気持ちをその場で言葉にできない。
お店で予約していたノートを受け取りに行った。
店員さんがカウンター越しに、こちらでよろしいですか、と差し出してくれた瞬間。
その2冊が、ネットで見ていた写真よりもさらに素敵で、心が弾んだ。
わあ、かわいい!と心の中で思った。
でも、その気持ちは言葉にならなかった。
「わあ、かわいいですね」と言えばいいだけなのに、その一言を口に出す場面を想像すると、固まってしまった。
美容院でも、似たようなことがよくある。
あ、このシャンプー、ライチの香りに似ててとってもオシャレだなと気づいたり、
この人のマッサージ上手だな、すごく気持ちいいなと感じたりする。
ちゃんと受け取ってはいるつもりなのに、それを声に出して相手に返すところまでは至れない。
飲食店でも同じ。
メニュー全部おいしかったな、また来たいな、と思いながら会計をして、
挨拶代わりの「ごちそうさまでした」だけ言って店を出ることがほとんどになってしまう。
本当は「おいしかったです!!」と思っている。
言えない理由が明確にあるわけではない。
むしろ伝えたほうが、空気が和んだり喜んでもらえるかも。
でも、なぜか言えない。
家族や親しい友人には不思議とすぐ言える。
これ可愛いねとか、それおいしそうとか、シャンプー気持ちよかったよとか、その場の感覚や記憶をちゃんと共有できる。
でも、お店の人や、ほぼ初対面の人、関係の浅い人の前では、同じ感想が急に重たく感じられる。
当たり前だけれど、これはやっぱり恥ずかしさなんだと思う。
気持ちを見せることへの抵抗のようなもの。
お店の人は、プロとして商品や技術を提供して、わたしは客として受け取る。
役割の中でやりとりをしている。
その境界線は、普段はとても分かりやすい。
でも、「これが好きです」とか「とても気持ちよかった」という個人的な熱量がのった言葉を出すと、
急に客という立場から、ただのわたしに戻ってしまう気がする。
心の中の無防備なところを見せるのは、役割の境界線を少し踏み越える行為に思える。
それが落ち着かなくて恥ずかしいのだ、きっと。
ちなみに「今日は暑いですね~」は全然言える。
個人的な感覚というより、みんな共有している前提の感覚だからだと思う。
時には、こんな面倒くさい自分のことを考えてみるのも面白い。
でも、もっと心の中の熱量をさらっと外に出せたほうが、人生は楽しくなるんだろう。
臆病さを乗り越えて、もう少しだけ素直に言葉にできるといいな。
