林浩治「在日朝鮮人作家列伝」10 張赫宙と金史良(その13/最終回)
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張赫宙と金史良──在日朝鮮人文学の嚆矢(その13)
13 張赫宙と金史良
張赫宙とも金史良とも親しかった保高徳蔵は、両者の印象をこう言っている。
張君もその頃は朝鮮民族の苦しみや悩みを描いた作品を幾つか書いたが、途中でその方向が変わった。これは張君にしては止むを得ないことであるかも知れないが、その点、金史良君は作家として純粋な一と筋の道を歩いてゐたと思ふ。

(岡山市 坪田文庫に要申請)
やむを得なかったのは金史良とて同じだったに違いない。この稿を執筆するにあたって両者の作品を少なからず再読して思った。
張赫宙は本気だったのではないか。朝鮮民族の思想的遅れを思い、日本を漠然と大事に思い、「内鮮一体」を信じ、民族を放棄して人類同一的価値観を確立したかったのかも知れない。
日本帝国の暴力に圧倒されて親日的執筆をせざるを得なかったのは金史良で、張赫宙はゆっくりと後退しながらも、そのときどきの自分の心に忠実に書いていたのではなかったか。
金史良は政治に翻弄された。戦中には自由に書けなかったが、果たして解放後の執筆が自由だったろうか。金史良はアメリカで小説を書きたかったが、アメリカに行くことはできなかった。
張赫宙は妥協して自己欺瞞したかも知れないが兎に角生き延びて、晩年は世界を歩き英語でも執筆した。
(了)
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◆参考資料
*本文の著作権は、著者(林浩治さん)に、版権はけいこう舎にあります。
◆著者プロフィール
林浩治(はやし・こうじ)
文芸評論家。1956年埼玉県生まれ。元新日本文学会会員。
著書に『在日朝鮮人日本語文学論』(1991年、新幹社)、『戦後非日文学論』(1997年、同)、『まにまに』(2001年、新日本文学会出版部)。『在日朝鮮人文学 反定立の文学を越えて』(新幹社、2019年11月刊)は、図書新聞などメディアでとりあげられ好評を博す。
そのほか、論文多数。
2011年より続けている「愚銀のブログ」http://kghayashi.cocolog-nifty.com/blog/は宝の蔵!
