【イベントレポート】「人と人とのコミュニケーションに関する感性を磨く」文化の壁を超える柔軟な思考の重要性とは
こんにちは!TORAIZ|トライズ公式note編集部です。
TORAIZでは、24時間ニュース専門局CNNの素材をもとに英語力向上を目的とした学習誌『CNN English Express』と共催で、会議・放送通訳者として第一線で活躍する新崎隆子氏をお招きし「通訳と異文化コミュニケーション」と題したイベントを2025年3月8日に開催しました。

通訳と異文化コミュニケーション
第2弾となる今回は、新崎氏の通訳者としてのこれまでのキャリアに加え、言語だけでなく文化的背景の理解の必要性についてお話しいただきました。講演後には、『CNN English Express』読者の方々や英語コーチングスクールTORAIZの受講生・修了生からなる参加者のみなさんでワークショップを行い、価値観の多様性について議論しました。
このnoteでは、当日のご講演内容からハイライトをお届けします。
言葉の向こう側にあるもの
「言語の機械的な置き換えだけでコミュニケーションは成立しません」と新崎氏。言葉を単に翻訳するだけでは、真の意味は伝わりません。人は、「文化的枠組み」のなかでこれはどういう意味づけになるかと理解して反応するからです。
例えば、お土産にお煎餅を持ってきたという行為。喜ぶ人もいれば、お煎餅は割れるから縁起が悪い、と考えるカルチャーもあります。このように、ひとつの行為や言葉の意味づけは、文化的背景が関わっています。
これが異文化となると非常に難しい。好意が、好意として伝わらない可能性もあるということです。異文化間のコミュニケーションでは、単に言葉を置き換えるだけでなく、相手の文化的背景を理解し、適切な表現を選ぶ必要があります。
東洋と西洋の思考の違い
英語学習者は、「英語」にすごく関心があります。「言語」に関心があるわけです。しかし、「コミュニケーションスタイル」にまで関心がある人はそんなに多くありません。

出典:リチャード・E・ニスベット
『木を見る西洋人 森を見る東洋人思考の違いはいかにして生まれるか』
これは、東洋人と西洋人の思考の違いを示す興味深い例です。リチャード・E・ニスベットの著書によると、ある実験で参加者に花のグループ分けを依頼したところ、東洋人と西洋人で異なる傾向が見られたといいます。
中央にあるターゲットと書かれた花がどちらのグループに属すると思うかを質問すると、一般に、日本人、韓国人、中国人ら東洋人はグループ1に属するという答えを多く出す。そして、西洋人はグループ2に属するという答えが多いそうです。
グループ1を選ぶ人は、ターゲットの花には葉っぱがあり、全体的に丸い花が多いからと考える。
一方、グループ2を選ぶ人は、ターゲットの花に描かれている茎とグループ2の茎が全部同じだからと考える。
どういうアプローチの違いがあるのでしょうか。
東洋の考え方は全体像、西洋は分析的にものを見る傾向があるということです。もし西洋の方と接していて、なんかしっくりこないと感じることがあったとしたら、こういうことろにも原因があるのかもしれません。
コミュニケーションスタイルの違い
日本語と英語のコミュニケーションスタイルには、大きな違いがあります。今日はそのなかから、頭に入れておくべき3つをお話しします。
1. 個人主義 vs. 集団主義
アメリカの人たちと日本の人たちを比べたときに、「個人主義」と「集団主義」という文化的な特徴、文化的な価値観の違いがあります。
文化の違い―価値観・態度

