの一つを置いたのは、棚にある俺の写真の前。
置いたグラスに自分のグラスを軽く当てると、あいつはまたソファーに戻って写真の続きを見始めた。

「ありがとな」

俺は棚の上で胡坐をかき、自分の遺影と大好きな自家製レモンスカッシュ越しに、あいつに礼を言った。

今年もまた、短い夏が過ぎてゆく。


お読みいただきありがとうございます。
こちらの企画に参加させていただきました。
今回初参戦です!
主催者様、ありがとうございます。


〜追記? 反芻? 蛇足?〜
【あとがき】

ずっと気になっていた企画に、ついに参加させていただきました。
他の方が取り組んでいられるものをよく読ませていただくのですが、セリフとお題が決まっていると縛られていそうでいて、使い方にすごく個性が出て面白いですね。
縛られているからこそ見つけられる自分らしさ、あると思います。

私も見つけていきたいです。


最後までお読みいただきありがとうございました。
またお会いできることを楽しみにしています。

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足木元 望睦 読んでくださりありがとうございます。 応援いただけたら嬉しいです。