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なぜ靴下は「リブ」が多いのか?— 靴下を変えた二つの発明

こんにちは。
靴下工房Toréを運営しているアクルです。
これまで大手アパレルOEMの現場で、中国工場と一緒に数百万足の靴下を作ってきました。

このnoteでは、その経験をもとに、普段あまり意識されない靴下の仕組みをできるだけ分かりやすく書いています。

靴下はとても地味な存在ですが、
実は「身体」「工業」「ファッション」が交差する、なかなか奥の深い世界です。
今回はその中でも、靴下を見ると必ず目に入るリブ編みの話を書いてみたいと思います。

ビジネスソックスの多くが、縦に溝のある編み地――
いわゆるリブ編みで作られていることです。

もちろん靴下は、平らな編み地でも作れます。
それでも、なぜここまでリブが定番として残ってきたのでしょう。
これは単なるデザインなのでしょうか。
それとも、もう少し構造的な理由があるのでしょうか。

私は長く靴下を作る仕事をしていますが、この理由は一つではないと思っています。

むしろ、
身体
技術
歴史
文化

いくつかの要素が重なって、今の形が残っているのではないか。
そんなふうに考えています。


靴下は「足と靴の間」にある

まず前提として、靴下の役割を考えてみます。

靴下は服の一種ではありますが、
実は他の服とは少し違う位置にあります。

身体

靴下

つまり靴下は、足と靴の間にある層です。
ここで起きていることは主に三つ。

摩擦
湿度
圧力

歩くたびに靴の中では摩擦が起き、足は汗をかき、体重がかかります。

靴下は、この環境の中で足を保護し、靴の中の状態を整える役割を持っています。


リブ編みという構造


よくあるリブのくつした

ここでリブ編みを見てみます。
リブ編みは、縦方向に畝(うね)がある編み地です。

この構造の特徴は、横方向に開きやすいことです。

編み地の中で
表編み(knit)
裏編み(purl)
が交互に配置され、その畝が開閉することで生地が広がります。

足首

ふくらはぎ

足の形は人によってかなり違います。
リブ編みの生地は、この違いに自然に対応します。
畝が開き、脚の形に沿って生地が広がるのです。
つまりリブは、見た目の装飾というよりも、フィット性を作る構造と言えそうです。


靴下を変えた二つの技術

ここで、靴下の歴史を少し振り返ってみます。
靴下の形は、ファッションだけで決まっているわけではありません。
むしろ大きく影響しているのは工業技術です。

特に重要だったと思われるものが二つあります。
ダブルシリンダー編み機
弾性糸(カバーヤーン)
です。


ダブルシリンダー編み機

ダブルシリンダー(よくわからない)

現在の靴下は、専用の丸編み機で作られます。
円筒状に並んだ針が回転しながら糸を編み、筒状の生地を作る機械です。

この靴下編み機には、大きく二つの構造があります。

シングルシリンダー
針が一列の構造で、主に平編みを作ります。
ダブルシリンダー
上下二列の針が向かい合う構造で、リブ編みを作ることができます。

リブは単なる編み方ではなく、機械構造と結びついた編地です。
ダブルシリンダー編み機の登場によって、足首にフィットするリブ構造の靴下を工業的に作りやすくなりました。

リブ靴下が広がった背景には、こうした機械の進化があったのかもしれません。


弾性糸という発明

カバーヤーンはほんとうに大発明

しかし、リブ編みだけでは靴下の問題は完全には解決しませんでした。

昔の靴下は、履いているうちにだんだん下がってくることがありました。

綿やウールは、思っているほど強い弾性を持っていません。
伸びることはあっても、元に戻る力はそれほど強くないのです。

ここで登場するのが、
ポリウレタンを芯にした弾性糸です。

この糸は、ポリウレタンを中心に置き、その外側をポリエステルなどの糸で包んだ構造をしています。

いわゆるカバーヤーンと呼ばれる糸です。

この糸を靴下の裏糸として編み込むと、
伸びて
戻る
という性質が生まれます。


リブと弾性糸の組み合わせ

ここでリブ編みの特徴を思い出します。

リブ編みは横に開く構造です。

そこに、戻る力を持つ弾性糸が加わると、
伸びて
戻り
足に沿う
という動きが生まれます。

つまり靴下は、足に密着する装置になります。
リブ構造と弾性糸は、とても相性のいい組み合わせだったのです。


そしてファッション

ここまでの話は、機能や技術の話でした。

しかし靴下は、同時に服でもあります。
つまり文化の影響も受けます。

紳士服の世界では、派手な装飾はあまり好まれません。
その代わり重視されるのは、
素材
織り
質感
です。

リブ編みの靴下は、遠くから見ると無地に見えますが、
近くで見ると縦の陰影があります。
この控えめな立体感は、紳士服の美意識と相性がよかったのかもしれません。

英国の老舗靴下メーカー
Pantherella
の靴下にも、リブ編みは多く見られます。

英国紳士

なぜレディースは違うのか

ここで一つ、逆の疑問が出てきます。

男性用の靴下はリブが多い。
しかしレディースを見ると、平編みの靴下も多く見られます。
これはなぜでしょう。

一つは、装飾性です。
女性向けの靴下は、色や柄、透け感など、見た目の表現が重視されることがあります。
平編みのほうが、模様を表現しやすい場合もあります。

もう一つは、靴の違いです。
パンプスなどの華奢な靴では、厚みのある靴下は履きにくい。
そのため、薄く滑らかな編み地が好まれることもあります。

つまり
メンズ靴下は機能の影響が大きく、
レディース靴下は見え方の影響も大きい。
そんな違いがあるのかもしれません。


靴下はデザインではなく構造かもしれない

こうして整理してみると、リブ靴下は単なるデザインではないように見えてきます。

身体
機械
素材
歴史
文化

いろいろな要素が重なって、今の形が残っている。

つまりリブは、
デザインではなく
構造の結果

なのかもしれません。

靴下は小さな道具ですが、その形には身体と技術の歴史が刻まれている。
そんなふうに考えながら靴下を見ると、少しだけ面白く見えてくる気がします。

いかがだったでしょうか。
普段、靴下の編み方まで気にすることはあまりないと思います。
ただ、こうして見てみると小さな靴下の形の中にも、いろいろなものが重なっています。

もし次に靴下を選ぶとき、少しだけ編み地を見てみたり、
「この靴下はどんな設計なんだろう」
そんなふうに考えるきっかけになれば嬉しいです。

地味な存在の靴下ですが、少しでも楽しんでいただけたらと思います。

靴下工房Toréでは、
「派手ではないけれど毎日履ける靴下」をテーマに、そんな設計をこれからも続けていきます。

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