個人主義というのは、「私あっての他者」、独立した自己をいう考え方です。それに対して集団主義は「みなさんあっての私」という文化的な、社会の成り立ちがあります。
文化的な価値観の違いの一例として、アメリカの人たちの人間関係は一緒に共有しているしている間はものすごく濃密でも、それが終わったらあっさりという感じだそうです。ですが日本人はどこかで仲良くなると、「これをご縁に末永く」などと言いますね。長期的な人間関係を期待すると言われています。これだけ人との関わり合いに対する考え方、態度が違います。
2. Low Context vs. High Context
通訳者泣かせなのが、「ローコンテクスト」か、「ハイコンテクスト」か。これはものすごく大事です。
ローコンテクスト:
コンテクストに頼らない。きちんとなんでもはっきり言う。
そうでないとわかってもらえないという基本的な考え方。
ハイコンテクスト:
コンテクストに依存する。みんな言わなくてもわかってくれる。
察しの文化。
日本語は「ハイコンテクスト」な言語とされ、多くの情報が文脈に依存しています。たとえば、「今朝起きたら、お腹が痛かったの」と話した場合、誰のお腹が痛かったのかを一言も言わなくても、話し手のお腹だとみんなが理解できます。
一方、英語は「ローコンテクスト」な言語で、情報をより明示的に伝える必要があります。
英語を話す際に、言葉は英語なのだけど、ハイコンテクストで話していませんか?英語話者は基本的にローコンテクストだということを頭に入れておかないと、何を言っているのかわからないということになるため、これはとても重要な点です。
3. 話し手責任 vs. 聞き手責任
最後に、メッセージ伝達の責任についてです。これもとても大事です。
話し手責任:
メッセージが伝わらなかったのは、きちんと話さなかったから。
聞き手責任:
メッセージが伝わらなかったのは、しっかりと聞いていなかったから。
日本は一般に「聞き手責任」です。ですが、英語圏の教育では、小学生のときからきちんと話さなくてはいけません。相手が理解できなかったらそれは、話し手であるあなたの責任であるという教育を受けています。
英語を聞いているときに聞き取れないと、日本人は「まだ自分の実力が足りない」などと、自分を責めてしまいがちです。それは「聞き手責任」だからです。ですが、気にすることなく聞き返すことをおすすめします。「話し手責任」の文化をもつ英語話者は気を悪くすることもなく「あ、ごめんね。ちょっと言い方が悪かったね」と返してくれます。ぜひ、固まっていないで聞き返してみてください。
「話す」というコミュニケーションスタイルひとつを取っても文化差があります。英語話者といっても、英語がネイティブの国にはアメリカ、イギリス、ニュージーランド等色々ありますので、そのなかにも文化差はあります。個人差もあるし、必ずしもすべてに当てはまるわけではありませんが、英語を話す際はこれらを意識してみてください。
文化の島
Carter,J.が提唱した「文化の島」という考え方があります。
文化には「見える部分:objective culture」と「見えない部分:subjective culture」があるということです。

私たちが見える部分には、相手の話す言葉、相手の行動があります。ですが、なぜそういう行動をとるのか、なぜそういう言い方をするのかは基本的に見えません。そのため、見える部分だけで判断せず、見える部分に何か疑問があったとしたら、その下に何か文化的な背景があるかもしれないという風に考えることは、コミュニケーションの役に立つかもしれません。
柔軟な思考の重要性
講演後の会場では、参加者がグループにわかれて「ドナとペーターの物語」というワークショップを通じて、自分の価値観や判断基準を再考する機会を得ました。

「この課題には正解がありません。このワークショップの目的は、それぞれの立場や考え方を聞いて、『そうか、こういう風にも考えられるな』という発想の転換をすることです」と新崎氏は解説します。
異なる文化背景を持つ人々とコミュニケーションを取る際には、自分の価値観や判断基準が絶対的なものではないことを認識し、相手の視点を理解しようとする姿勢が重要です。
真のコミュニケーションを目指して
「人と人とのコミュニケーションに関する感性を磨くことが大切です」と新崎氏は語ります。異文化コミュニケーションは、必ずしも国際的な場面だけでなく、日常生活の中でも重要な役割を果たします。
例えば、世代間や地域間、さらには企業文化の違いなど、私たちは日々さまざまな「文化の違い」に直面しています。これらの違いを理解し、尊重することで、より円滑なコミュニケーションが可能になります。
新崎氏は最後に、「自分の文化の枠組みを当てはめて相手を判断するのではなく、相手の文化的背景を理解しようと努めることが大切です」と締めくくりました。
真のコミュニケーションは、言葉の向こう側にある文化や価値観を理解し、柔軟な思考を持つことから始まります。グローバル化が進む現代社会において、この視点はますます重要性を増していることを実感したイベントとなりました。
講師プロフィール

新崎 隆子(しんざき りゅうこ) 氏
神戸大学文学部卒業。青山学院大学大学院国際政治経済学研究科博士課程修了(国際コミュニケーション)。
公立高校の英語教員を務めたのち、国際会議や NHK 放送で通訳者として活躍。東京外国語大学や青山学院大学でも教鞭を執る。
『通訳席から世界が見える』(自著)、『英語スピーキング・クリニック』(共著)、『最強の英語リスニング実践ドリル』(共著)など著書多数。
TORAIZ語学研究所顧問。
