[はじめてのnote]白Tには定番があるのに、なぜ靴下にはないのか? 私が「たかが靴下」に一人で人生を懸ける理由
はじめまして。 靴下・肌着の専門家として『Toré(トレ)』というブランドを運営している、アクルと申します。
世の中には、白Tシャツやデニムなら「誰もが知る決定的な定番」があるのに、なぜか靴下にはないように思われます。
私はこの謎に魅せられ、地方で「一人ぼっちの靴下メーカー」をやっています。
今回は初めてのnoteということで、かつてはとある不動産大手の会社員だった私が、なぜ一人で「たかが靴下」に人生を懸けることになったのか。その泥臭い裏側をお話しさせてください。
■ 最高の企画は、すべて奪われていく
私はもともと、不動産賃貸仲介の大手企業で働いていました。在庫を持たないビジネスモデルの中で、がむしゃらに働き、ビジネスの骨組みを学びました。
その後、ご縁があって地方の小さなアパレルメーカーへ。
小さな会社だからこそ、企画開発、製造、物流、販売まで、何でも自分でやらなければなりませんでした。でも、それが良かった。良いと思えるものを作って売ることには、かつて好きだった音楽づくりにも似た「シンプルな喜び」がありました。
大手企業向けのOEM(受託製造)開発。 巨大な相手と戦う感覚の中、たくさんのアイデアを出し、とてつもない量の納品をこなしました。
しかし、そこで私は「OEM市場の冷酷な現実」を知ることになります。
どれだけ魂を込めてミリ単位で設計し、最高の企画を出しても、完成した商品は他社のブランド名で売られていく。
結局、自分の企画ではないのです。 自分だけが頭を悩ませ、血肉を削って考えたものなのに。
それが、言い知れぬ悔しさでした。
■ 黒字倒産の恐怖と、SPA(製造小売)への決意
その後、私は独立しました。
在庫を持たないOEM受託なら、一人でも生きていける。そう思っていた矢先、メーカー時代から付き合いのある老舗企業から、奇跡的な連絡が入ります。
誰もが取引したい老舗企業。口座を開けるだけでも難しい相手です。 しかしそれは、私がずっと避けてきた「在庫を持つ」ビジネスでした。
作るべき商品、売れる商品は分かっている。企画の迷いはありませんでした。 はじめて融資を受け、在庫を抱え、そこから「黒字倒産の恐怖」にさいなまれる日々が始まりました。
それでも、自分の名前が入り、自分の商品として大きなお店に並ぶのを見たときは、言葉にできないほど嬉しかったのを覚えています。
ただ、卸先が一社だけでは、いつ切られるか分からない。BtoB(企業間取引)は、決して自由ではないのです。
「商流の両端を、自分で掴まなければならない」
自分で作って、自分で直接お客様に売る。 SPA(製造小売)のモデルを一人でやらなければ、未来はないと悟りました。
大ロットの壁は、工場で無理を聞いてくれる仲間が助けてくれました。 物流の壁は、場所を貸してくれた知り合いの社長が。 デザインの壁は、昔からのデザイナーが。 そして、一人の限界は「AI」を駆使することで突破できました。
こうして、極小規模な「一人靴下メーカー」が成立したのです。
■ 「匿名の消耗品」は人生だった
Amazonなどで靴下をリサーチしていく中で、見えない部分で手を抜いた粗悪なものを山ほど見ました。分からない、といえばそうなのですが…
日本には、トヨタ、サイゼリヤ、ドン・キホーテ、無印良品など、「低価格・高品質」という二律背反に挑み続けてきた偉大な歴史があります。 安くて良いもの。それは日本人の文化的本質であり、心意気です。
本来、それは大企業の仕事です。
だが、自分にできることは、結局なんなのか…
毎日消費され、だれも気に留めない「靴下」という匿名の存在。
思えば就職氷河期に生まれ、抜き差しならない状況の中で流されながらも、「少しでもマシになろう」ともがいて生きてきた自分の人生が、「たかが靴下」と重なります。
すぐに忘れられるような
どうでもいいような
そうでもないような
誰にも相手にされないような
わずかでも誰かの役に立っているような
それが、『Toré(トレ)』の萌芽でした。
■ 足元を支えて、上を向く
『Toré』という名前には、言語の枠を超えた意味を込めています。
フランス語やラテン語のニュアンスで、「編む・撚る・整える」。
英語の「tor-」にあるような、「ねじる・力をかける」。
靴下は「撚り」と「編み」の結晶です。撚って、編んで、強くする。
また、日本語の「通れ」「取れ」。
足は通るためにあり、何かを掴み取るためにある。
靴下はその通行のための装備です。
そして、「to re-(再構築)」。
もう一度やり直す、向かう。何を? 生きていくことを。
最後の「é」は、右上がりのアクセント記号です。
違いは、わずかでいい。
ほんの少しの設計の差が、毎日を変える。足元を支えて、上を向く。
■ たかが靴下。されど靴下。
未来がどうなるか考えることは無意味であると、これまでの人生を振り返っても明らかです。 ですが今はこれに取り組んでいます。
感動するほど良くもないが、取り立てて悪くもない。 誰もが毎日気兼ねなく履ける「中間品質×中間価格」のマスターピースを目指して。
1mmの設計改良
0.1%の耐久改善
1人との信頼関係
1回の検品
こういったことを、今日もシンプルに積み上げていきます。 数十年後、それが究極の定番になるかもしれない。それは誰にも分かりません。
たかが靴下。されど靴下。
もしよろしければ、この一人ぼっちの靴下メーカーの探求にしばしお付き合いください。
▼ 『Toré』の靴下はこちらにひっそり置いてあります https://linktr.ee/toresockatelier
